第10話 フォノン


紹介された女性奴隷の両腕を見ながら、リグルドに説明を求める。


「彼女の両腕は・・・」


「ええ、両腕に火傷を負っており、いささか動かすのに苦労するそうです」


火傷か。見た感じ少しというより重傷のように見えるんだが、そもそも冒険者パーティのメンバーが欲しくてきたんだけどな。


「もしかして直感スキルですか?」


「はい。ご明察の通りでございます。シオン様をお見掛けしたときに直感スキルが働いたのですが、その時彼女の姿が思い浮かんだのです」


それは分かったけど、そもそも重傷の彼女を引き取ったのはどうしてなんだ?


「いくら奴隷とは言え、普通は両腕を負傷した人を引き取ったりしないんじゃないですか? 商売的に」


「そうですな。シオン様。奴隷商というのは、本来は営利目的ではなく、国が主導した救済システムだったのはご存じですかな?」


救済システム? 言わんとすることは分かるけど。


「国の手が届かないところで、貧しい集落を滅びの目に遭わないように、最後の手段として多を生かすために少を犠牲にすることで回避させようとしたことから始まっております」


「でも現状の奴隷商って皆さん、営利目的ですよね?」


「ははは。その通りですな。そこは否定できません。ただ代々その奴隷商を受け継いできた一人として、なるべく犠牲ではなく、本人が少しでも幸せを感じられるような、そんな取引ができればと心掛けております。そちらの女性のように」


エレノアを見ながらそんな風に言った。

エレノアにとって今は納得がいっている生活なのだろうか? 分からないな。奴隷として買った以上、ビジネスライクな関係で問題ないと思っている。自分に置き換えて、好かれようなどと虫がいいことは考えてもいないし。


それはさておき、リグルドがそこまで言うなら彼女にしてみるか。もしかしたら火傷は今すぐじゃなくても回復魔法で直る可能性がないわけじゃない。


「分かりました。それでは彼女にしましょう。いくら支払えばいいでしょうか?」


「ありがとうございます。大金貨2枚というところでいかがでしょうか」


「はい、構いません」


商売好きなヤツがいたら値切り交渉とかするのかもしれないが、俺には無理そうだから仕方ない。今後誰かメンバーに買い物は任せようかな。大金貨2枚渡しながら、そんなことを考えていた。


