第2話 始まりの日(1)


気付いたら、どこか分からない舗装もされていない道に立っていた。



どこか分からないというか、その前に俺は誰だ?

ここがどこだか分からない以前に、俺が誰なのか、何をしていたのか、何も思い出せないってどういうことだ?

夢か何かか? だが、体に感じる風、そして音。どう考えても現実だな。



落ち着いて考えよう。

思い浮かぶのは日本で生活していたってことだ。

たぶん働いていた。

独身だったはずだ?

家族はいなかったかもしれない?

・・・以上



駄目だな。細かいことを思い出そうとしても出てこない。



一旦思考するのを止めて、現状を確認することにする。

俺はここの近くに住んでいたんだろうか? 前後左右を簡単に見る。

しかし周りには家らしきものも何もない。


右側を見ると、100mぐらい草原が続いていて、その先が森になっている。その遥か先に見たことない規模の綺麗な山々が。

左側を見ると、こっちも草原が続いていて、その先に森が見える。


そんな中を幅3mぐらいの道が真っ直ぐ伸びている感じなんだが、道の先が水平線で見えなくなっている。

もし遊びに来ていたんだったら、この自然豊かな風景を満喫できたんだが。まったく記憶にない風景だ。



周囲の風景を見終わり、自分の服装を確認した。

俺が着てる服って何かおかしくないか? 

俺ってこんな服着てたか? 俺がというか日本人がというか。

ゲームに出てくるNPCの村人が着てるような服装だ。いつの時代の服だ、これ。

靴もよく見てみると、かなり手作り感が出てる革の素朴な靴だ。

これって普段着じゃないよな?


他にもよく見てみると、首から小さい巾着袋みたいな物が掛けてある。

中身がちょっと重い。身分証かなにかだろうか?


袋の中身を取り出してみると、何か布に包まれたものが出てきた。

布の包みをほどくと、大小の金貨らしいものが十枚ずつ入っていた。


これって本物なのか?

イヤ、これってかなり重い。なんか本物っぽいな。

そもそも、この金貨ってどこの国の金貨だ?

金貨の表面にはどこかの人物が刻まれ、裏面には何かの旗が刻まれている。

あと、なんか書いてあるな。・・・サマリア王国?


サマリア王国なんて聞いたことがない国だが。


その前に、この文字、日本語でもアルファベットでもないのに、なんで読めたんだ?

見たことない文字のはずなのに、頭の中で意味が分かってしまう。


これって所謂、異世界ものでは必須になりつつある、自動的に異世界言語が理解できてしまう能力と同じじゃないか?

もしかして、ラノベで流行の異世界なのか?




まあ、落ち着こう。

こういう時の定番で確認方法って、ステータスだよな。


こう頭の中でステータスを表示するって考えると出てくる的な・・・



ステータス

================


名前  シオン

種族  人間

年齢  16


スキル 


魔法  


加護  転移ランダム特典 金一封

    転移特典     言語理解

    転生ランダム特典 生体掌握網

    転生特典     成長促進  


================



顔の正面に半透明なボードが浮かび上がった。



ステータスが表示されたってことは、俺は異世界にきてしまったのか?

例えば。

事故にあった衝撃で転移したとか。

勇者召喚に巻き込まれたとか。

神隠しにあったとか。

取り留めのないことが浮かんでくるが、結論、よく分からない。

そもそも記憶がないのに分かるわけがない。



何も分からないのだが、そんなことよりもステータスが表示されるという現実に、高揚感を覚える。

まず確認してみるか。


【名前  シオン】


俺の名前はシオンというのか。だが本名じゃない気がする。ゲームか何かで付けた名前のような。

まあ、本名も何も思い出せないから別にいいのだが。



【種族  人間】


頭を触っても獣耳はないし、耳を触っても尖ってないから、人間だと思うが。

ただ、種族と表示があるということは、人間以外の種族がいる世界なのか。



【年齢  16】


薄っすらと働き出して数年は経っていたような気がするんだが、16歳?

体格は縮んでないような気がするし、むしろ前より背が高い気がするんだが、16歳?


