ゲーム好きの異世界生活

天宮志貴

第1章 新生活はじめました

第1話 初めてのゴブリン


遥か先に見える山々に続く深き森。

ここはロマナ近郊の街道沿いに近い森の入口。

森は鬱蒼と生い茂り、奥を覗き見ると、昼間であっても薄暗い。


ここへは、初めて受けたゴブリン退治の依頼のため訪れた。

ゴブリン退治は常時依頼扱いとなっており、ゴブリンから取りだした魔石を提出することで、依頼達成となる。

今回の場合、依頼目的というよりは、初めて退治することになるゴブリンの調査目的である。

ゲームっぽい世界ではあるが、ゲームではない。一度の失敗が死へと繋がる。

死を意識すると漠然とした不安を感じてしまうが。

それでも、このワクワクとする高揚感を抑えられないところが度し難い。



◇ ◇ ◇



森の中の気配を探りつつ、森の際を歩いていく。

目の前にはどこまでも続く森。この森どれくらいの広さがあるんだ?

今は森の外を歩いてるから平気だが、森の中を探索しようものなら、絶対に迷子になる未来しかみえない。

どこまで歩けば目的に遭遇できるのか、若干不安に思いつつも先に進む。

ゴブリン退治ということで浮かれていたのかもしれない。

その前に森の探索の方法などを聞いたり、前準備が必要だった。


捜索を続けるか、一度町に戻るか悩みだしていると、森の浅瀬から何かが近づいてくる気配がする。

これは初めて出会った気配だ。それほど大きくない。

一旦森から少し離れて様子を伺うことにした。


剣を抜いてから少し屈んで、気配のする方向を見張る。

森の浅瀬からガサガサと姿を現したのは、140cmぐらいの身長の、邪悪な感じのする生物。

手には棍棒(というか木の棒?)のような物を持って、周囲を伺っている。


気配感知に反応があったのはあいつか。あれがやっぱりゴブリンだよな。


ヨシ。

今日の目的は調査だ。今後まともに退治できるかどうかの。

相手が1体ということもあり、調査相手にはちょうどいい感じだ。

気合を入れつつ、立ち上がってゴブリン(仮)に向かって歩いていく。


「ギギャ、ギャ」


ゴブリン(仮)は、獲物を見つけた喜びに、ニタ~と笑ったのかもしれない。それとも俺が無意識でゴブリンとはそういう生物だ、と想像豊かに思ってしまったかだ。


手に持った棍棒を振り上げながら、突っ込んできた。


身長的には小柄なはずだが、魔物に敵意を向けられる感覚に、若干怖さを感じているのかもしれない。

少し緊張しながらも剣を構えた。


棍棒を振り下ろしてきたのを見て、少し余裕を持って横にかわす。

残念ながら、見切ってギリギリで避けるなんていう芸当はできない。将来、そんな達人じみた動きができるようになるのだろうか・・・


幸い、動きはそこまで速くないようだ。力はどんな感じだろうか?

どのみち、今後戦っていけるかの判断をしないといけないのだ。切り結んでみるか。


一旦、1歩離れてから、棍棒に合わせやすいように剣を構えなおす。

もし力負けした場合、すぐに離れられるように意識しつつ、相手を待った。


こちらに向き直り棍棒を振り下ろしてきた。剣をサイドから振り上げる要領で合わせてみる。

ガツンという音を響かせながら、剣が棍棒を弾き返した。

棍棒が弾き返されるのに釣られて、ゴブリン(仮)は大きく態勢を崩した。


これはやっぱり定番のゴブリンだな。

ただ、ゴブリンだから弱いという考えは持たないほうがいいだろう。定番だと進化した個体がいる可能性を否定できない。それにたとえ弱くても、複数になれば油断なんてできない。


