第19話 傍迷惑な冒険者パーティ


俺は金の亡者ではないはずだが、今日も鍛錬と金策目的でゴブリンとモウモウ狩りに明け暮れていた。

狩りは順調で、この5日間で3つのスキルが★1へとレベルアップした。


器用強化★1と並列思考★1。


器用強化★1は大剣術の熟練度が足りない分も補ってくれている。今のところゴブリンを薙ぎ倒すことが多い大剣だが、ゴブリン1体の棍棒と斬り結ぶことができるようになった。これまでだと大剣では力の加減ができずに瞬殺してしまうところだが、試しに加減してみたら制御することができた。ゴブリンと斬り結ぶ必要があるのかと問われれば無いのだが。


並列思考★1は森の探索では役立っている。色々な行動、例えば戦闘中であっても普通に気配感知を使うことができている。これも頭がきつい思いをしながら使ってきた成果だろう。そして前々から魔法でやりたいことがあったのだが、これで試せるはずだ。これについては属性魔法がちゃんと使えてからの話だ。


そして時空魔法★1。


生活魔法以外で初めて★1になった魔法だが、朝の鍛錬で色々試した。一番順当なのはアイテムボックスで、これまでの財布代わりを卒業した。今持ってるマジックバッグよりは容量は小さいが誤差の範囲だ。ほとんどの荷物はアイテムボックスに入れるようにしている。

そして補助魔法というか付与魔法というか1つだけ有用な魔法が使えるようになった。




「ゴブリン討伐とモウモウの納品確認致しました。シオンさん、この依頼達成で7等級に昇級しました。おめでとうございます」


今日の報告をするとフェリスさんから7等級に昇級したことを告げられた。


「ありがとうございます。依頼の数はともかく昇級までの日数が思ったより掛からなかったのに驚きました」


「普通はもっと掛かりますからね。シオンさんみたいな新人さんは初めてです。もう新人さんなんて言えませんね」


珍しくフェリスさんがクスクス笑いながらそんなことを言った。


「キューブの情報の更新と、報酬の記録終わりました。お疲れ様でした」


フェリスさんからキューブを貰い、冒険者ギルドを後にした。




ベッドに横になり、いつものステータスを確認しながら今後のことについて考える。



ステータス

================


名前  シオン

種族  人間

年齢  16


スキル

 戦闘 短剣術☆0 ( 0.64 )

    剣術★1 ( 0.64 ) △0.01

    大剣術☆0 ( 0.56 ) △0.06

    盾術☆0 ( 0.25 )


 身体 体力強化★1 ( 0.35 ) △0.01

    頑健強化☆0 ( 0.77 )

    筋力強化★1 ( 0.65 ) △0.03

    器用強化★1 ( 0.04 ) △0.02

    敏捷強化★1 ( 0.31 ) △0.02


 特殊 気配感知★1 ( 0.74 ) △0.04

    気配希薄☆0 ( 0.40 ) △0.02

    解体★1 ( 0.65 ) △0.03

    並列思考★1 ( 0.01 ) △0.03


魔法  生活魔法★2 ( 0.24 ) △0.02

    土魔法☆0 ( 0.84 ) △0.02

    水魔法☆0 ( 0.84 ) △0.02

    火魔法☆0 ( 0.84 ) △0.02

    風魔法☆0 ( 0.84 ) △0.02

    回復魔法☆0 ( 0.39 ) △0.01

    時空魔法★1 ( 0.04 ) △0.01


加護  転移ランダム特典 金一封

    転移特典     言語理解

    転生ランダム特典 生体掌握網

    転生特典     成長促進  


================



今日7等級に昇級したことでダンジョンの入場は可能になった。これがすぐ近くにダンジョンがあるんだったら迷わずにチャレンジするのだが、ダンジョン都市は遠いからな。それにもう少し貯金を増やしたい気もする。この町に慣れてきたのもあるし。もう少し稼ぐかな。


◇ ◇ ◇



今日もゴブリン37体倒し終わって、森から出る途中で気配感知に10体のゴブリンの集団を捉えた。但し、近くに冒険者らしき反応もあったので、普通に狩りしているんだろうと考えて気にせず歩いていたのだが、感知で見ると冒険者が囲まれているみたいで動きがなかった。

