第7話 馬車での移動


8時より30分前には西門に到着したのだが、目の前に見えているあれが王都行きの馬車なのか?

凄い立派な馬の2頭が引く、3連結馬車なんだが。3連結の馬車にも驚いたのは事実だが、それよりも馬の方に目が行ってしまう。あれ、伝説の黒○○にも匹敵するんじゃないか? いや実物を見たことがあるわけじゃないから比較できるわけはないんだが。ダンプカーなイノシシも生息する世界だから、こんな馬も普通なのかもしれない。

馬車の方も町で普通に乗られているのと違って、車軸の辺りが何やら複雑な構造をしている。何か魔道具でも取付られているんだろうか。


馬車を繁々と見ていると、同じ馬車に乗るのだろうか、旅人っぽい恰好をした男が話しかけてきた。


「この馬車を利用されるのは初めてですか?」


「ええ、今回が初めてです」


「馬も馬車も迫力ありますよね。あの馬はガレー種という種類で、特に大きな野生馬を長年掛け合せて誕生させた種らしいですね。馬車は馬車で馬の疲労を少なくするために車輪の回転を補助する魔道具が付けられているそうですよ」


ハイブリッドシステム付きの馬車なのか。でもどうせなら動力全てを魔道具でできないんだろうか。そう思って聞いてみた。


「王侯貴族で馬無し馬車を持っている方はいたはずですよ。ただそんな高出力な魔道具の技術は秘匿されていますから、一般に出回ることはないんですよ」


まあ色々あるのかもしれない。俺は単なる冒険者だからどうでもいいが。


席は特に決められていないらしいので、エレノアと一緒に3列目の馬車の一番後ろに乗り込んだ。一応エレノアには余裕があったら、気配希薄と生活魔法の鍛錬をするように言ってある。一番後ろの席なので外にライトをつけても問題ないだろう。俺は気配感知と気配希薄と時空魔法の鍛錬をする予定だ。どうせ暇だろうし。



馬車が走り出して思ったのは、普通の馬車とは速度が違うことだ。ロマナとサルビナ間で見かけた馬車などは、普通に走って追い抜ける感じだったが、この馬車は違う。いい勝負ができそうだ。やらないが。ただ振動はそれなりにある。これでも工夫して振動を抑えてるほうだとは思うんだが、この速度だと仕方ない面もある。さっきから気配感知で見ているがなかなかの速さで進んでいるのが分かる。


気配感知をしながらなので、さっきから頭に負荷が掛かっている。頭に負荷を掛けながら何をしているかというと、時空魔法を使って試みていることがある。やっぱり時空魔法と言えば転移だ。正直今の熟練度でできるとは思えないが、足掛かりにならないかと挑戦していたりする。最初は石を飛ばすことができないかやっているのだが、転移する気配はまるっきりない。まあ続けていくしかないが。

もう一つは、次元を分断することにより対象を切断する魔法ができないか考えている。明確なイメージが湧かないが、使えるようになることを期待している。普段はこんなことより大剣振ったり、属性魔法を撃つ方に重点を置いているんだが、暇なので色々試そうと考えている。


