第11話 怪我の治療


「フォノン、右手の布を解いてもいいか?」


「はい、大丈夫です」


許可を得てゆっくりと布を解いていく。火傷の痕はもう既に硬くなっており、自然治癒が無理なことは分かった。指の辺りから肘の上まで広い範囲に痕があり、これは普通に動かすことは無理だろうな。覚悟を決めるか。


「少し長くなるかもしれないのでベッドに横になってくれるか」


「はい、これでいいですか?」


「ああ、そのままで」


まだ回復魔法は☆0で効果は高くない。なので効果を高める工夫をしないといけない。俺が考える効果を高める方法としては、並列で何重にも魔法を重ねることと、範囲を狭めて集中させることだ。そしてこの重傷な火傷の状態から、表皮だけでなくその下のほうまでヒールを浸透させること。


フォノンの右手を見て範囲を絞ってから、ヒールを発動していく。順番にどんどん魔法を発動させながらイメージは皮膚の奥のほうまで浸透するように光を当てていく。

これまでに無いぐらい俺の中から魔力が消費されていく感じがした。それでも、それぞれの魔法にどんどん魔力を注いでいく。凄い数を並列で動かしている関係で頭がキリキリしている。

ヒールの多重起動のおかげで周辺は光溢れていて、フォノンの姿も確認できないぐらいになっていた。

その状態をどれぐらい続けていただろうか、急に体に力が入らなくなり意識を失った。



目を開くと、目の前にエレノアとフォノンの顔が見えた。


「シオン様大丈夫ですか?」


「主さま」


そうか。フォノンの火傷の治療をしてて意識を失ったか。


「大丈夫だ。ただの魔力欠乏だろう」


バグってると思ってた俺の魔力量にも限界はあったんだな。てっきり俺の魔力量には限界がないと思ってたんだが。限界があるなら 、魔力強化と同様に魔力回復速度向上も取得しておくかな。ただ両方とも、これに近いぐらいに魔力を使わないと熟練度は上がりそうにないけどな。


「フォノン、一応回復魔法を試してみたが、どんな感じだった?」


そう言いながらフォノンの右手を見てみると、手首から指先までの火傷の痕が消えていた。


「はい、見てください。私の手こんなに綺麗に治っちゃいました」


フォノンは目を輝かせながら笑って手をこちらに出してきた。


「良かった。出来るんじゃないかとは思ってはいたが確証は無かったからな」


「シオン様、まだお体がきついのではないですか?」


エレノアはさっきから心配そうに見つめてきていたが、心配性だな。


「魔力が完全に戻ってないから少しはだるいな。さすがに連続して治療は無理だな」


「少しお眠りになられてはいかがですか? 夕食の時間になればお起こしします」


「ああ、そうさせて貰うか。エレノアから今までどんな事してたとかフォノンに教えてやって貰えるか?」


「はい。先程もフォノンとは少し話しておりました」


「そうか。じゃあ任せる。フォノンもエレノアに話を聞いてくれ」


「はい。おやすみなさい。主さま」


「おやすみなさいませ。シオン様」



◇ ◇ ◇



「シオン様、そろそろ夕食の時間です」


エレノアに体を少し揺すられながら声を掛けられた。


「寝たおかげで魔力がだいぶん回復した感じがする」


「食事はどうしましょう? 頼めば部屋まで持ってきて貰えるそうですが」


「そうなのか。エレノアが聞いてくれたのか?」


「はい。フォノンの事もあるので先程聞きに行って参りました」


フォノンも下では食べにくいだろうしな。


「エレノアさん。私一人でも食べられますよ」


「まだ右手全てが治ったわけではないから難しいと思うわ。治るまでは私に補助を任せて」


「ありがとう。エレノアさん」


夕食は部屋に運んでもらって食べ終わった。フォノンがエレノアから食べさせてもらってるのを見て、特に問題もなく一緒にやっていけそうで安心した。



先に色々済ませることにした。気を失ってもいいように。

まずみんなにクリーンを掛けて綺麗にして、明日の予定を話した。


「明日はフォノンの冒険者登録をしてから外に出て鍛錬を行う。フォノンはまだ完治してないから軽くになるとは思うが」


「はい。頑張ります」


「この後だが、俺は再度フォノンの治療をするので気を失うと思う。なのでエレノアとフォノンは適当に生活魔法の鍛錬をしてから寝てくれていい。無理をする必要はない。エレノアはフォノンに教えてやってくれ」


「分かりました」


「はい」


フォノンにベッドに横になってもらってから、さっきの要領でヒールを掛けていく。また頭がキリキリと音を出しそうなほど酷使しているが、並列思考★1でこの状態だから、かなり無理しているんだろう。暫くすると、電池が切れたように気を失った。


次に目が覚めた時は、部屋は真っ暗だった。

どうやらベッドに寝ているようだが、俺の両側に人がいる感触があるのでエレノアとフォノンだろう。さすがに一つのベッドに3人は多い気もするが今更だ。

今起きたところで何もできないので二度寝することに決めた。




朝の暗いうちから目が覚めたが、両腕が固められていて動けそうもない。天井に少し暗めにライトをつけるとエレノアがこちらを見てきた。


「おはようございます。シオン様」


「おはよう。エレノア」


なんだかじ~と見られている気がしたので抱き寄せてから口づけを交わす。離れてから見てみると、エレノアは微笑んで、こちらを見ていた。


「あ~、フォノンはまだ寝ているようだな」


「そうですね。怪我が治ることが分かって、今まで張り詰めていたものが弛んだのかもしれませんね」


ああ、確かに。今まで両手が不自由なまま生きて行くことを覚悟していたんだろうけど、怪我が治る可能性が出てきて安心しただろうしな。


「まあ、そろそろ朝だから起こすか」


「はい」


エレノアが手を伸ばしてフォノンを揺する。


「フォノン、もう朝ですよ」


そう声を掛けられると、フォノンの目がパチっと開いた。


「はっ。遅れました。おはようございます。主さま。エレノアさん」


「おはよう。フォノン」


「おはようございます。フォノン」



まずは朝食食べ終わってから冒険者ギルドだな。リグルドの話だと10日後に更に紹介したい奴隷がいるみたいだから、それまでは3人で鍛錬だ。4人揃ったらサムソンに教えてもらった魔力溜まりの湖に行きたいところだ。

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