変な難癖付けられるのも嫌なので近づきたくはないが、もし最悪なパターンだったら気付いてて見殺しにすることになる。仕方ない、確認するか。偽善ではないが寝覚めが悪いからな。


急いで駆けつけると、案の定、木を背にしてゴブリンに囲まれている冒険者らしき4人がいた。

1人の少年(同い年ぐらいか?)が背後に3人を庇い、剣を振り回してゴブリンを近づけないようにしている。


「おい、助けはいるか」


少し離れているが聞こえるように大きな声で呼びかけた。


「お願い、助けて」


たぶん少女と思われる人物から返事があったので、助けることにする。


剣を抜き、魔法を頭の中で唱える。


「⦅クイック⦆」


発動しやすいようにクイックと名付けた覚えたばかりの時空魔法だ。効果時間は短いが行動の時間短縮をしてくれる。たぶん俊敏とは関係ない効果のようだ。


傍目にはかなり素早い動きに見えているだろう走りで、ゴブリンの背後に接近してから、まずは目の前の3体を薙ぎ払った。それを見て俺の方に振り向いた2体を連続で斬り捨てる。


残りの5体も、突然現れた俺が5体倒したのを見て浮足だっているので、今はチャンスだと思うのだが、さっきから剣を振り回してる少年は余裕がないのか、目を瞑って同じ動作を繰り返すばかりだ。

仕方ない。俺は5体に近づき、剣を矢継ぎ早に繰り出し、1体1体倒していった。



「怪我してるヤツはいないか?」


大丈夫そうだが念のため聞いておく。


「エミルとルーチェが殴られて」


さっき返事をくれた少女が答えてくれたが、エミルとルーチェってどいつだ。よく見ると肩を押さえている少年と、腕を抑えてる少女がいたので、この2人か。


「俺の回復魔法は効果が高くないから少し時間がかかるけど、我慢してくれ」


ルーチェだと思われる少女の腕にヒールを掛ける。一応今使える回復魔法もヒールと頭の中で唱えてから掛けている。なんだかんだで名称があったほうがイメージしやすい。当然1回では無理なので5回ぐらい掛けてから具合を聞いてみる。


「痛みはどうだ?」


「はい。痛みが無くなりました」


ルーチェはほっと安心したような表情で答えた。

同じくエミルの肩にもヒールを掛けていく。こちらも数回ヒールを掛けて痛みが取れたようだ。


「ありがとう。痛みが無くなったよ」


「これで大丈夫か」


「助けてくれてありがとう。私はコリーね」


「ありがとうございました。ルーチェです」


「ありがとう。エミルだよ」


「イザークだ」


「俺の名前はシオンだ。とりあえず外に出たほうがいいと思うが、ゴブリンはどうする?」


俺が全部倒したんだけど、揉めたくはないので聞いてみる。


「シオン君が全部倒したし、持って行って。それに私達討伐制限あって報告できないし」


コリーが答えてくれたが、それならなんで森のこんな奥に入ってるんだ?


「分かった。俺が回収するけど、一緒に外に出るか?」


少し心配なのもあって、外に出るなら護衛したほうがいいかと思って聞いてみた。


「お願いしてもいいかな? 私達だけだと心配だし」


「ちっ」


コリーは安心したように答えてくる。その後ろでさっきから不貞腐れているっぽいイザークは不満げだ。

関係のないパーティのことなので早く外に出て分かれた方がいいだろう。


「シオン君、すごく強いよね。10体のゴブリンを一瞬で倒しちゃったし。それに回復魔法も使えるなんてすごいよ。ね~、ルーチェ」


「うん。そうだよね。シオンさん、いつもゴブリン狩ってるんですか?」


「ああ、そうだな・・・」


さっきからコリーに近寄られて話しかけられ、ルーチェからは頬を赤く染めつつ見つめられ、ものすごく居心地が悪い。パーティの残り2人の少年のことを忘れないでくれ。


「シオン君ってソロでやってるの?」


「えっ、まあ」


「いいこと思いついたよ。シオン君、うちのパーティに入るといいよ。ルーチェもそう思うよね?」


「えっ」


待て。それのどこがいいことなんだ???