とりあえず放置だな。



【スキル】


スキルは何もないようだ。

これは今後覚えられるのかは不明だ。


後々考えていこう。



【魔法】


魔法がある世界なんだな。本当にゲームみたいな世界だな。

当然、魔法も何もないな。


是非とも覚えたいところだが、現状は何も分からない。

これも後々考えていこう。



【加護】

     転移ランダム特典 金一封

     転移特典     言語理解

     転生ランダム特典 生体掌握網

     転生特典     成長促進  


問題はこれだ。


なんで特典なんてものが貰えるのか、という疑問点はあるが考えても分からないので置いといて。

なんで転移と転生の両方の特典が貰えてるんだ?


俺に当てはめて考えると、転移特典のほうは納得できるが、転生ではないはずだ。

それとも記憶がないだけで、この世界に転生して今まで普通に暮らしてきたのだろうか。しかし、その場合だと、逆に転移特典は貰えないと思うのだが。


考えたところで答えは出ないか。特典の内容を確認しよう。




[転移ランダム特典 金一封]


名称から判断すると、複数ある特典からランダムで選ばれたのが、金一封ということだな。

これが巾着袋に入っていた金貨のことか。

この金貨、今いる場所のお金だよな? 



[転移特典 言語理解]


これのおかげで金貨の文字が読めたんだな。

そしてこれが転移した場合の標準特典ということか。



[転生ランダム特典 生体掌握網]


生体掌握網? なんだろうか、これは。

他の3つの特典はなんとなく内容が分かるんだが。

生体を掌握する網? つまり体の機能を一手に管理するものなのか?

たぶんステータスが表示されたのは、この特典のおかげだと思うんだが。

今の時点では、どんな機能があるのかサッパリだな。少しずつ使っていくしかない。



[転生特典 成長促進]


これが転生した場合の標準特典か。

今後どのように効果が出るのか不明だが、貰っておいて損はない。



表示内容はこれだけだな。

ゲームだと、HPMPや能力値が表示されるのが定番だろう。いや、今の内容でも十分助かるといえば助かる。


それはともかく、ステータスが表示されるとは、ほんとにゲームの中に入った感じがする。

さすがにこれが夢だと勘違いすることはない。リアルだ。

色々と分からないことばかりだが、割り切るしかないか。


ここは異世界。俺はシオン。


別に謎を解き明かすだの、この世界を救うだの、御大層な使命を与えられているわけではない。

俺は俺らしく、このゲームのような状況を楽しんで生きていこう。



◇ ◇ ◇



ともかく現在の状況だな。

安全そうな道があるとはいえ、周囲に森が広がっている点からも、いつ危険な生物が出てきてもおかしくない。

そんなに危険そうではないが、安全を確保するためにはなるべく早く町や村に向かったほうが良さそうだ。

ただし・・・道のどっちの方向に進むのが正解なんだ?


標識でもあれば判断しやすいんだが、残念ながらそんな便利なものはない。

道があるということは、どこか人の住む生活圏に繋がっているはずだ。

二分の一の確率。どっちが正解だろう・・・


悩んでも意味ないか。適当に進むことにしよう。

幸い、日の光の感じからすると昼前後だとは思う。



なるべく速足で黙々と歩いていく。

久しぶりに体を動かしている感じがして、何だか気分がいい。

記憶がない状態なのでよくは分からないが、別に病気で入院していたとか、そんなことはなさそうで、とにかく体が軽い。

試しに軽くランニングしてみる。自分の体ではないぐらいに軽やかに走れる。


こんな自然豊かな森の中を走っていると、現在の状況を忘れてしまいそうだ。


結局30分ぐらい走っただろうか、視界の先に森の切れ目が見えてきた。

走るのを止め、体の調子を確認するが特に問題はない。走った感想としては、ほとんど疲れを感じていないことに驚いた。

そこからはゆっくり森の切れ目に向けて歩いていく。


森を抜けると青空が広がり、少し先に田園風景が見えた。


特にトラブルもなく、人の生活圏にたどり着けたことに安堵しつつ、先へと進んだ。

進みながら田園周辺を確認する。田園の少し先には家屋が少なくとも、20以上はあるのが見える。


人がいそうなことが分かってくると、今度は人との初遭遇に少し緊張してきた。


怪しまれないようにカバーストーリーを考えておくのがベストだな。

俺の場合はどうするか。バカ正直に話す必要はないから、冒険者になりに来たでいいか。冒険者ギルドがあるのか分からないが。

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