第5話 エレノアの鍛錬(1)
朝食の後にエレノアの防具を買うために店に向かっている。日本のゲームのイメージからか、どうしても武具屋、防具屋と別々だと思ってしまうが、ロマナもサルビナも同じ店で武具と防具を扱っている。これが普通なのか?
店の中を見て周って、やっぱり俺が今着ているハードレザーアーマーしかないかとは思う。エレノアが着るのであまり重いのは無理だ。防御が高そうでなるべく軽いものを選んだ。後は安全のため防御しやすいようにカイトシールドも買う。
エレノアの防具だけ買う予定だったが、この際俺は黒っぽい鋼鉄製のプレートアーマーに変更することにした。鉄というとガチャガチャ音がうるさくないか心配だったが、店員に聞いてみると裏に革をあてたものだと音が出にくいらしい。試しに着て確認してみると確かに思ったより静かだ。ただこれまでに比べると結構重い。筋力強化が★1になる前だったら難しいところだった。
「お買い上げありがとうございました」
店員さんに見送られ店を出た。全部で大銀貨5枚の買い物だったが、最近金が飛んでいくばかりだ。依頼も受けたいところだが、旅の途中だとなかなか難しいな。
「防具を着けた感じはどうだ?」
「そうですね。慣れていないのもあって動きにくくはあります。でも動けないわけではありません」
まあ、そこは慣れていってもらうしかない。
そのまま外に出ようと思ったが、そういえばエレノアの身分を証明するものがない。一応契約紋を見せれば奴隷と分かるので問題ないみたいだが、見せるつもりはない。冒険者ギルドか商業ギルドで登録すればいいのだが、冒険者活動も手伝ってもらうので冒険者登録だな。
「鍛錬の前に冒険者ギルドに行って、エレノアの冒険者登録をしようか。登録用紙に記入しないといけないんだが、字は書けたよな?」
商家を営んでいたんだし問題ないだろうとは思ったが念のため尋ねた。
「はい。大丈夫です」
冒険者ギルドに入ってから登録についてはエレノアに任せた。依頼を見ながらエレノアの鍛錬について考えていたが、普通の鍛錬をした後は平原ウサギ狩りをするかな。攻撃を受けたとしても最悪打撲なのでヒールで回復できる。
そういえば忘れていたことがあったので、登録しているエレノアのところに戻ると説明が終わったところだった。
「すみません。彼女と俺でパーティを組むんですが、その登録もお願いしていいですか?」
「はい、こちらで処理致します。冒険者キューブをお預かりしてもかまいませんか?」
「お願いします」
俺のキューブも預けて登録してもらう。
これ、混雑している時だったら割り込みになるんだろうか? 難癖つけてくるヤツとかいそうだよな、定番的に。まあ俺は朝の混雑時にギルドに来たことがないが。
◇ ◇ ◇
平原ウサギを狩るには北門から出た先にある平原がいいらしいので、そちらへ出て鍛錬することにした。まず走るか。
「エレノア。まず体力を鍛えるために外壁沿いを走ることから始める。始めはきついだろうが無理しない程度に頑張ってくれ」
商人だったエレノアには大変かもしれないが、冒険者だったら体力は必要になるから頑張ってほしい。
「はい、お任せください」
俺も一緒に平行して走るが、もう少し重くした方がいいか。今の大剣とプレートアーマーだけでたぶん30kg近いと思うんだがまだ平気だからな。いつもの背負いバッグに石を詰めた物を担ごう。
エレノアの表情を観察しながら一緒に外壁沿いを走っている。最初ジョギング程度で走っていたのだが、普通に大丈夫そうなのでスピードを上げた。
横で眺めているが綺麗な体の動きをしている。商人だったからって運動は苦手ではなかったらしい。普通に戦える商人とかいそうだしな。
結構長い距離を走って、息も荒くなってきたのを見て休憩することにした。
「どうだ、大丈夫そうか?」
「こんなに体を動かすことは久しぶりなのですが、前より調子が良い感じがします。元々体を動かすことは嫌いではありませんでしたので問題ありません」
身体能力も悪くなさそうだし、それに加えて☆0とはいえスキルを覚えたしな。
休憩して呼吸も落ち着いてきたのを見て、次は生活魔法を鍛えていくことにした。
「次は生活魔法を使って鍛えていく。そうだな、火種にするか」
実際に俺が火種を出しながら説明した。
「こんな風に火種を出し続ける感じで使ってみてくれ」
「はい。分かりました」
早速エレノアの指先から仄かな火種が出ている。やっぱり実演するのは教えやすい。
エレノアが生活魔法を鍛錬している横で、俺は氷魔法の鍛錬を行う。ダイヤモンドダストが舞う風景を思い出して再現できないかやってみたが、何も出なかった。そういえばダイヤモンドダストって湿気がそれなりにないと発生しないんだったか。魔法ならできそうではあるが、☆0の熟練度では無理だったか。まあ無難な方法にするか。桶を出してから水を注ぎ手を突っ込んで冷やしていく。氷魔法を覚えた後だからか、今回は順調に温度が下がっていった。更に魔力を注いで凍り付かせようとするが、全体が凍り付くことはない。
