第41話 エピローグ:新しい爵位をもらおう!(いらない)
ゲートリンク消滅後。
しばらくの間、王都は沈黙に包まれていた。
いったい今の光は何だったのか。
本当にゲートリンクは消滅したのか。
ありとあらゆる可能性を考えた末に、エレノアはふとマリーに視線を向ける。
彼女がつい先ほど、気になることを口にしていたからだ。
「マリーくん、君はあの光に心当たりがあるようだったが……」
「はい。まず間違いなく、私のご主人様――クラウス様によるものでしょう」
「クラウスくんだと?」「クラウス様が!?」
まさかの名前に、エレノアとソフィアは大きく目を見開いた。
「なるほど、そうか。確かにクラウスくんであれば、あれだけの力を持っているのも納得できる」
「遠く離れたところから、私たちを守ってくださったのですね」
空を見上げ、
なお、この中で唯一クラウスの名前を知らないクロエはというと――
(ふ~ん、クラウスって名前のすごい人がいるのね。まっ、アンナを助けてくれたあの人には敵わないだけど!)
なぜか得意げな表情を浮かべながら、
その二人が同一人物であると、クロエは全く気付いていないのである。
切り替えて、クロエはエレノアに告げる。
「まっ、いいわ。とにかくこれで危機は去ったのよね? アタシは疲れたし先に帰らせてもらうわ」
「いいのか? 協力してくれたことを報告すれば褒美をもらえると思うが」
「そういうのには興味がないの。じゃっ、機会があればまた会いましょ!」
そう言い残し、颯爽と立ち去るクロエ。
そんな彼女を、エレノアは正義感に満ちた素晴らしい人物だったなと思いながら見送る。
ちなみに、そんなエレノアの背後では――
「ところでソフィア様。ご主人様の名前を知っているということで、その指輪について少々お伺いしたいのですが」
「え、えっと、マリーさんでしたか? 何やら雰囲気が先ほどまで違うように感じるのですが……」
マリーが静かな笑みを浮かべながら、徐々にソフィアへと詰め寄っていた。
その様子に戸惑うソフィア。
威圧感に押され、とうとう彼女が経緯を話そうとしたその時だった。
「おい! これはどういう状況だ!?」
焦燥感に満ちた重々しい声が、辺り一帯に響き渡る。
全員が一斉に視線を向けると、そこには大量の騎士を引き連れたアルデンの姿があった。
「っ! ソフィア、なぜお前がここにいる!? それも宝剣を持って!」
アルデンはソフィアを見つけると、青ざめた顔色で駆け寄ってくる。
そんな父に対し、ソフィアは堂々と答えた。
「もちろん、今回の元凶を倒すためです」
「無謀な! 魔王軍幹部クラスの魔力反応だったのだぞ!?」
「実際には、幹部は幹部でも四天王だったようですが」
「なっ!」
四天王というワードを聞き、言葉を失うアルデン。
そんなアルデンに対して、隣からエレノアが姿を現す。
「失礼いたします、陛下。私から事情を説明させてください」
「……エレノアか。うむ、それでは頼む」
エレノアは全ての経緯を話した。
まず、町の中心では四天王ゲートリンクから力を借りたブラゼクが暴れており、それをエレノアたち四人で制圧。
その後、現れたゲートリンクがブラゼクの集めた悪意を使って、王都を破壊する存在を召喚するつもりだったと。
「王都を破壊だと!? 今すぐソイツを討伐せねば――」
「問題ありません、既に討伐を終えた後です――クラウスくんの手によって」
「なんだとっ?」
既に事態が解決していると聞き、目を丸くするアルデン。
それも、倒したのはクラウス・レンフォードだという。
クラウスが魔王軍幹部を単独で討伐できる実力者だとは分かっていたが、まさか四天王をも上回るとは思っていなかった。
驚愕と興奮によって、アルデンの身がぶるりと震える。
「して、そのレンフォードは今どこに?」
「遠距離から魔力砲撃を放ったようなので、近いうちに戻ってくることでしょう」
「……そうか。まさかレンフォードが、これほどの英雄であったとは」
感心したように呟くアルデン。
ふと、そのタイミングでソフィアとエレノアの体が崩れ落ちる。
「っ、大量の魔力を行使した影響でしょうか」
「こちらも、最終奥義を放った反動だな」
「うむ。二人は先に城へ戻り休憩するがよい。今回の一件についてはまた後で改めて話すとしよう。二人とも、本当によくやってくれた」
その後、二人は騎士によって城へと運ばれていく。
それを見届けたアルデンは、おもむろに口を開いた。
「さて。恥ずかしながら遅れてやってきた私たちだが、それでもまだできることは残されている」
アルデンはバッと振り返ると、状況を見守る国民たちに向けて盛大に告げる。
「この地を襲った魔王軍四天王は、レンフォード子爵家当主クラウス・レンフォードの手によって打ち取られた! これよりそれを祝う宴を執り行う! 皆の者、英雄の帰還に備えよ!」
「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」
アルデンの言葉を聞いた国民たちは、一斉に喜びの雄叫びを上げるのだった。
◇◆◇
オルトラム討伐後。
俺はゆったりと、王都に向けて歩いていた。
その途中、魔力放射の際に錆が取れてピカピカになった剣を空に掲げる。
「錆が取れたら、一気にそれっぽい見た目の剣になったな。それにしてもこの形、どこかで見た覚えがあるんだが……」
具体的にはゲームの魔王戦にて、魔王が持っていた武器の一つに似ている気がする。
まあ、そんな武器が無造作に武具店で置かれているわけがないし、気のせいだとは思うけど。
「それより、今日はオルトラムを討伐できて満足だ。この調子で次は、ラスボスを超えられるくらい強くなってやるぞ!」
新たな決意とともに、俺は意気揚々と王都に帰還する。
しかし城門の前にまでやってきたタイミングで、ふと違和感を覚えた。
「なんだ、城門の中がやけに騒がしいぞ。祭りでもやってくるのか?」
今日、祭りがあるだなんて話は聞いてないんだが……
これがレンフォード領なら、また難癖付けられて称賛されるところだが、ここは王都。
さすがにそんな状況にはならないだろう。
そんな確信とともに、俺は城門を超えて王都に入る。
その直後だった、
「「「英雄よ、お待ちしておりました!」」」
視界を覆いつくすほどの大量の国民から、俺は盛大に迎え入れられた。
「…………は?」
突然のことに、頭が真っ白になる俺。
そんな俺の前に、バッとマリーが現れる。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「マ、マリー、これはいったい……?」
「ご主人様も既にご存じのように、王都に襲撃してきた魔王軍四天王を討伐した英雄をお待ちしていたのです」
「四天王を討伐? 誰が?」
「もちろん、ご主人様でございます」
「……は?」
困惑する俺に、マリーは事情を説明する。
ブラゼクの暴走を通りすがりの少女3人と共に防いだ後、四天王ゲートリンクが現れたと。
「その後の流れはご主人様も知っての通りです。ゲートリンクが
待て待て、全然心当たりがないんだが……あっ!
ここで俺は、オルトラムと戦闘時の一幕を思い出した。
確かに最後の一撃を放つ前、奴の後ろに漆黒の門が出現していた。
どうやらアレはオルトラムではなく、ゲートリンクとやらの固有魔術だったようだ。
(まずいぞ。どっからどう考えてもこの流れはまずい!)
レンフォード領にて死ぬほど経験した展開に、俺は冷や汗を流し始めた。
しかしそのタイミングで、最悪の人物――アルデンが俺の前にやってくる。
「よくやった、レンフォードよ! 前回に続き二人目の幹部討伐、しかも今回は四天王ときた! その栄誉をここに称えよう!」
「…………」
「まずは
例の件とは、俺が言った『私は、この国で最も広大な領土を求めます』についてだろう。
えっ、王都をもらえるの? 的なツッコミをする余裕すら出てこない。
その証拠に、本番はここからだった。
「さらに度重なる功績を称え、この場にてレンフォード子爵に新たなる爵位を与える!」
「……へ?」
「これより、レンフォード家は子爵家から伯爵家となる! 皆の者、今後は決して呼び方を間違えるでないぞ!」
そのアルデンの言葉と共に、一斉に観衆が盛り上がる。
それどころか、さっそく「レンフォード伯爵ー!」と叫ぶ者も大量にいるくらいだ。
待て、待ってくれ。
こんなこと、俺は全く望んじゃいない。
取り返しがつかなくなる前に断らないと……
「悪いが、
だが、その続きを言うことはできなかった。
国民の歓声が、あっという間に俺の声をかき消してしまったからだ。
「「「伯爵! 伯爵! 伯爵! 伯爵!」」」
王都全体が一丸となって、伯爵コールを始め出す。
それを聞きながら、俺は歯をギリギリと噛み締めた。
くそっ、くそっ、くそっ!
王都に来てからの俺がいったい何をしたって言うんだ!
ちょっと通りすがりの貴族相手に剣術を試したり!
王様相手に反意をアピールしてみたり!
王女を城から誘拐してダンジョンで死ぬような目に遭わせただけなのに!
何でこうなったぁぁぁぁぁあああああ!!!
俺は歓声の中で、シクシクと涙を流すのだった。
『第二章 王都編』 完
――――――――――――――――――――
これにて『第二章 王都編』完結です!
最初は気楽に書き始めた本作ですが、気付けば12万字を突破していました。
ここまで書き進めることができたのは皆様からの応援があったおかげです。
本当にありがとうございます!!!
そして今後の予定についてですが、
少しプロット作成などの期間を頂いたのち、次回から『第三章 冥府の大樹林編』をお届けしようと思います。
伯爵になったクラウスが次はどんな勘違いを引き起こすのか、ぜひ楽しみにお待ちください!
それからもしよろしければ、第二章完結のこのタイミングで『フォロー』や『レビュー』をしてくれると嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたします!
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