第12話 モウモウ狩り(2)
町の中を片手で荷車を引きながら冒険者ギルドに向かっている。
モウモウとの戦闘で左手を負傷して、とりあえず荷車を返してから教会に治療に行こうと思っている。逃げているときはまだ良かったが、だんだん左手の痛みが強くなってきた。
「ルイスさん、今日は荷車使えそうにないので返却にきました」
「どうした、何かあったのか?」
「これ、この通りです」
俺は痛いのを我慢しながら、動かない左手を見せた。
「それはモウモウとの戦闘でか? ってかそんな時は先に教会に行って治療してこい」
「はい、ちょっと痛みが限界なので、この後教会行きます」
ルイスさんに告げてから教会に急いだ。
教会の場所については、町探索の時に把握済みだ。俺が教会と言われてイメージした建物とは少し違ったが、十分な広さがある綺麗な白い建物だった。
建物の受付らしいところにいるシスターに聞いてみることにした。
「すみません。左手を怪我したんですが治療ってお願いできますか?」
「怪我の治療ですね。お布施に小銀貨3枚頂きますがよろしいですか」
思ったより高いな。これは気楽に治療にくるってのは難しい。リーネが高いって言ってたのも納得だ。
「はい。お願いします」
シスターに小部屋へと案内された。部屋の中には年配の司祭?の男性が待機していた。
「こちらへお掛けください」
司祭は俺の左手に手をかざして唱えた。
「この者に癒しの光を」
光が左手を覆うと、だんだんと痛みが薄れてきた。光が無くなったのを見て動かしてみる。たぶん骨折していたと思うんだが、問題なく動くようになった。直接患部に触ってみたがどこにも痛みは無かった。
「どうですかな。怪我の具合は」
「はい。無事癒えたようです。ありがとうございました」
「そうですか。また何かありましたらお越しください」
外へ出ながら回復魔法について考えた。これでもしかしたら回復魔法を覚えられるかもしれない。しかしこの魔法って教会の関係者だけしか使えないとかではないよな? 仮に覚えられても容易に使えない状況は困る。
まだ時間あるし、荷車借りて平原ウサギでも狩ることにするか。ついでにルイスさんに回復魔法のこと聞いてみるか。
「回復魔法は素質さえあれば誰でも覚えられるぞ? まあ教会では回復魔法持ちは優遇されるから多くの人数を抱えてることは事実だがな」
そうだよな。回復魔法を持ってるほうが教会の権威的に有利になりそうだし。
でもこれで回復魔法を使うのに障害はないな。覚えてればだが。
「じゃあ荷車借りていきますね」
「おう、怪我に気を付けろよ」
南門から外に出てすぐにステータスを確認する。
◎取得可能魔法リスト
回復魔法
やっぱりリストに出ていたな。もちろん取得する。
回復魔法も特に呪文とかは必要ないはずなので、頭でイメージして発動を確かめてみるが、発動はしたが効果は分からない。まあ怪我はないからな。
回復魔法覚えたのはいいが、これどうやって鍛えるんだ?
怪我を治さないと熟練度上がらないよな?
帰ったら考えてみるか・・・
◇ ◇ ◇
翌日はまた北門から出てモウモウを狩りに来ている。
狩りの仕方を考えていた。平原ウサギを狩る時みたいに首を狙って剣を振っていたんだが、今の俺の技量では有効打にならなかった。そこで足を集中的に狙って、動きを止めてからトドメを刺すことにした。
草を食べているモウモウにゆっくりと近づいていく。手に持った石を2回投げつけるとこちらを認識した。急いでその場を離れる。気配感知ではすごい勢いで近づいてくるのを把握できた。
背後を振り返り、モウモウの接近に備える。
突進してくる姿をしっかり見据えて、横に避けてやり過ごした。モウモウは横をそのままの勢いで通り過ぎ、少し先で速度を緩めた。
それを見てすぐに距離を詰めるために走りだした。そのままの勢いで剣を振るつもりだったが、角を振って牽制された。剣で角を弾いてから、少し間を開けた。
ここでまた距離を取られると突進力で押されてしまうので、近い距離から足を狙う。
こちらに角を向け体当たりしてきたのを、剣で迎え撃って対抗する。当然力では拮抗できないため、角を逆らわないように流した。その位置から前足に剣を振る。
「ブモ~~~!!」
モウモウの前足は切断されることはなかったが、斬られた方の足を地面につけることができなくなった。走ろうとしても走れない状態を見て、反対側に回り、同じく前足を斬りつけた。
立っていることができなくなったモウモウを見て、心の中で謝りながら、剣を首筋に叩き込んでトドメを刺した。
解体は困難を極めた。
まず血を抜くのにそのままでは難しいので首のところに穴を掘り、少し傾けて抜けやすくした。その後、何とか内臓を取り出したのだが、体の大きさが大きさなので重いしやり難い。
そして水で綺麗にした後に、枝肉に切り分けてから冷やしていく。
モウモウが初めてというのもあるだろうが、これまでの何倍も時間が掛かった。
時間的にも荷物的にも今日はここまでにして、冒険者ギルドに納品に戻った。
ルイスさんが俺を見てニヤリと笑って言った。
「ほう、今日は無事に狩れたようだな」
「何とか狩り方を考えました」
「大したもんだ」
「でも解体に時間が掛かるし、荷運びとか大変で何か考えないとダメかもしれないですね」
ルイスさんは少し考えてから聞いてきた。
「シオンはそこそこ金を貯めてそうだな?」
「どうですかね? まあ切迫はしてないですが」
「これなんだが、ギルドで大型を解体するときに使ってる吊り台でな。まだ予備用に5台あるから譲ってもいいぞ。大銀貨1枚になるがな」
見せられたのはロープで吊るすためなのか滑車っぽいものが付いた台だ。それはいいのだが。
「それは有難いんですが、そもそもこんなの持ち歩けませんよ」
「まあそうだな。でだ、さっき貯金について聞いたのは、それを解決できる魔道具があるんで勧めてもいいかと思ってな」
「え、それはどんな魔道具ですか?」
これはもしかすると例のあれがあるんだろうか。
「マジックバッグと言って、荷物を収納できる魔道具だな。収納できる量によって値段もピンキリだがな」
「それって魔道具屋に売ってるんですか?」
「ああ、売ってるぞ」
魔道具屋に2回行ってるのに気付かなかったな。
「すみません。マジックバッグを買ったら吊り台売ってもらっていいですか?」
「おう、それでいいぞ」
ルイスさんにモウモウの肉の査定をしてもらってから、受付に納品の報告をした。
ドタバタしながら、魔道具屋へと急いだ。
「すみません。マジックバッグを探してるんですが」
自分で探すより聞いた方が早いと思って迷わず尋ねた。
対応してくれたのは前回と同じ人だ。
「マジックバッグはこちらになります」
少し奥の方へと案内された。そこには色々な種類のバッグが置いてある。
収納量と金額を聞いてからバッグを確かめていく。
購入したのは背負うタイプの1LDKワンルームぐらいの収納量で大金貨1枚のものだ。
購入したマジックバッグに満足しながら帰ろうとした時、隣に並んでいる長方形の冷蔵庫を大きくしたような物が気になった。
「ここに並んでいるものは何ですか?」
「こちらは携帯トイレになります。商人、冒険者ほか色々な方に人気の魔道具になります」
これ携帯トイレか。
この世界にきて驚いたものの1つがトイレだった。水洗トイレならぬ魔道トイレが宿屋に設置されていた。使用後に焼却・消臭・洗浄してくれる機能満載のトイレだ。
「屋外で使用することを考えられており、比較的頑丈で通常の機能に加えて静粛性が強化された仕様となっております。そのため危険時には外部から信号で内部に知らせるボタンも備えております。こちらのタイプで小金貨5枚になります」
今までは日帰りばかりだったので気にならなかったが、もし長期に渡る場合は必要だよな。マジックバッグもあるし買っておくか。
金を払いながら、思ったことを聞いてみた。
「マジックバッグに携帯トイレ。便利な魔道具が多いですね」
「マジックバッグにトイレ、その他色々な魔道具については、約100年ぐらい前のある男爵様が考えられて作り出されました。その男爵様は元々は平民で、魔道具の発展に寄与した関係で貴族様に叙爵されたそうです。もちろん現在に至るまで魔道具の改良は行われてきましたが、基本となるものはその時代に考案されたものです」
「凄い方がいたんですね」
なんかアイデアが日本人っぽいよな。俺がここにいるってことは、他に誰か日本人が来ててもおかしくはないな。
剣以外の荷物はマジックバッグに収納してから外にでた。
マジックバッグは手に触れて収納することを考えると収納でき、出すときは入れた順番に一覧形式でイメージが伝わるので、そこから選んで出すことができる。なので、小さい物は袋にまとめて収納すると管理しやすいし、出し入れがスムーズになる。
「シオンさん、モウモウ狩りは順調ですか?」
リーネから心配されてるようで昨日に引き続き狩りのことを聞かれた。もちろん昨日怪我したことは心配をかけるので黙っている。
「昨日は狩れなかったけど、今日は問題なく狩れたぞ」
「わ~、良かったです」
「マジックバッグも買ったし、明日から何匹でも狩ってみせるぞ」
この言葉は虚勢ではない。マジックバッグ内は時間の経過がないようなので、狩れるだけ狩って、後からまとめて解体することにした。
「シオンさんすごいですね」
リーネがきらきらした目で見つめてくるが、ふと何か思いついたのか尋ねてきた。
「もしいっぱい狩れたときに、モウモウ1体丸ごとウチに売ってもらうことってできますか?」
別に1体ぐらいいいかな。それぐらいなら冒険者ギルドに納品しなくても誤差だと思う。
「多く狩れたときなら1体ぐらいは大丈夫だ」
「ありがとうございます。お父さんとお母さんに伝えてきますね」
リーネは奥へと伝えに行った。
しばらくするとミリーさんが出てきた。
「シオンさん、リーネが無理なお願いしたんじゃないですか?」
ミリーさんは俺のことを心配しながら聞いてきた。
「いえ、俺が狩った中の1体という話ですから、問題ないですよ」
「そうですか? それなら卸値より少し高めで買わせてもらいますね」
「はい、そちらが損にならない金額でお願いします」
折角直接買うのに、いつもより高値で買われると申し訳ないからな。
何時ぐらいに納品すればいいか聞いてから、部屋へと戻った。
マジックバッグが手に入って荷運び関連の問題が解決したので、明日からの狩りがすごく楽しみだ。
ステータスの確認をして寝ることにする。
ステータス
================
名前 シオン
種族 人間
年齢 16
スキル
戦闘 短剣術☆0 ( 0.43 ) △0.01
剣術☆0 ( 0.90 ) △0.02
身体 体力強化☆0 ( 0.89 ) △0.02
頑健強化☆0 ( 0.37 )
筋力強化☆0 ( 0.67 ) △0.03
器用強化☆0 ( 0.35 ) △0.02
敏捷強化☆0 ( 0.43 ) △0.03
特殊 気配感知☆0 ( 0.58 ) △0.03
解体☆0 ( 0.55 ) △0.04
並列思考☆0 ( 0.20 ) △0.01
魔法 生活魔法★1 ( 0.43 ) △0.03
土魔法☆0 ( 0.24 ) △0.02
水魔法☆0 ( 0.24 ) △0.02
火魔法☆0 ( 0.24 ) △0.02
風魔法☆0 ( 0.24 ) △0.02
回復魔法☆0 ( 0.01 )
加護 転移ランダム特典 金一封
転移特典 言語理解
転生ランダム特典 生体掌握網
転生特典 成長促進
================
ふと、取得リストに追加されているのに気付いた。
◎取得可能魔法リスト
時空魔法
これはマジックバッグを使ったからだろうか。予想通りならマジックバッグの作成には時空属性が絡んでるということだろう。
もちろん取得するが、この段階で何ができるんだろうか。思い浮かぶ難易度の高そうな魔法は、この初期の熟練度では使用できないはずだ。熟練度上げを頑張らないとな。
鍛錬方法は今後考えていこう。
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