氷魔法の鍛錬後は、各属性魔法の発動速度と命中率を上げるために、的となる場所に魔法を撃ちまくった。命中率のほうはともかく、発動速度を上げないと戦闘で使えないからな。この前みたいに遠距離狙撃みたいな状況なら、ゆっくり魔力を込めて発射できたが、普通だと敵は待ってくれない。
それから暫く鍛錬をしていると、エレノアがふらっと倒れそうになったので、慌てて抱き留めた。
「エレノア、大丈夫か」
「はい。たぶん、魔力欠乏だと思われます」
ああ、そうだな。俺の魔力量はバグっているので気にしたことが無かったが、普通はこんなに使い続ければ無くなるよな。
「悪い、俺の指示ミスだな。倒れるまで鍛錬することはない。無くなりそうだと思ったら、止めていいぞ」
「申し訳ありません。倒れそうというのは分かっていたのですが、魔法を使うのは初めてなので熱中し過ぎました」
「その気持ちは分かる。だから程々で頼むな。エレノアが倒れるのは心臓に悪い。落ち着くまで休んでいてくれ」
「はい」
それからエレノアの休憩中は、大剣の素振りを始めた。★1になってからはただの素振りでも面白い。☆0の段階だと大剣術を鍛えてるというよりは重量物を振り回しているという感覚が拭えなかったからな。★1になって初めて大剣術を鍛えているという実感が湧いてきた。
そして鍛錬であるが楽しい時間を過ごしていると、ピコンっと頭のほうで鳴った気がした。これは分かった気がする。明らかに振っていた大剣が軽くなった。筋力強化が★2になったのだろう。筋力強化★2でこの効果なのか。これ★5とかなったら大剣片手持ちにして双剣とかいけるんじゃないか?大剣2本持って邪魔にならないかって話はあるが。
エレノアも落ち着いてきたのが分かったので、短剣を振らせてみる。短剣については俺も☆0なので正確なことを教えられそうもない。悪い、勉強不足で。
エレノアにはどっちかというと守備の方を鍛えてもらう予定なので、短剣は突くことをメインに考えてもらう。振るより突くほうが隙は少なくて済むんじゃないだろうか。
そろそろ実戦と行こうか。大剣をアイテムボックスに仕舞い、代わりにショートソードとバックラーを装備した。
平原を進みながら気配感知で平原ウサギを探す。
これが普通なのか。少し歩いた先にようやく1体の気配を捉えた。ロマナだとすぐに気配感知に捉えられるぐらいにいたんだが。
エレノアに獲物を発見したことを告げてゆっくりその場所へ向けて歩き出す。
「エレノア、この先に進むと平原ウサギが襲い掛かってくる。動きは速いが攻撃はそこまで強くない。体当たりされても打撲ぐらいだ。いよいよきつくなってきたら、俺が倒すから心配しないでくれ。無理に倒そうとする必要はない」
「はい、行ってきます」
俺の話を聞いて、エレノアが慎重に先に進んでいく。
少し進むと気配感知に動きがあった。どうやらこちらに気付いて警戒し始めたみたいだ。
エレノアの前方から突然平原ウサギが突っ込んできた。構えていたシールドが、ガンっと音を立て少し体勢が崩れたのが見えた。エレノアは体勢を立て直したが完全に姿を見失ったようだ。気配感知から平原ウサギは右横へと移動している。
「エレノア、右側に来るぞ」
盾とは逆だったのも影響してか、エレノアは反応できずに体に攻撃を喰らった。
「んっ」
少し息が詰まったかもしれないがそこまで痛手ではないようなので様子見する。まあ防具も装備してるし、体当たりだし。もっと危険な攻撃だったらこんな余裕でいられないだろうが、ある意味鍛錬相手にはちょうどいいのかもな。俺1人の時は、そんな余裕見せることもできなかったが。
その後も正面から体当たりがくる場合は盾で防ぐことはできたが、他から攻撃がくると反応できずに攻撃を喰らった。
そろそろかな。
「エレノア、割って入るから、気を付けてくれ」
平原ウサギがエレノアの左側から来るのが分かったので移動して、突っ込んでくるのに合わせて首筋を斬りつけた。
平原ウサギを収納してから、体当たりを喰らった部分の治療をした。実際はそんな酷いところはないのだが、少しでも痛みがある場合は場所を聞いてヒールを掛ける。
「どうだった? 初戦闘の感想は」
「そうですね、どうしても姿を見失ってしまって慌てたところに攻撃を受けてしまいました。なかなか難しいですね」
「スキルが色々伸びるとそれだけで安全になってくるから、そこまで気負うことはない。エレノアが安全になってくると俺も安心だから、今のうちに鍛えておきたい」
「はい。シオン様に安心して頂けるように鍛えていきます」
それから時間までは平原ウサギを探しては、エレノアの鍛錬を行っていった。しかし、この場所での平原ウサギ納品の依頼って、気配感知がなかったらかなり苦労するんじゃないのか?
