第8話 冒険者活動の始まり(1)


「【クリーン】」


井戸での剣の素振りを終え、汗を拭いてから部屋に戻ってきた。そして★1になってから使えるようになったクリーンを使って、体の汚れを落としている。

昨日は気付かなかったが、ココナで掛けてもらった時より、効き目が少ない気がする。まだ熟練度を上げないと効果が悪いのかもしれない。範囲を狭めるとどうだろうか。首から上に集中して掛けてみると、効果が高まった気がする。もしくは重ね掛けが効果ありそうか。


生活魔法にばかり目が行っていて、見落としていたことがあった。



◎取得可能スキルリスト

 頑健強化

 器用強化

 敏捷強化



昨日の指導の成果の一部か。全てを取得してからステータスの確認をする。



ステータス

================


名前  シオン

種族  人間

年齢  16


スキル 短剣術☆0 ( 0.19 ) △0.01

    剣術☆0 ( 0.63 ) △0.03

    体力強化☆0 ( 0.67 ) △0.02

    頑健強化☆0 ( 0.10 ) △0.10

    筋力強化☆0 ( 0.42 ) △0.03

    器用強化☆0 ( 0.05 ) △0.05

    敏捷強化☆0 ( 0.06 ) △0.06


魔法  生活魔法★1 ( 0.06 ) △0.06


加護  転移ランダム特典 金一封

    転移特典     言語理解

    転生ランダム特典 生体掌握網

    転生特典     成長促進  


================



スキルの数が増えてきたことに、少しずつ自分が強くなっている感じがして嬉しくなるが、実際はまだまだ弱い。なり立てのひよっこ冒険者だしな。

この後、昼前まではいつもの鍛錬メニューをこなした。クリーンが使えるようになり、鍛錬後に汗でべとべとした状態を解消できるのはありがたい。



◇ ◇ ◇



10等級でも受けれる依頼はどんなだろうか。


今日依頼を受けるわけではないが、依頼の内容を検討するために冒険者ギルドを訪れている。

依頼については難易度別に掲示板に貼り付けられている。明確に等級で受けられる依頼を制限はしていないが、当然低等級の冒険者が高難易度の依頼を受付に持って行っても、受理してもらえない。


掲示板の一番難易度が低い辺りの依頼を眺める。


定番の薬草採取なんかもあったりするが、実はそんなに難易度が低いわけではない。慣れた冒険者には難易度が低いのかもしれないが、冒険者を始めたばかりのルーキーには荷が重い。まず薬草の専門知識を覚える必要がある。それにそこら辺に生えているわけではなく森に入る必要があるからだ。

当然薬草の買取価格は割合高く、いい稼ぎになる。薬草が材料のポーション類が高くなるわけだ。道具屋でポーションを見たときも、試しに買おうかと考えたが、消耗品にしては高いので二の足を踏んだ。


町の中の依頼もあるが、正直清掃や土木作業など興味が湧いてこない。生活には必要な内容だとは分かっているが、どうしても戦闘系依頼に目が行ってしまう。


結局目についたのは、平原ウサギの肉納品依頼だ。

1体納品で大銅貨3枚の報酬。但し、肉の状態により報酬変動とある。まあ当然か。

詳細は聞いてみたほうがいいか。


「フェリスさん、こんにちは。平原ウサギの納品依頼で聞きたいことがあるんですが」


今の時間は冒険者も少ない。迷惑になることもないのでフェリスさんに聞くことにした。


「こんにちは。どんなことでしょうか?」


「肉の状態で報酬変動とあるんですが、例えば、どんな状態だと査定が下がるんでしょうか?」


フェリスさんは少し考えてから答えてくれた。


「当然お肉が劣化するほど査定が下がります。最悪の場合は引き取れないこともあります。それを防ぐために正しく処理をする必要があるのですが。シオンさんは解体をされたことはありますか?」


「いえ、ないですね」


一般の日本人で解体経験者なんていないだろう。


「そうですか。少し時間を頂いてもよろしいでしょうか? もし望まれるのでしたら、ギルドの解体場の作業が見学できるか聞いてきますが」


解体場の作業の見学か。実際に見せて貰えるなら、手っ取り早いか。


「お願いしてもいいですか」


「はい。確認致しますので、お待ちください」


フェリスさんは奥へと確認に行った。

お願いしておいてなんだが、解体って大丈夫なんだろうか。よく考えてなかったが、内臓とか取り出したりするんだよな。

グロい想像をしているところで、フェリスさんが戻ってきた。


「許可を頂けました。先程納品された物を解体するところでしたので、ちょうど良かったです。こちらへどうぞ」


フェリスさんについて、訓練場とは反対側を奥へ進んでいく。

奥の解体場に着くと白衣っぽい作業着を着た男が作業をしていた。


「ルイスさん、お待たせしました。こちら、シオンさんです」


「おう、分かった。おい、シオンと言ったか。早速始めるぞ。簡単に説明しながら解体するから、少し離れて見学してろよ」


「はい」


「では、シオンさん、私は戻ります」


「分かりました」


ルイスさんは1体の死んだ平原ウサギらしきものを持ちながら説明を始めた。


「いいか。本来はちゃんとした解体をしたものを納品するのが査定は高い。これを持ち込んだヤツは、最低限血抜きだけをして、急いで納品した感じだな。血抜きはここだ。この首のところに切りつけて血を抜く」


「その次に内臓を取り除く。内臓を残しておくと腐敗が進みやすいから、すぐに取り除け」


ナイフで腹を切り、その都度どこを切るか、どうやって内臓を取り除くか説明しながら実演してくれた。

俺はだんだん気持ち悪くなりながらも、折角のチャンスなので、目を逸らさずに見続けた。


「ここまで綺麗にしてから冷やすと、査定は問題ないだろう。って、おい。顔真っ青だな平気か?」


「はい。内容は理解しました。すみません。ちょっと休憩していいですか」


「ああ、作業はだいたい終わったからいいぞ」


俺は部屋の外に出てから座り込んで休んだ。正直よく吐き気を抑えることができたと思う。

しばらく座り込んで胸のムカムカの治まるのを待ってから、部屋の中に戻った。


「お、戻ったか。もう大丈夫なのか?」


「はい、何とか」


「解体初めてなら仕方ないだろ。でも稼ぎたいなら避けては通れないからな、こればっかりは」


「そうですね。今後依頼を受けていくので、慣れていくしかないと思います」


「そうだな。まあ、頑張れ」


「今日はありがとうございました」



受付カウンターに戻ってフェリスさんに礼を言う。


「フェリスさん、解体場での見学ありがとうございました。解体のやり方のいい勉強になりました」


「それは良かったです。顔色悪いですけど大丈夫でしたか?」


「正直慣れるまできつそうですね」


「そうですね。 面倒だと思って解体せずに納品する冒険者の方もおられます」


「報酬査定にひびくんじゃないですか?」


困ったようにフェリスさんが苦笑いを浮かべる。


「はい。査定に影響するので正しく処理することの重要性を説明するのですが、なかなか浸透しません」


「大変ですね。ところで、納品って直接解体場に持って行ってもいいんですか? ギルドの正面入り口からは入りにくいというか」


「はい、問題ありません。解体場は直接外から入れるようになっておりまして、そちらに納品してからこちらで報告して頂くことも可能です」


「わかりました。納品のときは、解体場を利用しますね」



冒険者ギルドを離れ、解体に必要な道具を購入するために道具屋に向かった。

まず解体ナイフは必要だろうし、冷やすための桶もいる。後は、内臓とかを放置もできないから鍬を買って埋めることにした。

買うものを探しながら、目的について説明すると、収納袋も勧められた。何の素材なのか分からないが水を弾くらしく、解体した後に入れておくのに便利そうだ。




南門から出て平原の中をゆっくり進みながら、平原ウサギがいないか周囲の動きを探っている。平原ウサギを狩るなら、こちら側の平原が探しやすいと聞いたので、早速試している。


縄張りに入ったら、いきなり襲撃されるらしいので用心している。1体だけだったらまだ助かるのだが、複数が接近しているところに無防備に入ったら、集中して狙われることになってしまう。

目を凝らして探しているが、草が生い茂っているのでなかなか判別できない。


ゆっくり進んでいると、左側から飛び掛かってくる平原ウサギが目の端に映った。とっさに後ろに避けて突撃を回避する。

草が障害物となって、姿を捉えにくい。

剣を構えながら周囲を伺っていると、今度は右側前方から飛び掛かってきた。これは横に避けて回避した。すぐに背後に向き直り、剣を構えて備える。

折り返して突撃してきたのを見て、剣は振り下ろしたが回避されてしまった。

イメージしていたよりも速い。あと、草が邪魔だ。

まだ剣術が中途半端なのもあって、完全に振り遅れてついていけてない。

一瞬目を離して隙に草の中で見失ってしまった。

改めて周囲を確認していると、右側後方から脇腹辺りに突撃された。


「ぐっ」


少し息が詰まった。屈みそうになるのを堪えて、目で姿を追った。

前方から近づいてきたのに合わせて剣を振るう。これも躱されて、また脇腹に攻撃を受けた。


これは、あんまり良くない。

後ろを振り向いて確認しながら、素早く後退した。幸い、こちらを追撃してくるようなことは無かったので、そのまま離れることにした。



石壁の近くまできてから座って考えた。

俺の中で考えていたイメージと違いすぎた。正直、平原ウサギが丸見えで、こちらに突っ込んできたら、剣を合わせれば倒せると甘く考えていた。


まず今の俺の剣術では、相手を捉えることができない。ここは短剣に持ち替えたほうがいいかもしれない。

そして、思った以上に相手を見失いやすい。これは俺が慣れていないこともあるんだろうが、ここまでやり難いとは思わなかった。なるべく隙を見せないようにしないとダメだな。



初めての実戦は成果なしの反省点ばかりだな。

だけど、明日は倒せると信じたいところだ。

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