第5話 東の町ロマナ(2)
パッチリと目が覚める。
夜更かしをしないから、目覚ましが無くても普通に早く起きれるな。
今日は色々買うものがあるから、早めに行動しよう。
そう考えると、金一封って残念な特典だなと思っていたんだが、最初の段階で必要なものを買える状態ってありがたいな。初回限定の特典だったとしても当たりだったかもしれない。
毎朝恒例の鍛錬を行う。
短剣の素振りはまだいいが、生活魔法のクリーンは魔力も消費してないような気がしてきて、意味があるのか疑問を抱いてきた。
考えないようにして、朝食を食べに階下に降りる。
「リーネ、おはよう」
「シオンさん、おはよう」
「朝食頼めるか?」
「は~い、今持ってきますね」
朝早くから活動する冒険者は多いみたいだ。テーブル席は多そうなので、カウンター席の端っこに座る。
時々聞こえてくる会話の中に、平原ウサギ、ゴブリン、モウモウなどの討伐目標の名前が聞こえてくる。
この近辺で狩れる獲物なのだろう。
「シオンさん、お待たせです」
「ありがとう、リーネ」
持ってきてくれた朝食は、パン、薄肉の上に卵を載せて焼いたもの、スープ、果汁ジュース。
卵あるのか。畜産業ってやってるんだな。
「リーネ、道具屋と武器屋と防具屋って知ってたら教えてくれないか?」
「いいですよ。簡単に場所を書いた紙渡しますね」
「助かるよ」
朝食を食べながら、忙しく働いているリーネを見る。
接客をしているのはリーネだけなんだが、リーネの家族で営んでいる感じか。
リーネって若いのによく働くな。元気よくて働き者ってほんとに看板娘って感じの娘だな。
朝食を食べ終わり、カギを預けて外に出た。
まずは道具屋に行くか。
紙に書かれた道具屋の場所は、大通りに面していた。
建物も大きく、多くの物を取り扱っていそうだ。
建物の中に入ると、棚に色々な物が綺麗に置かれていた。
聞いたほうが早いな。
「すみません、持ち歩けるぐらいの時計ってどこにありますか?」
20代の男が担当してくれた。
「はい、こちらにございます」
案内してくれたところには、四角い箱状のものだったり、懐中時計に似たものだったり、数多く揃えられていた。
「この時計の動力ってどうなってるんですか?」
「どの時計も魔力充電式になっております。例えばこの時計、この部分を押すと魔力を充填する仕組みになっております」
電池切れみたいな事がなくて使いやすいな。
色々ある中で、持ちやすい懐中時計型のものを取って値段を聞いてみる。
「これいくらですか?」
「こちらは小金貨1枚になります」
なかなかの値段だな。でも必要経費か。
小金貨1枚を取り出す。
「これにします」
「ありがとうございます」
何かに包んでくれようとしていたが、すぐに持つものだし断って店を出た。
これで時刻が分かる。現代社会に慣れ親しんだ身としては、時刻が分からない生活というのは、すごく不便に感じるものらしい。
続いて武器と防具を買うのだが、幸い、両方とも同じ店で取り扱ってるみたいだ。
どんな武器にするか考えて歩いていたが、やっぱりオーソドックスに剣だな。扱い安い長さの剣がいいが。
店にたどり着いて中を覗いてみると、色々な種類の武器が並んでいる。
1階は武器だけしか無さそうなので、防具は2階なのか?
武器に見惚れながら中に入ると、30代ぐらいの男が対応してくれた。
「いらっしゃいませ」
「少し剣を見せてもらってもいいですか?」
「どうぞ、ご覧ください」
剣をと言いつつも、飾られた武器を見ていく。
槍、戦斧、槌、棍棒、弓、色々とある。実はさっき考えていたとき、槍と戦斧についても検討していた。今後どんな魔物と戦うことになるか分からないので、大型武器というのも選択肢には入っていた。
ただ、今まで武器をまともに扱ったこともない人間が、大型武器を扱えるか自信がなかったので、オーソドックスな剣にした。
1本の剣を手にした。全長が120cmぐらいの頑丈そうな鉄剣だ。短すぎず長すぎずだ。持ってみると少し重い。
「これ、いくらですか?」
「大銀貨2枚になりますね」
大銀貨2枚を取り出した。
お金を渡しながら買うことを言う。
「これに決めました」
「ありがとうございます」
「これのメンテナンスはこの店でも可能でしょうか?」
やっぱりメンテナンスは聞いておかないと、剣の耐久度が減っていきそうだしな。
「はい、メンテナンスの内容によって時間を頂くことになると思いますが、こちらでお預かりできます」
剣はこれでいいので、次は防具を買おう。
「防具も見せて貰いたいんですが、2階ですか?」
「はい、2階に揃えております」
2階ということなので、階段を上がって行くと、こちらも革鎧から金属鎧、ローブなど色々揃えてあった。
将来的には金属鎧に興味があるんだが、今のところは革鎧だな。
これは良く分からないな。良し悪しを見分ける目は持っていない。でも、この黒っぽいのは硬そうだしいいかもしれない。聞いてみるか。
「これは性能的にどうですか?」
「このハードレザーアーマーは、硬化処理がしっかりされており、金属鎧に比べれば防御力は下がりますが、なかなか良い品となっております」
良さそうだし、これでいいか。
「いくらでしょうか?」
「大銀貨1枚と小銀貨5枚となります」
お金を支払って、早速身に着けることにした。着用すると、少し遊びがあるので、鎧の微調整をしてもらった。
微調整を待つ間に、店内を見て周ると目についたのは、登山者が担ぐような背負いバッグ。
必要なものを揃えてきて、増えてきた荷物を入れるのに必要かな。かなり大きい物を購入することにした。
今日最後の目的。冒険者ギルドにやってきた。
中に入ると人が疎らにいるだけで静かな感じだ。普通に考えれば、冒険者は朝早くに訪れて、今は依頼の真っ最中だよな。
受付カウンターには1か所だけ受付嬢が座っている。今日はフェリスさんではないようだ。昨日と同じような時間帯だから、ひょっとしたら交代で休憩しているのか。
受付嬢は茶髪のショートがお似合いの可愛い女性で、たぶん20歳前後ぐらい。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「こんにちは。相談したいことがあってきました」
「冒険者キューブはお持ちですか?」
「はい」
冒険者キューブを渡して、相談内容について説明した。
ギルドのほうで簡単にでも剣のレクチャーをしてもらえたりできないかと考えていたのだ。剣の鍛錬が自己流なために、ほんとに鍛錬になってるかが不安だったのだ。
「ギルド専属冒険者の指導を受けることができますが、武器は剣ということでいいでしょうか?」
受付嬢さんは、何かの記帳を確かめながら聞いてきた。
「はい、剣でお願いします」
「3時間で小銀貨5枚となりますが、問題ないようでしたら、明後日の12時からご予約致します」
「お願いします」
「ご用件は以上でしょうか?」
他には何もないな。今日の予定は終了だ。
「はい、大丈夫です」
「本日はアイリが承りました。何かございましたらご連絡ください」
時間を確認すると、12時を過ぎたところだ。腹が空いたな。
少し残りの時間の予定を考える。
やっぱり剣だな。剣の鍛錬をしよう。今後は この剣を部屋の中で振り回すことはできないから、町の外で鍛錬してから帰ろう。
ついでに昨日の屋台で串焼きを食べてから、南門から出るか。
屋台は昨日と同じ場所で営業していた。
「串焼き2本お願いします」
「まいど~。お、昨日の兄ちゃんか、今日は冒険者っぽい恰好してるじゃないか」
昨日はどう見ても村人にしか見えない恰好だったからな。
「色々揃えましたよ。今後は冒険者として活動していきますから」
串焼きを食べながら、この町の周辺の話を聞いた。
◇ ◇ ◇
門は入る時と違って特にキューブを見せることもなく、軽く挨拶してから出てきた。
鍛錬するだけなので、あんまり遠くに行くつもりもない。
石壁沿いに門から少し離れた場所に移動する。
買ったばかりの剣を抜いて上段に構えてみる。
何も考えずに振り下ろす。そして体が振られる。結構重い。
これは素振りに慣れるのも大変だな。
上段に構えて振り下ろす。とにかく慣らすように何度も続けていく。
何回振っただろうか。途中まで数えていたんだが、疲れから忘れてしまった。
一旦休憩にする。
ステータスを表示してボンヤリと考える。ふとスキルに注目するとスキルリストに項目が追加されていた。
◎取得可能スキルリスト
筋力強化
何がトリガーに項目が追加されるのか不明だ。だがもちろん取得する。
ステータス
================
名前 シオン
種族 人間
年齢 16
スキル 短剣術☆0
剣術☆0
体力強化☆0
筋力強化☆0
魔法 生活魔法☆0
加護 転移ランダム特典 金一封
転移特典 言語理解
転生ランダム特典 生体掌握網
転生特典 成長促進
================
ステータスが表示されるのは嬉しいんだが、もう少し詳細に出たりしないかな。例えばどれくらい熟練度が貯まってるか表示されると、もっとやる気が出てくるんだが。
などと考えながらステータスを見ていると、頭の中でピコンと音がしたような気がした。するとステータス表示が変化した。
ステータス
================
名前 シオン
種族 人間
年齢 16
スキル 短剣術☆0 ( 0.12 ) △0.12
剣術☆0 ( 0.24 ) △0.24
体力強化☆0 ( 0.35 ) △0.35
筋力強化☆0 ( 0.08 ) △0.08
魔法 生活魔法☆0 ( 0.52 ) △0.52
加護 転移ランダム特典 金一封
転移特典 言語理解
転生ランダム特典 生体掌握網
転生特典 成長促進
================
これは熟練度か?? たぶん真ん中の数値が熟練度、末端が変化量を現しているのか。
俺が願ったからステータス表示の内容が変化したということだろうか。[生体掌握網]の機能なのだろうが、よく分からない特典だな。
だとしても、この表示は凄く助かる。鍛錬の成果が詳細に分かるということだ。
実際に鍛錬でどれくらい熟練度が変化するのか見てみるか。
先程と同じように、上段に構えて振り下ろす動作を繰り返す。
とにかく、腕が疲れて剣が持ち上がらなくなるまで続けた。
ステータス
================
名前 シオン
種族 人間
年齢 16
スキル 短剣術☆0 ( 0.13 ) △0.01
剣術☆0 ( 0.25 ) △0.01
体力強化☆0 ( 0.39 ) △0.04
筋力強化☆0 ( 0.13 ) △0.05
魔法 生活魔法☆0 ( 0.52 )
加護 転移ランダム特典 金一封
転移特典 言語理解
転生ランダム特典 生体掌握網
転生特典 成長促進
================
数値が上がっている。
今の気持ちを表現しづらいが、初めてRPGをやり始めたときの気持ちだろうか、たぶん。記憶がないので想像だが。
そんな俺の気持ちを覚ますみたいに、16時の鐘が鳴っている。
ほんとはまだまだ鍛錬したいところだが、別に今日で終わりではない。
宿屋に戻ることにした。
井戸で体を拭いて汗を流し、服も軽く洗って着替えた。
夕食を取ることにする。
近くを通り掛かったリーネに夕食を頼む。
「リーネ、夕食を頼んでもいいか?」
「シオンさん、お帰りなさい。今持ってきますね」
夕食を持ってきてくれたリーネが俺の顔をじろじろ見ながら言う。
「シオンさん、何かいいことありました?」
「え、何かヘンか?」
俺は顔を触りながら聞いてみた。
「何だかすごく嬉しそうな顔をして帰ってきましたよ」
もしかして顔をニヤニヤさせながら歩いてきてたのか。愕然としながら何となく顔を引き締める。
たぶん自意識過剰で周りはそこまで見てないと思うが、なんだか居たたまれなくなる。
「確かに嬉しいことはあったが、そこまでヘンな顔してたか?」
「そんなことないです。大丈夫ですよ」
くすくす笑いながら去っていった。余計心配になるんだが。
部屋に戻って、早速生活魔法だ。
現在の数値はこんな感じだな。
生活魔法☆0 ( 0.52 )
「【クリーン】」
まずはクリーン。当然発動しないが。
生活魔法☆0 ( 0.52 )
数値に変化なし。魔力が消費されてる気配がしなかったから、やっぱり鍛錬になってなかったのか。
続けて、水を水筒に入れていく。
生活魔法☆0 ( 0.55 ) △0.03
よし。しっかり熟練度が上がってる。
最後、火種だ。
仄かな火をずっと出していく。もちろん指先に集中して、バーナーで勢いよく火を出すイメージだ。
生活魔法☆0 ( 0.63 ) △0.08
結構熟練度が溜まった。これが一番熟練度を稼いでいたか。
鍛錬といえば、腕立て伏せや腹筋も熟練度稼げるのか?
部屋の中では剣が振れないから、腕立て伏せと腹筋をやってみることにした。
体が動かないぐらいまでやった結果。
体力強化☆0 ( 0.41 ) △0.02
筋力強化☆0 ( 0.15 ) △0.02
数値で鍛錬の結果が見れるとモチベーションが爆上げされる。
ただ、この数値の上がりやすさは☆0という低レベルなことも関係しているのだろう。
早く寝て明日も鍛錬だなと思ったが、さすがに頑張りすぎて汗まみれだった。
井戸に汗を拭きに走り、急いで寝た。
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