第??話 菫ーすみれー 中編

「ボクが可愛いのはどうしてかって?」


怜さんの家へ向かう道中、私は唐突に質問を投げかけた。


「うーん、不思議なことを聞くね。ボクが可愛いのなんて、当たり前のことじゃないか」


臆面なく、さも当然であるかのように答える。


「だってボクが可愛いかどうかを決めるのは、ボク自身だよ?」


ふわりとスカートを翻し、怜さんは私に向けて真摯に言い放つ。


「ボクという人間の価値、それを誰かに決めてもらうつもりはないよ。人を値踏みするのは勝手だけど、ボクは第三者の言葉に左右なんてされない。誰に肯定されようと、否定されようとね」


自信に溢れたその眼差しに、思わず惹き込まれる。


「ボクはボク自身のことを何よりも信じるし、何よりも愛してる。褒めてもらうのはボクも嬉しいし好きだよ! でも、誰かに認めてもらうことでしか己の価値を見出だせなくなってしまったら駄目」


何気なく呟いた怜さんの眼差しが、一瞬だけ憂いをみせる。


「……ま、気持ちはわかるけどね」


――ああ、やっぱりこの人はブレない。己の中に、確かな芯を持っている。


「ふふん、君より少しだけ人生の先輩である、ボクからの貴重なアドバイスだよ!」


怜さんから受け取った言葉が、私の心にじんわりと沁みていく。


自信に満ちた表情と、瞳の奥に宿る強い意志。


改めて私は、怜さんという人間に対して尊敬の念を抱くのだった。


******


地元民に愛される、黄色い看板が目印の弁当屋。ここが怜さんの家だ。


一階を店舗、二階を居住スペースとして利用しているらしい。多くのお客さんが見受けられる、今日もお店は繁盛していた。


裏口から二階へと向かい、怜さんの部屋に案内してもらう。


ちょうど部屋に入ろうとした時、隣のドアが大きな音と共に開く。


「……あ? 誰だお前」


黒のキャミソールとホットパンツ一枚というラフな格好で登場したのは、ここに住む怜さんの姉、真夜さん。寝ぼけ眼をこすりながら、あくび混じりに問いかける。


「ん……? どっかで見たような」


返答を待たずして、頭をかきながら私の顔をまじまじと見つめる真夜さん。


まだしっかりと起きていないのか、どこかぼんやりとしている様子。


まるで蛇に睨まれた蛙のように、私は硬直していた。 


「もう! ヤンキーが睨むから怯えちゃったじゃん!」


私の様子を見て、すぐさま怜さんが不満を露にする。


「別に睨んでねえって」


「鏡って知ってる? 便利だからヤンキーも使うと良いよ」


「愛姉さんの台詞を真似すんな」


「まったく、こんないたいけな子を脅かすなんて! 親の顔が見てみたいよ!」


「テメーと同じ親だっつうの……」


呆れ顔でため息を漏らしながら、怜さんをスルーしてお手洗いへと向かう真夜さんだった。

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