第59話 見物人を共犯者にしよう! ②



「これからお前たちに、俺の魔術の真髄を教えよう。当然、簡単に習得できるようなものではないが……ここにいる全員が力を合わせれば、その一端くらいは再現できるはずだ。ここからはお前たち自身の手で、この森を焼き尽くしてもらう!」



 俺の宣言を受け、騎士たちは驚いたように顔を見合わせる。

 まさか本当に、自分たちが王命に逆らう側に立つことになるとは夢にも思っていなかったのだろう。


 するとそのタイミングで、騎士の中から一人が声を上げる。


「お、お待ちください、レンフォード卿! 森を燃やすということは、レンフォード卿が放ったのと同じものを私たちに使えと申されているのですよね!? さすがに全員で力を合わせても、それは不可能かと……」


 騎士の言葉は正しい。

 いくら人数がいるとはいえ、騎士だけではどれだけ力を尽くそうと俺の魔術の再現は不可能。


 だが――


「問題ない。ここにはソフィアがいる」


「……私、ですか?」


 首を傾げるソフィアに対し、俺はこくりと頷く。


 『アルテナ・ファンタジア』において、ソフィアは剣と魔術どちらにも優れた優秀なキャラクターだった。

 さらにその特徴として、他者の魔力を集めて使用するという能力にも秀でていた。

 恐らくは、周囲の魔力を集め放つ能力を持つ宝剣【希望を導く剣ホープ・コネクト】を使いこなすために与えられた設定なのだろう。


 その能力が今回は活きる。

 ソフィアを起点とし魔術の運用を行えば、再現は十分に可能なはず。


 さらにこの作戦には一つのメリットがある。

 これだけの人数の魔力を操るのは難易度が高く、その分だけ熟練度も急上昇する。

 ソフィアの実力を数段飛ばしで引き上げることができるのだ。


 とはいえ、作戦の肝であるソフィアに断られたら全てが破綻する。

 騎士たちと違いソフィアは王女。彼女に嫌と断られれば、さすがの俺とはいえ強制はできないが――


「お前ならできると俺は思っているが……試さずに辞めるか?」


「っ! クラウス様からそう言われて、引き下がる私でありません! 当然、挑戦させていただきます!」


 ――計画通り。

 ソフィアのプライドの高さを刺激してやれば、このように同意するという訳だ。


 完璧すぎて、自分で自分が恐ろしくなる。

 果たして過去現在未来、全てを合わせてこれだけの天才がいたのだろうか。


 閑話休題。

 いずれにせよソフィアが同意したことで、騎士たちが断れるような状況ではなくなった。

 俺はそんな彼らが十分に実力を発揮できるよう、懇切丁寧に魔術を教えていく。



 それから約30分後。

 準備を終え、本番に突入する。


「では、参ります……!」


 魔力操作に集中するソフィア。

 そんな彼女のもとに、騎士たちが持ちうる全ての魔力を注いでいく。

 術式が連続で展開。その数は多いが、ソフィアは持ち前の才能で見事に制御していた。


 そしてとうとう、その時がやってくる。

 ソフィアはカッと目を見開き、両手を前に出し叫んだ。



「【連結コネクト――過剰連撃オーバードライブ炸裂するプロミネンス・爆炎バースト】!」



 刹那、解き放たれるのは炎の放射。

 俺が使用する時よりは随分と小さいながらも、十分に火力のある一撃が放たれた。

 その放射はとうとう、大樹林の地面にへと衝突する。




 ドォォォォン!

 ドゴォォォン!

 ドドドゴゴゴォォォォォン!!!




 連続の大爆発。

 魔術が鳴り止んだ時、辺り一帯は確かに焦土となり果てていた。


(ふむ。規模としては俺の10分の1程度だが……及第点といったところか)


 過剰連撃オーバードライブ炸裂するプロミネンス・爆炎バーストは、もともと複数の術式を融合させた魔術。

 その分だけ複数人でも発動しやすかったのも影響したのだろうが、これなら十分成功と言っていい出来だ。


「「「………………」」」


 ソフィアや騎士は、この光景を本当に自分たちが生み出したことを信じられないのか呆然としていた。

 くくく、これでいい。

 目の前に広がる現実を見て、自分たちのしでかした行いを実感するがいい。


 すると、その直後だった。

 魔術発動には参加せず、背後に控えていたウィンダムが近づいてくる。


「レンフォード卿、少々ご報告を。私は本日をもって王都に帰還させていただこうと思います」


「なに?」


 突然の申し出だが、その意図はすぐ分かった。

 恐らく今回の件を重く見て、アルデンに報告しに行こうとしているのだろう。

 となるともう間もなく、国王から直々に作戦の停止命令が下されるはずだ。


 さすがに国王からの命令は断れないが……まあいい。

 それまでにせいぜい、騎士たちの不満を買わせてもらうとしよう。


(っと、そういえば……)


 そこでふと、俺の視線が、未だ健在なウィンダムの両目に止まった。

 ゲームでは隻眼だったウィンダムだが、確かその原因はマルコヴァールが組織する『幻影の手』だったはず。

 ゲーム開始時点では既にそうなっていたことを思うと、ここから数か月の間に、片目を失うイベントが発生するのだろう。


 ……ふむ。

 本来であれば、こういうことは避けるのだが……


「そうか、ならば一つだけ忠告だ。その目から光を失わぬよう、せいぜい気を付けることだな」


「目から、光を……? はっ、まさか! 了解しました、レンフォード卿! それでは失礼させていただきます!」


 血相を変えて去っていくウィンダム。

 もしかして、これから俺がウィンダムの視力を奪う宣言にでも聞こえただろうか?

 ……まあ、それならそれで別にいいか。


 何はともあれ、今回の作戦は無事に成功した。

 ソフィアや騎士たちと、貴重な資源破壊の共犯者にできたのだ。

 これ以上の成果は考えられないだろう。



 気分の良くなった俺は、「はーはっはっは!」と盛大に高笑いするのだった。

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