などと考察しつつも、相手の様子を伺う。


簡単に押し返されたことで少し用心したのか、それとも攻めあぐねているのか、すぐには飛び掛かってこない。


まあ調査はここまででいいか。

相手に素早く近寄り、小細工なしに剣を肩口から振り下ろした。


「ギギャーーー」


棍棒で防ごうとする動きを見せたみたいだが、それよりも速く、剣が体を切り裂いた。

この感触はまだまだ慣れないな・・・


さすがにこの状態でまだ生きているなんてことはないだろうが、念のため、剣を突き刺して確認してみる。反応がないから大丈夫のようだ。


戦ってみた感じからすれば、不意打ちや油断さえしなければ1体ずつなら問題なく退治できそうだ。

問題は複数相手のときか。これも少しずつ訓練しないとダメだろうな。

とりあえず魔石を取って終ろう。



確か胸の中心辺りにあるって話だが。


魔物を倒して終わり、だったら楽なんだが。解体もしないと稼ぎにならない。ゴブリンからは魔石ぐらいしか売れる物がないらしい。


解体ナイフを使い、胸の辺りをザクザクと切り開いていく。

人型を切り裂くのにはまだ慣れないが、内部を探っていく。初めての解体の時のように具合が悪くなることはなくなったが、今鏡で顔を見れば青くなっているかもしれない。


胸部を切り開いて探ること、数分ほど。


これが魔石か?


出てきたのは黒い丸い水晶のようなものだ。ただ水晶と違うのは、中心が光って見える。ゴブリンから出てきたとは思えないほど綺麗だな。


とりあえず魔石は取れたから、この場所から安全な場所へ移動することにした。


ゴブリンの死体に関しては面倒だが森の中に放り込んでいく。ある意味ゴミの不法投棄みたいに見えるが、森の中に置いておけば、処分してくれる存在がいるらしい。



ゴブリンを調査するという目的については無事達成したと思う。

戦闘も考えていたより余裕があったとは思うのだが、少し疲れを感じるのは、初めての魔物といえる相手で気が張っていたみたいだ。


背後の森を振り返り、しっかり準備しないとダメだなと、改めて思った。



◇ ◇ ◇



その後は特に急ぐことはなく、ロマナの近くまで歩いてきた。

町の石壁を背に座り込む。

ここまで来れば危険はないと思うが。


さてさて、ゴブリンと戦った成果はどうか。

頭の中でステータスを表示すると考える。



ステータス

================


名前  シオン

種族  人間

年齢  16


スキル

 戦闘 短剣術☆0 ( 0.48 )

    剣術★1 ( 0.06 ) △0.01


 身体 体力強化☆0 ( 0.99 )

    頑健強化☆0 ( 0.55 )

    筋力強化☆0 ( 0.90 ) △0.01

    器用強化☆0 ( 0.50 )

    敏捷強化☆0 ( 0.63 ) △0.01


 特殊 気配感知☆0 ( 0.74 ) △0.01

    解体☆0 ( 0.83 ) △0.01

    並列思考☆0 ( 0.25 )


魔法  生活魔法★1 ( 0.58 )

    土魔法☆0 ( 0.34 )

    水魔法☆0 ( 0.34 )

    火魔法☆0 ( 0.34 )

    風魔法☆0 ( 0.34 )

    回復魔法☆0 ( 0.16 )

    時空魔法☆0 ( 0.19 )


加護  転移ランダム特典 金一封

    転移特典     言語理解

    転生ランダム特典 生体掌握網

    転生特典     成長促進  


================



短い戦闘の割にはスキルの熟練度が上がっている。

今後は魔物の討伐依頼を多く受けて行こう。平原ウサギやモウモウなどの肉納品もいいのだが、どうしても解体と移動に時間が取られてしまう。かと言って、無理はしない。一気に成長させるために強い敵を狙うなんて考えは破滅フラグだ。


ステータスを確認してスキルの成長を見るのが楽しい。たぶん俺は、こういうゲーム要素が好きな人間だったのだろう。

俺の記憶がはっきりしているのは、この世界に来た時からだから、漠然としか分からないが。

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