第9話 王都リア


馬車に乗り込みながら、今日の鍛錬内容を考えている。

昼前には王都に着くこともあり、そんなに時間がない。気配感知と気配希薄の同時使用は当然として、やはり優先は・・・。名称がないな。とりあえず聖域としておくか。優先は聖域が実用的に使えるレベルまでに完成させることか。


昨日は薄い膜っぽいものはできたんだよな。すぐ崩れたけど目的からしたら強度は必要ない。まずは崩れたことを俺が把握できるようにすることからか。

魔力を浸透させるようにドーム状の膜を設置する。これに魔力をつなげた状態のままにして、エレノアに触ってもらうか。


「エレノア。また昨日の実験の続きで、この辺りを触ってくれないか」


手で示してから俺は目をつむる。さすがに目の前で触るのを見てると、反応があったのか無かったのかが判断しにくい。


「はい」


暫くすると、膜が崩れたのを把握できた。一応分かるな。ただ、これは起きてたから気付いたのであって、もっとはっきりした合図がないと起きないな。

やることは同じだが、今度は電気がショートしてビリっとするイメージで膜を設置していく。


「もう一度、同じように触ってくれ」


再度エレノアに頼んで目をつむる。そうして少し待つと本当に体にビリッと電気が流れたように感じた。


「おわっ」


つい大きな声を出してしまった。当然馬車に乗ってる人から注目を浴びるのは必然だ。


「すみません。ちょっと寝ぼけていたみたいです」


立って乗客に謝った。

失敗した。まさかここまでイメージ通りになるとは。これ以上目立つのは嫌なので、成果の確認は別の機会にしよう。


「シオン様、大丈夫ですか?」


「ああ、単に驚いただけだ」


それからは目立たないように、気配感知と気配希薄のみの鍛錬にした。



それから3時間ほど経つと、周りの通行も多くなってきた。うっすらと城らしき物が見えるな。さすがに王都周辺はしっかり整備されており、外壁の外だとしてもこれまでの町との違いは明らかだ。

馬車は大きな門の少し手前で停車して、乗客を下ろすようだ。まあ、考えてみれば当然か。門の中に入るにはそれぞれチェックを受けないといけないのに、馬車で入れるはずがない。


「シオン。護衛任務なんかで不在とかでなければ冒険者ギルドによく顔出してるから、何かあったら声掛けてくれ。まあ世話になった礼みたいなもんだ」


「ああ、その時は頼む」


それだけ言うとサムソンは離れていった。思えば結構いいヤツだったな、サムソン。プライドの高いヤツとか、ルーキーだと思って舐めるようなヤツだったら、襲われたときに話すら聞かなかったかもしれない。そういう意味ではサムソンは偏見なんか持たずに素直に話を信じてくれたからな。



まずは肉の卸問屋からだな。いい加減マジックバッグの中身を処分して、荷物を入れられるようにしたかったので、王都の話を聞いた時に売却場所を聞いておいた。冒険者ギルドに納品ができるかもしれないが、今は貢献度よりは少しでも金額が上乗せされるほうが嬉しい。

まずは王都に入る手続きを済ませないとな。



並んで待つこと30分。長かったな。これまでの町はそこまで待たされることは無かった。馬車で通過した町なんか、御者が挨拶して二言三言話をしたらスルーで入れていた。

まあ調べることはサルビナと似たようなもので別段違いはないが。


「エレノア。疲れているかもしれないが、宿屋に行く前に少し用事を済ませるぞ」


「疲れは特にありませんので、お気になさらないでください」


大丈夫というのであればいいのだが。移動だけで何もしてないし平気か。


門の中に入って大通りを歩いているが、さすが王都というか人通りも多いし建物も綺麗だな。裏通りとか行くとまた話が違ってくるかもしれないけどな。遠くに見える城は見る分には綺麗だしいいのだが、近づきたくない。王侯貴族に対してビビリ過ぎでは?と思わなくもないが、理不尽な権力ほど怖いものはない。この世界には公平に俺を助けてくれる存在などいないのだから。


そんな綺麗な大通りを離れて、少し雑然とした雰囲気を醸し出してきたエリアを進んでいる。サムソン曰く、本当にヤバイ地域には入るなということだ。だいたい場所も聞いてるし、建物の感じから分かるとも言われた。


ここかな。肉のマークらしき看板が掛かっている。

扉を開けて中を見ると、立派な体格の男が作業していたので声を掛ける。


「すみません。肉を売りたいんですが」


「いらっしゃい。何の肉を売りたいんだ?」


「モウモウです。200体ほど」


「ほう。個人で持ち込むにしては多いな。しかもモウモウか」


「数が多すぎましたか?」


「いや、モウモウの肉なら富裕層に人気があるから歓迎だぞ」


おお、レオナルドさんの情報通りか。


「ちょっと奥で出してくれ。査定してから金額決めるからな」


男の後ろから作業場へとついて行き、1体1体出しては査定していった。まあ、品質には自信あるぞ。



「よし、これなら良いな。合計で大金貨2枚だな。問題ないか?」


結構な値がついたな。ロマナから離れている価値もあるのか。


「はい。売ります」


卸問屋を出てから、次は奴隷商館の通りに向かう。出来れば早めにパーティメンバーを揃えて、狩りで鍛錬していきたい。



まだ早い時間なのもあって歓楽街は人通りも少ない。王都の歓楽街ってどれだけ人が集まるんだろうな。と言っても、俺はこれまで町で歓楽街を訪れたことは1、2回しかないんだがな。酒を楽しむより鍛錬してステータスを見るほうが楽しい。

歓楽街を過ぎて、立派な建物が並ぶエリアまできたが、どこに入ればいいんだろうか。


「参った。場所は聞いたがどこの商館がいいとか全然考えてなかった」


「そうですね。少し話を聞いた方が良いかもしれません」


その場で少し所在なさげに佇んでいると、一人の男から声を掛けられた。


「そこのお方、もしや奴隷商館をお探しではありませんかな」


そこに立っていたのは、ビシっとした黒服を着た50歳ぐらいの男だった。

なんで声掛けられたんだ?


「そうですが、何故分かったんですか?」


少し用心しながら聞き返す。


「これは失礼しました。少し驚かせてしまいましたか。この通りで迷っている方は大抵は奴隷商館に御用がある方なので」


言われてみればその通りだ。この通りにいて武器を探してます、という話はないだろう。


「もし良ければ、当方の商会をご利用になられませんか?」


う~ん。まあいいか。他に当てもないし。


「分かりました。見させてもらいます」



男の後について行き商館へと入った。そのままソファーやテーブルが置かれた部屋に入って向き合って話し始めた。


「ようこそ、当商会へお越しいただきありがとうございます。私はこの商会を営んでおります、リグルドと申します」


「シオンと言います。こっちは仲間のエレノアです」


リグルドはエレノアを見て何か納得した表情をした。


「シオン様、先に謝らせて頂きます」


「何をですか?」


何か問題でもあったか?


「実はシオン様に声をお掛けしたのは、奴隷商会をお探しで迷っていたからではありません」


? よく分からないな。


「まずお話する前に私のスキルを説明しないといけませんな。私の持っている中に直感スキルというものがあります。私の人生の中で、時々この直感スキルが働き合図を送ってくれるのです。それは大きな転機の時もあれば、些細な出来事の時もあります。ただ共通して言えるのは、その直感スキルに従って行動した場合、私にとって良い事になるということです」


「つまり、俺に声を掛けたのもその直感スキルに従ってということですか?」


「はい、その通りでございます。あなたをお見掛けしたのは偶然ではありますが、お声掛けしたのは、直感スキルが働いたからでございます」


話は分かったが、俺に何の関係があるんだろうか。


「それは分かりましたが、結局、奴隷を紹介してもらえるんでしょうか?」


「申し訳ありません。余分な話が多かったですな。まず紹介させて頂きます」


そう言うとリグルドは部屋を出て行った。

まだ、どんな奴隷を希望しているか内容も説明してないんだが。

少しの時間待っていると、リグルドが1人の女性奴隷を連れて戻ってきた。


「お待たせ致しました。こちらがシオン様にご紹介したい奴隷になります」


その女性奴隷を詳しく見てみる。腰まであるストレートの茶色い髪と同じ目の色をした優しい表情の魅力的な女性だ。そして頭には獣耳とスカートからは尻尾が見え隠れしている。


ただ・・・その両手には包帯みたいな布が巻かれている。

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