第2話 領都サルビナ
背中が痛みを訴えるのに合わせて目が覚めた。
そういえば昨日は町の外壁に背中を預けて寝たんだった。休憩ぐらいならいいが寝るにはきつい体勢だった。周囲はまだ薄暗いし、門も開いていない。仕方ないので町に入る前に鍛錬でもしておくか。
門から少し離れたところで大剣を振ったり、魔法を発動したりしていると周囲が明るくなってきた。門に行ってみるともう人の出入りが始まっていたので、列に並んで町に入ることにする。
さすがに領都は人が多いからか、それとも貴族の拠点だからか兵士の人数も多く、しっかりと確認しているみたいだ。
「次、証明書か何か持っているか」
「冒険者キューブでいいでしょうか?」
「分かった。こっちで確認する。ついて来い」
建物の中に連れていかれ、冒険者キューブの情報の確認をされた。
「特に問題になるような内容はないな。それでサルビナを訪れた理由はなんだ?」
「ルクルスに向かう途中で、この町でも冒険者ギルドで依頼を受けようと思っています」
「ふむ。まあ何も騒ぎを起こさなければ問題ない。言っておくがこの町はサルエール伯爵様のお膝元だ。何か問題を起こせばすぐに牢屋行きになることを覚えておけよ」
「はい、気を付けます」
「よし、通っていいぞ」
ふ~。やっぱり緊張するな。日本の警察とかなら悪さしなければ緊張することもないんだが、こっちの兵士とか貴族とかは、何か言い掛かりをつけられると対処が難しいからな。
とりあえず今日向かう主要な場所はレオナルドさんに聞いて知っている。
まずは冒険者ギルドからだな。特に用事は無いのだが、場所の確認と依頼の確認をしておく。ひょっとしたらイノシシが納品できるかもしれない。
冒険者ギルドは北門の近くにあった。見た感じだとロマナにあったギルドと違いはないように思える。領都のギルドと同じ規模ということは、ロマナのギルドが普通より大きかったのかもしれない。
朝の混雑は終わった後なのか、比較的人は少ない。依頼掲示板を眺めて見ると、依頼はロマナの方が多いようだ。そんな中でもゴブリン討伐と平原ウサギ納品の依頼はあった。定番なのか? 後はグラスウルフやオーク討伐などはロマナにもあったな。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付カウンターに行くと、やっぱり綺麗な受付嬢が聞いてきた。
「森で狩った獲物なんですけど、買取可能か確認をお願いしたいんですが」
「分かりました。解体場に案内しますので、そちらで確認致します」
後ろについて解体場に行くと、作業していた担当者に内容を説明してくれた。
「君、ここに獲物を出してくれるかい?」
「はい」
言われた場所に2体のイノシシを取り出して置いた。改めて見てもデカイな。
「なるほど、大猪か。これなら即売れるから買い取っても平気かな」
そう言いながら、紙にたぶん査定内容を書いてるんだろう。
「これでなら買い取っていいよ」
紙を受付嬢に渡しながら言った。
受付嬢は内容を見て俺に確認した。
「2体で大銀貨1枚小銀貨3枚でなら買い取らせて頂きますが、どうでしょうか?」
金額的に問題ないな。
「それでお願いします」
受付に戻った後、キューブに記録してもらってからギルドを出た。
次は馬車の停留所で王都行きが何時出るのかの確認だ。王都行きは頻繁に出ているが、それでも6日間の行程なので毎日出ているわけではない。停留所は西門付近にあるという話だ。行ってみると馬車が3台止まっている建物があった。
「すみません。王都行きの馬車について聞くのは、ここで合ってますか?」
「はい、ここで合っていますよ」
建物の中に声を掛けたら返事が返ってきた。椅子に座っている男が答えてくれたみたいだ。
「次の出発日と乗車賃を教えてもらっていいですか?」
「ああ、次は3日後ですよ。乗車賃は1人大銀貨1枚ですね」
「はい、ありがとうございました」
3日後なら色々準備できそうだな。さて次は奴隷商館だ。
奴隷商館についてはレオナルドさんから勧められた店がある。実はレオナルドさんは奥さんと女奴隷の2人を囲っているらしい。その話を聞いた時は驚いて、揉めないのか聞いたのだが、2人とも仲が良いそうだ。奥さんは家の中全般を仕切っていて、女奴隷はレオナルドさんの仕事をサポートしているそうだ。何故、女奴隷を勧めてきたのか納得した。
大通りから少し奥に入ったところにその商館はあった。普通に大きな綺麗な店で派手派手しさはない。迷わずに中に入る。
「いらっしゃいませ」
出迎えてくれたのは初老の紳士然とした男で、悪逆非道な商人のイメージがあったのだが、全然そんなことはなかった。
「当奴隷商へようこそ。本日はどのような奴隷をお探しでしょうか?」
とりあえず決まってる条件を言えばいいか。
「主人となるのが冒険者でも問題ない女奴隷を探しています。戦うのが得意である必要はありません。身の回りの世話などして貰うつもりです。ただ、仕事にはついて来てもらうかもしれませんが」