途中でトイレ休憩を挿みつつ、3時間ぐらい走ったところで昼休憩に広間に止まった。


「1時間ほど休憩としますので、あまり遠くへは行かれないようにお願いします」


たぶん隊長らしき人がそう宣言した。


「エレノア、あっちの空いてるほうで昼食にしよう」


「はい」


乗客もそれぞれ昼食を取るようで、思い思いの場所に座って準備し始めた。俺はアイテムボックスの中から2食分取り出しながら、今回の馬車での移動について考えている。


「王都からルクルスまで、また馬車に乗らないといけないのか。飽きそうだな」


「何事も無ければ、ただ乗っているだけになりますからね」


かと言って波乱万丈な旅を期待しているわけではないが。どうせお楽しみのダンジョン都市が控えているし。

食後に軽く大剣でも振るか。


余った時間で大剣を振っていると、1人の男が近づいてきた。


「よう。冒険者だったのか?」


「まあ、まだルーキーだけどな」


馬車での移動中は武器も防具もアイテムボックスに入れていたから冒険者かどうかは分からないか。


「俺は今回の護衛パーティのリーダーをしているサムソンだ。それにしても本当にルーキーか? それにしては様になっているんだが」


「俺はシオンだ。隣がパーティメンバーのエレノアだ。最近冒険者になったばかりだ」


「冒険者になる前から鍛えていたのか? いざとなったら頼れそうだな」


そう言いつつも笑いながら続けて言った。


「まあ、この王都までの道は平和なんだがな。俺がこれまで護衛で参加した中で襲われたことは一度もないしな」


「そうなのか」


「ああ。だから移動中も、夜も安心して寝てていいぜ」


サムソンは軽く手を振り去っていった。



それからその夜の宿泊地に着くまで何事もなく平和だった。サムソンの言った通りだな。


宿泊地では、俺たち以外にも携帯ルームを取り出して設置する者もいれば、馬車の中で一夜を過ごす者もいた。

不寝番は護衛がしてくれるようなので、俺たちは携帯ルームの中で寝させてもらうようにする。


「思ったより携帯ルームは快適だな。これはダンジョン内でも使えるか」


「使うことはできますが、やはり不寝番は必要になります」


となると、やはりダンジョン内で行動しようとするとパーティに4人以上いないと交代で見張りはできないな。王都でメンバー補充を考えないとダメかな。



携帯ルーム内での宿泊も特に問題となるようなこともなかった。その後、2、3泊目の町での宿泊まで何も起こることなく、退屈な鍛錬の旅だった。


4泊目も1泊目と同じく、町と町との間の道沿いで野外での宿泊となった。この日も特にすることもないので携帯ルームで寝ていたのだが、何かが知らせたのか突然目が覚めた。気のせいかとも思ったが、少し気になって気配感知を使ってみると周囲に害意のこもった気配が10いくつか迫ってきているのが見えた。


「エレノア、敵襲みたいだから外の様子を見てくる。警戒しながら携帯ルームで待機してくれ」


エレノアを揺すって起こしながら声を掛けた。


「はい。お気を付けください」


携帯ルームは結構頑丈そうなので、少々の攻撃は平気だろう。

外に出ると、護衛が固まっているところへ向かう。サムソンがいたので声を掛けた。


「サムソン、気配感知に敵らしき気配の反応がしてるんだが、分かるか?」


「敵だって? というかお前気配感知持ちかよ。そういう役に立つ情報は教えといてくれよ」


そんなこと言われたって知らん。


「そんなことより10何体かの気配が近寄ってきてる」


「分かった。おい、ヨルク。乗客達を周って状況を説明して騒がないように伝えてくれ。必ず倒すから安心してくれってな」


「おお、分かった」


たぶんヨルク?という護衛が、急いで離れていった。


「どっちだ? とりあえず迎撃するが手伝ってくれるんだろう?」


まあ何日か暇だったしいいか。


「ああ、こっちだ」


気配感知で状況を調べながら、もうすぐ近づいてくる敵側へと護衛を誘導する。

暫くして全員で身構えていると、目の前に光る眼光がいくつも浮かび上がってきた。


「あれはナイトウルフか! なんだってこんなところで群れてやがるんだ」


護衛の誰かが叫んだ。

ナイトウルフ? 初見だが狼系統なら素早そうだな。対抗するためにクイックを掛けておく。


その叫びが合図になったのか、黒っぽい色(夜だから本当に黒か分からん)をした大型犬サイズの獣が一斉に襲い掛かってきた。


俺は護衛たちの横から回り込もうとした数体を、牽制の大振りを大剣で振った後に、避けた1体に素早く斬れ込んだ。クイックの効果は有効で、獣相手にも遅れを取ることはない。すぐに後退して護衛の列に戻った。


「うわっ」


すぐ隣の護衛が腕に噛みつかれているのを見て、すぐにその1体を斬り捨てた。周囲を見まわしながら気配感知で探っているが、幸い後ろに抜かれてはいない。ナイトウルフも俺たちに集中しているようだ。

こちらの様子を伺っていた1体が横方向から襲ってきたので、真正面から叩き斬った。速さで対抗できるなら問題なく斬り捨てられるな。


こちらに注目している敵がいないのを見て、なるべく急いで魔力を込めていく。ある程度の数設置できた時点で魔法を発動させる。


”ニードル”


あちらこちらでギャンギャン鳴き声が上がっている。どうやら結構な範囲で発動できたようだ。しかし発動までに時間が掛かりすぎる。


それからはナイトウルフがしっかり抵抗できなかったこともあり、少しの時間で殲滅が終わった。



「怪我した人いたら回復魔法使うから、こっちに来てくれ」


ついでだと思って聞いてみると、3人の護衛が怪我を見せてきた。


「おいおい、シオン。お前、属性魔法に回復魔法もかよ。どんだけ多才なヤツなんだ」


なんかサムソンが呆れたような口調で言ってきた。

ここまでやったんだ。俺は護衛じゃないし後片づけは押し付けてもいいよな。


「サムソン。俺は護衛じゃないんだ。後は任せていいんだよな?」


「まあ、いいけどな。また話聞かせてくれよ」


「ああ。じゃあ、おやすみ」


客なのに完璧に時間外労働だな。


携帯ルームに戻ると、エレノアが安心した表情を浮かべ、出迎えてくれた。


「シオン様、お怪我はありませんか?」


「ああ、そんなに強い相手ではなかったからな」


どうせなら夜じゃなく昼にしてほしかったな。昼は暇だから。


「今日はもう何もないことを願って寝るとしようか」


「はい、おやすみなさいませ。シオン様」


後もう少しで王都だな。この暇な旅も終わりが見えてきた。

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