第9話 冒険者活動の始まり(2)


「シオンさん、もう体調は良くなりましたか?」


頼んだ朝食を持ってきてくれながら、リーネが心配そうに聞いてきた。

昨日の夕食のとき、胃が受け付けなくてパンとスープだけしか食べなかったからだ。


「ああ、もう大丈夫だ」


「冒険者は体が資本なんですから、しっかり食べてくださいね」


「ありがとう」


今は普通に食欲があるから大丈夫だ。

昨日のリベンジで平原ウサギに挑戦するつもりだから、無事倒すことができれば解体作業が待っているので、夕食ではどうなるか不明だが。



◇ ◇ ◇



いつもの鍛錬を終えて石壁で休憩しながら、平原ウサギとの戦いについて考えている。


問題となるのは2点。1点は、草で視界が遮られ探すのも難しく、戦闘中も姿を見失いやすい。もう1点は、こちらが攻撃しても敏捷で上回る相手に当たらないこと。


どうしても視覚中心になるのは当たり前なので仕方ない面もあるんだが、もう少し、嗅覚は無理にしても聴覚にも意識を集中して探ってみるか。

攻撃については、今回は短剣を使うことにして、相手の攻撃にカウンターを狙うことを主体にやってみる。



なるべく音をたてないように意識しながら平原を進む。

相変わらず草が邪魔で視界が悪い。耳にも集中するが、聞こえてくるのは自分がたてる音ばかりだ。


位置的には、昨日平原ウサギがいた辺りに近い。


ガサガサっ。自分がたてた音以外が聞こえた気がする。動きを止めて、周囲に意識を集中する。

突然、目の前に平原ウサギが飛び出してきた。


横に倒れ込むように避けて、すぐに背後を伺う。一瞬右側の草の中に消えていく姿が見えた。

体を右側に向けて待ち構える。


正面から姿を現して突撃してきた。横に避けながら、短剣でカウンターを狙う。少しタイミングがずれて短剣は空を切った。

消えた方向を見ながら、耳に意識を集中する。右側を移動する音が聞こえたような気がして、そちら側に体を構える。

予想が当たり、再度正面から突撃してきた。その動きを見て避けながら、今度はしっかりタイミングを合わせ短剣を振った。確かな手応えがあり背中を斬り裂いた。

平原ウサギは横になり、バタバタと足を激しく動かしていたが、そのうち動きは弱々しくなっていった。

俺は短剣を喉元にもっていってトドメを刺した。


生物にトドメを刺すというものは、気持ち的に何かくるものがある。この事からも俺は狩りはやったことがないのだろう。

少し落ち込む気持ちを抑えながら、教えてもらったように血抜きを行う。


一旦開けた場所まで移動しながら、購入した鍬で穴を掘った。

問題はここからだ。

解体ナイフを使用して、平原ウサギの腹を捌いていく。もうこの段階から、顔から血の気が引いていく感じが分かった。昨日は見ているだけで気持ちが悪くなったが、今回は自分で手を動かさないといけない。

気分が少し悪くなって、吐き気を催してきたが歯を食いしばって、内臓を取り出していく。粗方取り終えたはずなので、生活魔法の水で綺麗に洗い流していく。

収納袋に入れてから、桶の水に浸して冷やす。


少し足に力が入らない感じがしたが、石壁まで移動して休憩した。

初めての解体は、まあ予想通りなのだろう。時間も掛かったし、気分も悪くなった。でも最低限はできたはずだ。

少し気分が落ちついてきたのでステータスの確認をする。

見てみると取得可能スキルリストに追加があった。



◎取得可能スキルリスト

 気配感知

 解体



どちらも現状ではかなり役立つスキルだ。当然すぐに取得して確認する。



ステータス

================


名前  シオン

種族  人間

年齢  16


スキル 短剣術☆0 ( 0.23 ) △0.02

    剣術☆0 ( 0.69 ) △0.02

    体力強化☆0 ( 0.71 ) △0.02

    頑健強化☆0 ( 0.15 )

    筋力強化☆0 ( 0.48 ) △0.02

    器用強化☆0 ( 0.10 ) △0.05

    敏捷強化☆0 ( 0.14 ) △0.08

    気配感知☆0 ( 0.07 ) △0.07

    解体☆0 ( 0.10 ) △0.10


魔法  生活魔法★1 ( 0.12 ) △0.03


加護  転移ランダム特典 金一封

    転移特典     言語理解

    転生ランダム特典 生体掌握網

    転生特典     成長促進  


================



◇ ◇ ◇



ギルドの解体場は大通りを通らないでいいので、納品するのには便利だ。


「ルイスさん、平原ウサギの納品に来ました。確認をお願いします」


「おう、ちょっと待ってろ」


ルイスさんは解体したものを倉庫に格納しているところだった。


「ほう。初めて解体したにしてはスジがいいな。残念なのは毛皮のこの傷か。傷が無ければ肉とは別に小銅貨2枚で引き取れたんだけどな」


「毛皮って買い取って貰えるんですか?」


「納品依頼外にはなるが買い取ってるぞ」


初めて聞いたな。というか俺の調査不足か。


「肉は処理もちゃんと出来てるし、冷やすのも忘れてないから問題ないな。これを受付に出して依頼の報告していいぞ」


紙に何か記入してから渡してくれた。


受付カウンターはこの時間になると少しは人が並んでいるみたいだ。

フェリスさんのところが空いていたので報告に行く。


「平原ウサギの納品依頼の報告です」


紙を渡しながら目的を告げる。


「はい、承りました。平原ウサギの納品確認致しました。報酬についてですが冒険者キューブのほうへ記録致しますか?」


「冒険者キューブに記録ですか? そんなことができるんですか?」


そんな話初めて聞いたんだが。確か最初の説明にはなかった。


「はい。この説明は初めて依頼報告された方に別途説明することにしているんです。冒険者ギルド及び、その他ギルドでのお金の出し入れが可能となります」


使えるのは限定的なのか。便利なのか便利じゃないのか微妙なとこだが、手元に持ち歩かないで銀行に預けると考えれば安全ではあるか。


「キューブへ記録してください」


「はい、分かりました」



◇ ◇ ◇



翌日も南門から出て平原に来ている。

鍛錬を終えて、これから平原ウサギを狩りに行くところだ。

平原ウサギの納品は、常時依頼ではないのだが、基本毎日発生している依頼なので、受付への届け出は不要と言われている。町になると肉の消費も多いのだろう。


まず昨日取得した気配感知を試している。生活魔法や他のスキルでも分かるとおり、スキルを取ったばかりの☆0だと、スキルにかなり制限がある感じだ。それでも使えないわけではない。どっちにしろ熟練度を上げるためにも、使っていく必要がある。


なるほど。これは俺がRPGにも出てくる地図レーダーみたいなイメージを持ってるから、こんな感じに頭に浮かぶのか。これは便利だが頭がきつい。目からの情報と感知と頭が二分されるような負荷がかかる。


今反応が出ているのは小さい点みたいな表示。近づいて見てみると虫だな。

頭の疲れを感じながらゆっくりと先に進んでいく。そうすると、たぶん10m先ぐらいだろうか。先程の虫に比べると大きな反応がしている。

たぶん、平原ウサギだろうと当たりを付けて、短剣を構えて先に進む。


気配感知が示す位置から平原ウサギが突っ込んできた。避けながら、短剣で喉を狙う。

少し浅く、切っ先が若干触れたぐらいだろうか。急いで向き直り、次の突撃に備えていると、右側方向から突っ込んできた。カウンターで喉を狙うが、足の根元を斬り裂いたようだ。


身動きができなくなったのを見て近づき、喉を斬りトドメを刺した。

戦闘中に切るのはともかく、トドメを刺すのはまだ少し慣れない。



昨日と同じように場所を移動して解体を行う。流れについては一度やったので迷うことなく処理できた。一応スキルで解体を取っているが、効果が出ているのかどうかは不明だ。

今日も長い時間を気分の悪さと戦いながらやりきった。


桶にはまだ何体か入れられるので、時間の限り狩りをすることにした。

その後、3体目の解体が済んだところで冒険者ギルドへ納品することにした。




「リーネ。今日もパンとスープだけにしてくれ」


「えええ。今日もなんですか? そんな繊細な神経だと冒険者続きませんよ?」


まったくその通りなんだが、日本生まれの人間には思った以上にきつい。


「慣れてきたから明日は大丈夫だ」


「本当ですか? 心配してるんですからね」


「ああ、ありがとう」


「代わりに朝食は大盛にしておきますね」


本当に心配してくれているのが分かって嬉しい。



部屋に戻って今日の成果を確認していると新たにスキルが取得可能になっていた。ここ最近スキルが増えているのは、苦しい思いをしながら頑張っているおかげだろうか。


◎取得可能スキルリスト

 並列思考


これは間違いなく気配感知を使っている恩恵だな。あれは本当に頭がきつい。



ステータス

================


名前  シオン

種族  人間

年齢  16


スキル 短剣術☆0 ( 0.25 ) △0.02

    剣術☆0 ( 0.71 ) △0.02

    体力強化☆0 ( 0.73 ) △0.02

    頑健強化☆0 ( 0.15 )

    筋力強化☆0 ( 0.50 ) △0.02

    器用強化☆0 ( 0.14 ) △0.04

    敏捷強化☆0 ( 0.19 ) △0.05

    気配感知☆0 ( 0.15 ) △0.08

    解体☆0 ( 0.20 ) △0.10

    並列思考☆0 ( 0.01 ) △0.01


魔法  生活魔法★1 ( 0.18 ) △0.06


加護  転移ランダム特典 金一封

    転移特典     言語理解

    転生ランダム特典 生体掌握網

    転生特典     成長促進  


================



スキルが増えてきて、それは嬉しいんだが何だか見にくいな。

もう少し分類された表示にできないか? と考えていると、頭の中でピコンと音が鳴った。

これはもしかしてと再度ステータスを表示する。



ステータス

================


名前  シオン

種族  人間

年齢  16


スキル

 戦闘 短剣術☆0 ( 0.25 ) △0.02

    剣術☆0 ( 0.71 ) △0.02


 身体 体力強化☆0 ( 0.73 ) △0.02

    頑健強化☆0 ( 0.15 )

    筋力強化☆0 ( 0.50 ) △0.02

    器用強化☆0 ( 0.14 ) △0.04

    敏捷強化☆0 ( 0.19 ) △0.05


 特殊 気配感知☆0 ( 0.15 ) △0.08

    解体☆0 ( 0.20 ) △0.10

    並列思考☆0 ( 0.01 ) △0.01


魔法  生活魔法★1 ( 0.18 ) △0.06


加護  転移ランダム特典 金一封

    転移特典     言語理解

    転生ランダム特典 生体掌握網

    転生特典     成長促進  


================



ステータス表示が見やすくなった気がする。

整理が終わったところで寝ることにした。明日も平原ウサギで稼ごう。

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