「分かりました。その条件で集めて参りますので、こちらの部屋でお待ちください」
当初は戦闘ができる人を探そうと思ったのだが、レオナルドさんの話を聞いて方針を変更した。いずれ戦闘メンバーを入れるとは思うけど、俺はどうしても戦闘一辺倒になりがちなので、全般的にサポートしてくれる人が欲しい。
暫く待っていると、6人の女性を連れて戻ってきた。条件付けたし断る人もいたんだろうな。
「お待たせしました。この6人が条件に当てはまる奴隷となります」
「少し考えさせてください」
「はい、何かあったら直にお聞きになっても問題ありません」
とりあえず1人1人見ていく。
1~3人目までは戦闘経験ありそうだな。体がかなりガッチリで筋肉質だ。3人目は初めて見たが獣耳をしている。おお、やっぱり獣耳のいる世界だったんだな。なかなか興味深いが今回はどっちかというとサポートしてくれる人なので飛ばす。4人目は可愛い少女だが仕事に連れていけるか微妙だ。ここに来たということは覚悟はあるんだろうけど。5人目は普通の人だけど、可もなく不可もなく。一応候補か。そして最後6人目。
見た瞬間に思った。凛とした姿が綺麗だ。青みがかった黒のストレートミディアムの髪と青い目の美しい顔立ち。なんだかスーツを着て会社に出てきたらバリバリに仕事できそうだな。バカな事を考えつくぐらいには好みなんだろう。
6人目の女性の前に立ち質問した。
「俺は冒険者で、そんな俺のサポートをしてもらうということは危険なこともある。もちろん俺も全力で守るつもりだが、それでも大丈夫か」
「はい、頑張ってついて行きます」
俺は商人の方を向いてから言った。
「彼女を買うことに決めました」
言った後に金額を聞いていないことに気付いた。まずい。買うって言ったのに手持ちより多かったらどうするんだ。確か相場は大金貨2枚から3枚とは聞いていたが。
「ありがとうございます。一旦下がらせて準備をさせます」
商人はそう言うと女性たちと一緒に出て行った。
また暫くしてから、商人は手に何か持ってから部屋に戻ってきた。いつまでも後回しにできないし聞いてしまおう。
「すみません。まだ購入金額を聞いていませんでした」
「おお、これは失礼しました。あっという間に購入を決められてしまったので言うのを忘れておりました」
そうだよな。俺が急ぎ過ぎたのがダメだ。これで吹っ掛けられても何も言えない。
「彼女の購入金額は大金貨5枚となります。奴隷になる前は商人の配偶者でしたが色々ありまして夫の商人は亡くなり、現在の状況となっております。もし詳しい話をお知りになりたい場合は、本人に確認ください。商家を取り仕切っていた過去がありますのでサポート役には問題ありません。また御覧になられたように容姿に優れておりますので、この金額となっております」
とりあえず金額は何とかセーフだ。すぐに大金貨5枚を渡し支払いを済ませる。
「確かに大金貨5枚頂戴致しました」
一安心したところで扉が開いて彼女が入ってきた。簡素な服から普通っぽい服に着替えたみたいだ。
「俺はシオンだ。これからよろしく」
「ご主人様。私はエレノアといいます。これからよろしくお願い致します」
「ご主人様呼びは勘弁してほしいな。名前で呼んでくれないか」
「では、シオン様とお呼びしてもかまいませんか?」
「そっちのほうがいいな」
ご主人様呼びをされると首輪を付けていなくても奴隷を連れ歩いてるって宣伝してるような気分になるからな。
「お客様、この契約結晶を使い彼女に契約紋を刻印してください。魔力を注げば起動します。特に場所はどこでも構いません」
奴隷商が持ってきていたものは、契約結晶と言うのか。
「エレノア、どこにする? なるべく目立たない所で」
「それでは太腿の辺りでいいでしょうか?」
「ああ、構わない」
エレノアは俺にだけ見えるようにスカートをめくって太腿を露わにした。俺は太腿に契約結晶をあててから魔力を注ぎ込む。
刻印された契約紋は薄っすらと光っているが、そこまで目立つものではなかった。
1つ気になったことがあったので聞いてみた。
「この契約結晶、犯罪に使われないんですか?」
「契約結晶は契約する双方が承諾していないと刻印できません。また契約結晶自体が、王国と教会の許可を得たうえで教会から貸し出されるので悪事に使用することが難しいですね。まあ、何事にも抜け道というものがあることは確かですが。失礼しました。これはお客様にするような話ではございませんね」
まあどんなに完璧を目指しても、穴は必ずあるものだしな。ただし聞いた感じだと、この契約結晶って神様絡んでそうだよな。何か不正に使用したら天罰喰らいそうな気もするな。そこの辺りは教会が詳しそうだが。
「これで奴隷契約は完了しました。この契約紋がある限り、奴隷は主人に対して裏切る行為はできなくなります。もし裏切ったと判断されれば、契約紋が命を断つでしょう」
その後奴隷に対する注意事項を聞いてから奴隷商館を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます