第60話 一寸先を見通す賢人 ①
国王の懐刀とも評されるオルト・ウィンダム。
彼は今回、ある目的を持って【冥府の大樹林】開拓に同行していた。
その目的とはずばり、マルコヴァール辺境伯への牽制である。
ここまでの経緯を振り返ろう。
以前ウィンダムが開いたパーティーにて、辺境伯の家臣が『幻影の手』を名乗り襲い掛かってくる事件があった。
その際、辺境伯はしらを切り通し極刑こそ免れた。
しかし後日、罰の一つとして大樹林の開拓中、クラウスに領地の一部が貸し出されることとなった。
クラウスがこの国で最も広大な領土――すなわち【冥府の大樹林】を褒美として求めた時、国王アルデンとウィンダムは同じ確信に至った。
それはマルコヴァール領の一部を拠点とすることで、クラウス自ら辺境伯の動きを監視しようとしている。
一介の領主に過ぎない彼がそれを申し出たとあって、このような傑物がいるのかと二人して高揚したものだ。
だが現実は、それ以上の驚きを有していた。
「【
「なっ! なんて威力だ!?」
何とクラウスは圧倒的な才覚を持って、単独で大樹林を焼け野原に変えてしまったのだ。
【冥府の大樹林】開拓がブラフだと思い込んでいた、自らの思慮の深さをウィンダムは恥じた。
しかし、だからこそウィンダムは強く決心した。
ここからが自分にとっての本番。
マルコヴァール辺境伯は領地の一部をクラウスが拠点としていることや、領民がレンフォード領に次々と移り住んでいることに不満を抱いているはず。
さらに幾重もの情報網を持つ彼であれば、先の襲撃を防いだのがクラウスであることを見抜いている可能性すらある。
だからこそマルコヴァール辺境伯からクラウスに会いたいという申し出があった時、レンフォードは決心した。
彼の狡猾な策略にクラウスが巻き取られないよう、最大の注意を持って対応するべきだと。
事実、出会うや否や辺境伯は皮肉を次々とクラウスにぶつけ始めた。
「なんでもレンフォード領の統治はとても素晴らしく、人々からの支持も集められているのだとか。なにせ我が領民の中から移住する者が現れるくらいですからね……どのような手段を用いればそんなことが可能なのか、ぜひご教授いただきたいところです」
それは自分の領民が奪われたことへの怒りと、今すぐにでも奪い返してやってもいいのだという宣戦布告に等しい言葉。
いつ戦闘が起こってもおかしくない、まさに一触即発とした状況だった。
今にもウィンダムが間に入ろうとした次の瞬間。
クラウスが発した言葉は、あまりにも想定外なものだった。
「もちろんです、マルコヴァール卿。この私みずから、
「――――ッ!?!?!?」
その言葉にはウィンダムだけでなく、マルコヴァール辺境伯も大きく目を見開いていた。
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