「シオンさんが入ってくれたら、すごく嬉しいです」


そう言ってルーチェが見つめてくる。


「おい、何勝手に決めてるんだよ」


イザークが血相を変えて怒鳴ってきた。


「何よ、イザーク。シオン君が入ってくれたら、今日みたいな危険なこともなくて、普通にゴブリン狩れるのよ?」


「俺だってゴブリンぐらい倒せるぞ。村で倒したことあるんだからな」


「村で倒したって、それ、大人が10何人かで退治したときに後ろからついて行っただけじゃない。それに今日だって、あんたが絶対倒せるから確認したいってついていって、酷い目にあったのよ」


「うぅ。今日のは3人守るのに精一杯で仕方なく・・・」


「それって私達が悪いってことなの?」


「いや、そんなことは言ってない」


なんか勝手にコリーとイザークの言い合いが始まって、呆然としてしまった。

もう門が見えて来て安全だから、ここで抜けよう。


「悪い。まだ用事があるから、俺はここで抜ける」


何か言われる前にさっさと退散しようと思って、急いで外壁沿いを北門に向けて走っていった。


「あっ、ちょっと、シオン君。パーティのこと考えておいてね」


後ろでコリーが何か叫んでいたが、気にしないで走って逃げた。



「シオンさん、何だかお疲れですね? 依頼も大事ですけど、体がきつい時は休むのも大事ですよ」


今日の出来事に若干疲れている顔をしていたのか、フェリスさんから気遣われた。いや疲れているけどそれは依頼のことではないのだが。


「いえ、体の調子は全然良いですよ。無理はしてません」


「そうですか。それならいいのですが。それでは今日の報酬はキューブに記録致しました。お疲れさまでした」


今日の報告を終わり冒険者ギルドを出た。

宿屋に戻ろうと歩き出した時に、後ろから声が掛けられた。


「おい、待てよ」


後ろを振り向くとイザークが近寄ってきていた。


「なんだ、何か用か?」


なんだかケンカ腰で話し掛けられると、こっちもケンカ腰になってしまう。少し大人げないな。


「俺はお前がパーティに入ることは反対だからな。入れるなんて思うなよ」


まだその話続いていたのか。


「安心しろ。俺はパーティに入る気はない。それだけならもう行くぞ」


「待て」


「まだ何かあるのか」


だんだん話すのが億劫になってきたな。


「お前、少し恰好良いからってルーチェに色目使うな」


「は~~? 俺が何時色目なんか使ったんだ?」


「惚けるな。俺は後ろから全部見てたんだからな」


「勝手に言ってろ。俺は色目なんか使ってないし、お前のパーティに関わる気なんか少しもない」


もうこれ以上はバカ話に付き合う気もないので、さっさと宿屋に帰っていった。



◇ ◇ ◇



翌日もゴブリンとモウモウを狩り終わって報告するために受付に並んでいた。


「ちょっと、シオン君」


はぁ~。もう振り向く前から嫌な予感がヒシヒシと感じられた。無視したい気持ちもあったが、そういう訳にもいかず後ろを振り返った。


「何か用事か?」


「聞いたわよ。ちょっとひどくない?」


なんかひどく怒った様子で言ってくる。


「私達が絡んでくるのが迷惑だとか、私とルーチェに馴れ馴れしいとか」


「まず言っておく。俺はそんなことは言っていない。俺が言ったのはパーティに入る気がないって話だけだ」


「ウソ。しっかり聞いたんだから。ルーチェなんかその話聞いてショックで落ち込んでるのよ。そこまでひどい事言わなくてもいいじゃない。最低」


コリーは言うだけ言ってギルドから出て行った。

俺は呆然としながらも周りを見てみると注目の的になっていることに気付いた。勘弁してくれ。俺もギルドから出て行きたい気持ちになった。



「なんだか注目の的ですね。シオンさん」


順番が来てカウンター前に来たら、フェリスさんから揶揄われた。なんだか最近のフェリスさんは少し砕けた感じになってきた気がする。


「フェリスさん、勘弁してください。俺は何も悪い事してないですよ」


「分かっていますよ。優秀な冒険者は、パーティ関連のトラブルに巻き込まれることがよくあります。シオンさんも優秀ですから」