今日は平原ウサギを7体倒すことが出来た。エレノアも解体スキルを取得できているので任せてみることにした。簡単に説明はしたが、正直説明は要らなかったかもしれない。普通に迷うことなく解体していった。料理スキル持っているし切るのは得意だよな。これで解体スキルが取れていなかったとしたら、この世界の住人どれだけスキル取得の難易度が高いんだ。
平原ウサギについては冒険者ギルドに納品せずにアイテムボックスに入れておいた。溜まってから報告してもいいし、自分達で活用してもいい。
◇ ◇ ◇
宿屋に戻った時にはいい時間だったこともあって、先に夕食を食べてから部屋に戻ることにした。ここの料理も普通に美味しいし、またサルビナを出る前には何食かお願いしようかな。アイテムボックスに入れておけば昼とか便利だ。
部屋に戻ってから、すぐに風呂の準備をしてエレノアと2人で入っている。
エレノアのステータスを一緒に見ながら今日の成果について話した。
ん? エレノアのスキルリストに追加があるな。
◎取得可能スキルリスト
魔力強化
俺にも出てないスキルだな。確認してみると俺にもスキルリストに追加されていた。魔力強化というと魔力量の方か。 【生体掌握網】が拾ったのはエレノアの方か。何となく分かった気がする。これまで俺に出ていなかったのは、俺は【生体掌握網】が拾う状況にならなかったってことか。仮にこれ俺が取得しても熟練度上がるのかね? 一応取得するが。
ステータス
================
名前 エレノア
種族 人間
年齢 20
スキル
戦闘 短剣術☆0 ( 0.01 ) △0.01
盾術☆0 ( 0.04 ) △0.04
身体 体力強化☆0 ( 0.04 ) △0.04
頑健強化☆0 ( 0.06 ) △0.06
筋力強化☆0 ( 0.03 ) △0.03
器用強化☆0 ( 0.02 ) △0.02
敏捷強化☆0 ( 0.03 ) △0.03
魔力強化☆0 ( 0.05 ) △0.05
特殊 料理★2 ( 0.17 )
調合☆0 ( 0.00 )
良否判定☆0 ( 0.01 ) △0.01
真偽判定☆0 ( 0.01 ) △0.01
気配希薄☆0 ( 0.00 )
解体☆0 ( 0.10 ) △0.10
魔法威力☆0 ( 0.00 )
魔法 生活魔法☆0 ( 0.06 ) △0.06
時空魔法☆0 ( 0.04 ) △0.02
加護 生体掌握網 (スレーブ動作中)
成長促進 (スレーブ動作中)
================
軒並みいい伸びだな。短剣術は・・・エレノアに合ってないのかもな。メイス系統とか扱い易くていいのかもしれない。考えてみるか。
調合は一時放置だな。どっちにしろ旅をしている今は手出しし難い。
「熟練度なかなかいい伸びだな」
「鍛錬の結果が数字で表示されるのは驚きますね。シオン様のスキルは特別です」
まあ一応加護だしな。
さて俺の成果は。
ステータス
================
名前 シオン
種族 人間
年齢 16
スキル
戦闘 短剣術☆0( 0.64 )
剣術★1( 0.78 ) △0.02
大剣術★1( 0.10 ) △0.02
盾術☆0( 0.26 ) △0.01
身体 体力強化★1( 0.52 ) △0.03
頑健強化☆0( 0.79 )
筋力強化★2( 0.01 ) △0.05
器用強化★1( 0.19 ) △0.01
敏捷強化★1( 0.59 ) △0.02
魔力強化☆0( 0.00 )
特殊 気配感知★2( 0.09 ) △0.02
気配希薄☆0( 0.60 ) △0.01
解体★2( 0.00 )
並列思考★1( 0.29 ) △0.01
魔法威力☆0( 0.03 ) △0.01
命中精度☆0( 0.09 ) △0.05
遠見☆0( 0.04 ) △0.01
魔法 生活魔法★2( 0.46 ) △0.02
土魔法★1( 0.09 ) △0.02
水魔法★1( 0.07 ) △0.02
火魔法★1( 0.07 ) △0.02
風魔法★1( 0.08 ) △0.02
氷魔法☆0( 0.07 ) △0.02
回復魔法☆0( 0.50 ) △0.04
時空魔法★1( 0.32 ) △0.02
加護 転移ランダム特典 金一封
転移特典 言語理解
転生ランダム特典 生体掌握網
転生特典 成長促進
================
筋力強化の伸びが凄かったな。★2になったし。まあ防具とか色々重い物持ってる成果だな。それに比べて頑健強化はどうするかな。ただ、この数値が伸びるってことは攻撃を受けてるってことだから仕方ない面もある。
先に風呂から上がってベッド行くかな。女性には色々準備することがあるだろうし。
ベッドで座って待っているとエレノアが歩いてきたので、抱きしめて迎えてから聞いてみる。
「今日は鍛錬も沢山したし、体の調子は平気か?」
「はい、特に異常はありません」
「そうか」
ライトを暗くしてから、エレノアと一緒にベッドに入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます