第48話 逆に領民からの評判を良くしよう!



「ぎゃあああぁぁぁ! いきなり何をするんじゃぁぁぁ!」



地獄のインフェルノ業火・フレイム】を放った直後。

 燃え盛る炎の中から、ミリカトルと名乗った幼女が飛び出してくる。

 室内ということで魔力を抑えて撃ったため、火力が足りなかったようだ。


「仕方ない、もう一発――」


「待つのじゃ! もうわらわに敵意はない! まず話し合うべきじゃ!」


「……ふむ」


 ミリカトルの言葉に説得されたわけではないが、確かに殺ろうと思えばいつでも殺れる。

 というわけで冥土の土産に話を聞いてやることにした。



 その後、長々と語ったミリカトルの話をまとめると――



「要するに、俺の魔術を喰らった後、わずかに残った魔力の残滓をかき集めて復活したってことか?」


「いかにも。そのせいで今も力の大部分は失っておるし、性質も以前とはかなり変化しておるのじゃ」


「なるほど。言われてみれば見た目だけじゃなく、口調も少し違うな」


「うむ。邪神はもともと大多数の者の憎しみや恨みが集まって生み出される思念集合体でもある。そのほとんどが消滅したことで、一番奥深くに眠っていた人格が前に出てきたのじゃ」



 つまり、この『のじゃロリ形態』こそが本来の姿というわけか。

 なんだ『のじゃロリ形態』って。


「事情は分かったが、どうしてそんな奴がここにいるんだ?」


「それはじゃな……」


 前置きのあと、再びミリカトルは経緯を話し始めた。



 何でもミリカトルが復活後、まず初めに考えたのは俺への復讐だったらしい。

 それを聞いた時点でもう一度【地獄のインフェルノ業火・フレイム】を放とうとも思ったが、冷静沈着で有名な俺は続きを促すことにした。


 その後、ミリカトルは俺の魔力の痕跡を辿って領都までやってくる。

 だが既に俺は王都へと出発しており、残念ながら見つけることができなかった。


 さらに誤算が一つ。

 復活後の体には、魔力だけでなく通常の食料も必要になっていた。

 それに気付かず数日間捜索した挙句、腹を空かせて道端で倒れていたところ、通りすがりのレインからドーナツをもらった。

 そのドーナツがあまりにも美味しかったから、ひとまず復讐は止めにした――というのが、今日に至るまでの事の顛末らしい。


 最後まで聞いた俺はレインがここにいる理由に納得しつつ、思わず片手で頭を抑えた。


「なんだ、そのふざけた理由は……」


「何を言っておる!? 超重要じゃ! まさかわらわが封印されている間に、これほど美味い物が生み出されておったとは……」


 キラキラと目を輝かせて、手に持つドーナツを見つめるミリカトル。

 なんかムカつくし、やっぱり魔術を撃とうかと悩んでいると、そのタイミングでレインが口を開いた。


「その後の話なのですが、ドーナツをくれたお礼とのことで、ミリカトルから気になる情報を教えてもらったんです。その真偽を領主様に判断してもらわなくてはと思いまして」


「気になる情報だと?」


「うむ、その話じゃったな……ごくん。お代わりじゃ!」


「かしこまりました」


 いつの間にか客間の中にいたマリーから受け取った紅茶を飲み干した後、ミリカトルは続ける。


「わらわの封印が解かれたことで、この周囲一帯に魔力が満ちているのは知っているな?」


「……ああ、当然だ」


 そのせいでどれだけ俺が苦しい目に遭ったことか。

 領内の畑や海に魔力が満ちることで食料の収穫量が爆増して飢饉が解決。

 ついでに俺の評価が上がるという、今思い出しても悲惨すぎる事件だった……


 そんな風に、心の中でしくしくと涙を流していた俺だったのだが――


「実はその魔力が多すぎたようでな。ほど近くに魔物大暴走スタンピードが発生し、このレンフォード領を襲うことが分かったのじゃ」


魔物大暴走スタンピードだと!?」


 ――直後にミリカトルが告げた言葉を聞き、思わずその場に立ち上がった。


「そうじゃ。魔力量が増えたことで、一時的には作物の収穫量などが上がったことじゃろう。しかし魔力の恩恵を受けられるのは人間だけでなく、魔物も同様じゃ」


「……そして力を得た魔物たちが餌を求め、大群で人間に襲ってこようとしているわけだな」


「うむ、その通りじゃ」


 ミリカトルの話を聞いたオリヴァー、レイン、マリーの三名は神妙な面持ちを浮かべる。

 対して俺は、必死に歓喜の心を抑え込むのに必死だった。



 ――――これは、ビッグチャンスかもしれない。



 ミリカトルが語った、これから発生するという魔物大暴走スタンピード

 その原因を作ったのはミリカトルの封印を解き、魔力が領内に満ちるきっかけを作った存在――すなわち俺自身である。

 魔物大暴走スタンピードによって領内に多大なる被害が出れば、領民の怒りや憎しみは間違いなく俺に向けられることだろう。


 クハッ、クハハハハ! これは嬉しい誤算だ!

 殺したはずの邪神がやってきた時はどうなることかと思ったが、まさかこんな朗報を持ってくるとは!

 もしかしたらミリカトルは、俺限定の善神なのかもしれない!


 いや、そのあたりの話はあとでいい。

 今はとにかく、魔物大暴走スタンピードによる被害を最大化する方法を考えなくては――



「――いや、待てよ?」



 ――刹那、背筋にぞわりと悪寒が走った。


 俺は何か大切なことを忘れているのかもしれない。


  

(そうだ、思い出せ。これまで俺が何度悪評を広めようとしても、最後は決まって称賛される羽目になった。これまではその理由を深く考えてこなかったが……俺はもしかして、意図と結果が『』にかけられているんじゃないか?)



 それを前提に思い返してみれば、俺の固有魔術は【魔術反射アンチ・マジック】。

 まるで『逆転の因果』をそのまま形にしたような能力だ。


 そうだ、間違いない!

 俺がこれまで悪評を広められなかったのは、

 逆に評価を上げようとすれば、『逆転の因果』によって悪評が広まるはず!


 俺は今、真理にたどり着いた!!!



「つまりじゃ、今のうちに騎士に命じて守りを固めるとともに、少しでも時間を稼いで領民を逃がすことをわらわは勧めるぞ。領民が全滅し、このどーなつがもう食べられなくなったら困るからの!」


「――いや、その必要はない」


「何じゃと!? わらわにはもうどーなつをくれんと言うのか!?」


「そうじゃない。いや別にそうでもいいけど。とにかく俺がここにいる以上、初めから領民の危険などないと言っているんだ」


「……どういう意味じゃ?」



 きょとんと首を傾げるミリカトル。

 そんな彼女とは対照的に、マリーたち三名はパアッと表情を輝かせた。


「ご主人様、それはつまり!」


「そういうことですね、クラウス様」


「今一度、そのご活躍を拝見できるとは!」


 期待の眼差しを向けてくるマリーたちに、俺は真剣な表情を返す。

 そして、



「ああ。魔物大暴走スタンピードを解決するくらい、俺一人の手で十分だ。領民たちにもしかと伝えておけ、これより『レンフォード』最初の栄誉が生まれるとな」



 俺は勝利の確信とともに、力強くそう告げるのだった。



――――――――――――――――――――


というわけで、まさかの真理(笑)に気付いたクラウスくん。

はたして彼の狙いは上手くいくのでしょうか!?

次回、クラウスVSスタンピード!

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