少し微笑みながらフェリスさんは言った。


「どうせ巻き込まれるなら、もう少し色っぽい話で巻き込まれたいですね」


少し冗談気味に返すことにした。


「あら、やっぱりシオンさんも男性なのですね」


「もちろん男ですから」


やっぱり大人の女性っていいな。そんな風に思いながらフェリスさんとの会話を楽しんで気分転換した。


受付での報告が終わってギルドを出ると、軽く肩を叩かれた。振り返るとレオナルドさんが立っていた。


「よう、シオン。時間あったら飲みにいかないか? 奢るぞ」


嫌な事もあったし、たまには気分転換にいいか。


「はい、行きます」




南門方面に向かい大通りから少し奥まったところにある酒場にきた。結構冒険者もいるのを見ると、人気店なのかもしれない。普段飲まないからサッパリ分からないが。


「えらい騒ぎだったな」


「レオナルドさんも見てたんですか」


「まあ、たまたまだがな」


付き合って頼んだエールを飲みながら、昨日からの出来事を話した。

エール思ったより飲めないこともないな。毎日欲しいかと問われたら必要ないと答えるが。


「そういう風に色恋が絡むとパーティはよく揉めることが多いからな。男女混合のパーティではよくあることだな」


「俺はパーティメンバーですらなかったんですけどね」


「シオンほどの色男だと避けては通れない問題だな」


「そんなもんですかね。なんだかパーティを組むのが面倒に思えてきましたよ」


「良いメンバーに恵まれることもあるぞ。もしくは男限定パーティはどうだ?」


う~ん、それもなぁ。味気ないし。


「俺も一応男なんで、やっぱりパーティには華が欲しい気持ちがありますよ」


レオナルドさんは少し考えてから言った。


「女をパーティメンバーに選んでも揉めない方法もあるぞ」


「どんな方法ですか?」


「女奴隷をパーティメンバーにすることだ」


奴隷ね。やっぱり時々見かけてた首輪をしてるのは奴隷だったか。


「奴隷というと、首輪をしてる人ですか」


「たぶん、お前が思っている以上に奴隷を見てると思うぞ。首輪をしてる奴隷ってのはほんの一部だ。普通は契約紋が体のどこかにあるだけで、首輪は必要ない」


首輪が必要ない?


「首輪が必要ないなら何で首輪してるんですか?」


「昔どこかのバカが奴隷を自分の持ち物だって誇示したいがために首輪を付けた悪い風習が今でも残ってやがるんだ。まあその話は別にいい。どうだ、ハーレムは男のロマンだろ?」


ニヤニヤ笑いながら聞いてきた。まあ、それについては否定しない。しかし奴隷でメンバーを揃えるね。少し考えてみるかな。


それからはダンジョン都市についても少し話を聞いた。やっぱりダンジョン都市ルクルスは人気があるようで、レオナルドさんも若い頃そこで活動していたようだ。


「ここからだと王都を通って向かうのが一番近いか。30日ぐらいで着けると思うぞ」


「ダンジョン都市での生活ってどうですか? もし俺が行くとしたら生活できますかね?」


日帰りで行くわけじゃないから生活できるかが問題だ。


「ダンジョンで産出された物以外にも各地から色々な物が集まるからな。まさに都市と言える大きな町で、生活に困ることはないな。実力のある冒険者なら稼げる町だ。まあシオン次第だが、お前なら必ず成功するとは言えないが、失敗することもないと思うがな」


何だかだんだんダンジョン都市、興味が湧いてきたな。


「だが、はっきり言ってソロだと危険だぞ。お前がどういう手段を取るにせよ、パーティは何とかした方がいい」


「そうですね。ダンジョン都市に行くならよく考えたいと思います」


「お節介ついでだが、もし王都を通って行くときはモウモウを狩って持っていくと、良い値段で売れるぞ。モウモウはこの辺りでしか取れないからな」


色々話も聞けて、頼んでいたエールも全て飲み終わったのでお開きとした。

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