「それでは準備致しますので、少々お待ちください」


リグルドと女性奴隷が部屋を出て行った。


「彼女にしたけどいいか? すでに事後になるが」


「シオン様のお好きなようになさってください。手が不自由だと思いますが、世話は私ができますので」


そうだよな。両手火傷だからどこまで動かすことができるかによるよな。


「悪いな。でもありがとう」


「いえ」


両手の火傷治療は、回復魔法の鍛錬の意味も含めて本腰を入れてやることにするか。★1になれば少しはマシになると思うんだがな。



「お待たせ致しました。ではこの契約結晶で刻印をお願い致します」


リグルドと服を着替えた女性奴隷が戻ってきた。

エレノアと同じ場所でいいかな。


「契約紋が見えにくい太腿に刻印したいんだが構わないか?」


女性奴隷に聞くと頷いてスカートを捲った。早速契約結晶に魔力を込めて、彼女の太腿に刻印をする。


「俺はシオンと言う。こっちが君と同じく俺の奴隷のエレノアだ」


「フォノンと言います。主さま、よろしくお願いします」


ゆるふわな美人さんだが口調ははっきりしている。


「ああ、これからよろしく頼むな」


時間もあるし、宿屋も探さないとだな。


「シオン様、本日は良い取引をさせて頂きありがとうございました。それとですが、もしよろしければ10日後にもう一度、当商会にお越し頂けないでしょうか?」


「それはまた直感スキルですか?」


「その通りでございます」


まだ何かあるのか。


「リグルドさんは、奴隷の幸せのことばかり考えているんですね」


「いえいえ、私が考えているのは自分の幸せのことですよ。直感スキルは私を幸せにするサポートをしてくれますから」


なんか奴隷商というよりお節介オジサンなイメージだな、リグルドって。



「色々な話は後にして、まずは宿屋を探すか」


「はい。見た感じですと東門に近い所に宿屋が並んでいました」


さすがエレノアだな。俺はぜんぜん注意を払ってなかった。


「フォノンは歩くのは問題ないんだよな?」


「手は火傷で動かしにくいんですが、体力は大丈夫です」


「そうか」


問題ないようだから大通りに戻ってから東門の方に向かうか。



思ったより王都の滞在期間は長くなりそうだから高いとこは避けたいな。あんまり店構えが立派なところじゃなくて、それなりに綺麗なとこが。


「エレノア、ここなんかどうだろう?」


「はい、問題ありません」


まあエレノアに聞くと寂れたところを選んだとしても、そう答えそうだな。


「いらっしゃいませ。お泊りのお客様でしょうか?」


「はい、3人一部屋でお願いできますか。とりあえず10日間です」


「はい、大丈夫です。お一人様一泊小銀貨6枚になります。合計で小金貨1枚と大銀貨8枚ですね」


高いな。さすが王都ってことか。ロマナが安かったのかもだが。

文句を言っても仕方ないので金を支払う。王都の冒険者は生活費だけで大変そうだ。


「ありがとうございます。お名前を伺ってもよろしいですか」


「はい、シオンとエレノア、フォノンになります」


「それではお部屋までご案内します。こちらへどうぞ」



案内された部屋はベッドが3つあるので少し広いが、サルビナに泊った部屋よりは質素だな。あの部屋は風呂トイレ付きで豪華だったからな。


「さて、改めてよろしくな、フォノン」


「はい。主さま、よろしくお願いします」


「まずは色々話すべきことを話したいと思うんだが」


なんだかエレノアが物言いたそうにしていた。


「エレノア、何かあるのか?」


「私の時は、ご主人様呼びを変更させたと思うのですが」


「俺の中では、ご主人様呼びは仰々しい感じだ。悪いな」


「そうですか」


エレノアはまだ少し納得しきれていない部分もありそうだが引いてくれた。


「フォノン。俺たちはダンジョン都市で活動することを考えている冒険者だ。だからフォノンにも冒険者登録してから一緒に行動して貰いたい」


「私に出来ることなら頑張ります!」


「それで、まず確認したいことがあるんで触るぞ」


そう声を掛けてからフォノンに触り、ステータスを表示する。



ステータス

================


名前  フォノン

種族  獣人 (狐系)

年齢  16


スキル

 戦闘 


 身体 


 特殊 


魔法  


加護  火神の祝福


================



獣人は獣耳と尻尾があったから分かってたけど、狐系だったのか。獣耳は三角っぽくて大きいが。そして加護がある。火神の祝福ってどんな効果なんだろうな。

今は置いておいてリンクするか。リンクするとフォノンはビクっと反応した。


「俺には自分のスキルを表示するステータスというスキルがあるんだが、今、フォノンにもそのスキルを使えるようにした。だからステータスを表示するって考えてみてくれないか」


まあステータスはスキルではないんだが、この方が説明はしやすいからな。


「はい、やってみます」


無事に出たな。


「主さま、ちゃんと出ました」



ステータス

================


名前  フォノン

種族  獣人 (狐系)

年齢  16


スキル

 戦闘 


 身体 


 特殊 


魔法  


加護  生体掌握網 (スレーブ動作中)

    成長促進 (スレーブ動作中)

    火神の祝福


================



「それから俺の能力で、今取得可能なスキルをフォノンに取得させることができるんだが、構わないか?」


「よく分からないんですけど、どうぞ?」


「分かった」


さて、フォノンはどれが取得できるんだろうな。



◎取得可能スキルリスト

 体力強化

 頑健強化

 器用強化

 魔力強化

 気配希薄

 解体

 並列思考

 魔法威力

 命中精度

 魔力回復速度向上



◎取得可能魔法リスト

 生活魔法

 火魔法

 風魔法

 氷魔法



なんか随分偏ってるな。戦闘スキルに関していえば1つも出てない。



ステータス

================


名前  フォノン

種族  獣人 (狐系)

年齢  16


スキル

 戦闘 


 身体 体力強化☆0 ( 0.00 )

    頑健強化☆0 ( 0.00 )

    器用強化☆0 ( 0.00 )

    魔力強化☆0 ( 0.00 )


 特殊 気配希薄☆0 ( 0.00 )

    解体☆0 ( 0.00 )

    並列思考☆0 ( 0.00 )

    魔法威力☆0 ( 0.00 )

    命中精度☆0 ( 0.00 )

    魔力回復速度向上☆0 ( 0.00 )


魔法  生活魔法☆0 ( 0.00 )

    火魔法☆0 ( 0.00 )

    風魔法☆0 ( 0.00 )

    氷魔法☆0 ( 0.00 )


加護  生体掌握網 (スレーブ動作中)

    成長促進 (スレーブ動作中)

    火神の祝福


================



「フォノン。スキルを取得したから、再度ステータスを出して確認してくれ」


「はい。わぁ、こんなにもスキルを覚えたんですか」


「まあ実際には鍛錬して熟練度を上げていかないと、真の効果は出てこないんだがな。だから俺たちと一緒に鍛えてもらうからな」


「任せてください!」


大まかな話は終わったと思うが、まだ大きな問題が残ってるな。どこまで出来るか分からないが挑戦してみるしかないか。

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