第40話 最強の魔物と戦おう!
「はあ……残念だが、思っていたほどの収穫はなかったな」
隠しダンジョンの地下49Fにて。
俺――クラウス・レンフォードは深いため息をついていた。
その理由を説明するためにはまず、このダンジョンの仕様を知ってもらう必要があるだろう。
ゲームにおいて、【エルトリア大迷宮】ではフロアボス討伐時、2つの条件から報酬が決定される。
一つはシンプルなドロップ運。
そしてもう一つは、“同行しているヒロインが誰であるか”である。
たとえば前回入手した【
その他の各ヒロイン専用アイテムについても同様の仕様だ。
とはいえ、それ以外の高レアアイテムなら主人公だけのソロ攻略時にもドロップしていたはずなんだが……
残念ながら今回に限っては、それすら入手できなかった。
その結果を踏まえ、俺は「う~ん」と首を傾げる。
「もしかしたら主人公は主人公で、何か個別に条件が設定されてたのかもな」
ゲームのシステム上、主人公をパーティーから抜くことはできない。
そのせいで仕組みに気付けなかったとか、大方そんなところだろう。
いずれにせよ、今はっきりしていることは一つ。
ちゃんと高レアアイテムが欲しいなら、ゲームのキャラクターとともにもう一度攻略しに来る必要があるということだ。
そう結論を出した後、俺は改めて前を向く。
「まあせっかくここまで来たんだ。とりあえず、最深層のダンジョンボスを倒してから帰るとするか!」
意識を切り替えた俺は、そのまま最深層である地下50Fに向かった。
『グォォォオオオオオオオオオオ』
ボス部屋に足を踏み入れた瞬間、ダンジョン全体を震えさせるほどの盛大な雄叫びが響き渡る。
吹き荒れる強風を耐えながら、俺はその魔物を見上げた。
「……まさかこれほど早く、コイツと向かい合うことになるとはな」
全身が光沢のある白銀の鱗に包まれ、ダンジョン内の魔光を受けてキラキラと輝いている。
ソイツが醸し出すオーラは、俺ですら身震いするほどのものだった。
名を、【
ゲームにおけるレベルは150で、世界に数体しかいないSSランク魔物の中の一体だ。
ちなみにだが、物語終盤で戦う魔王も同じ150レベル。
シンプルな戦闘力ならオルトラムの方が上だと感じたプレイヤーも多くいるほど、その強さは確かである。
俺がラスボスを目指す以上、絶対に避けては通れない強敵。
今の俺の実力がどの程度のものか、ここで測らせてもらうとしよう。
「いくぞ、オルトラム!」
『グルゥゥゥウウウウウ!』
俺は【錆びついた剣】を手にし、オルトラムに向かっていくのだった。
◇◇◇
戦闘開始から約30分。
俺とオルトラムは互角の戦いを繰り広げていた。
「はあっ!」
『バウッ!』
隠しダンジョンのボスなだけあり、オルトラムの実力は本物だった。
特に厄介なのが、奴の持つ固有能力だ。
オルトラムの魔力には次元を断絶――すなわち無条件に両断するという一撃必殺の効果がある。
まともに攻撃を浴びれば、俺ですら一撃で殺されてしまうだろう。
とはいえ、決して対応策がないわけではない。
俺の固有魔術である【
「【
『ガルゥゥゥウウウウウ!』
俺とオルトラムが放った断絶の魔力は、ぶつかり合いそのまま相殺される。
それを見届けた俺は、わずかに眉をひそめた。
「【
その後、しばらく互角の攻防を繰り広げながら打開策を考える。
そして、
「オルトラムとの間合いにも慣れた頃だ。そろそろ
ようやく作戦を決めた俺は、まずオルトラムの魔力を反射することを止めた。
俺の固有魔術である【
その能力は、敵の魔術を吸収し自分の魔力に変換したうえで跳ね返すというもの。
少し工夫すれば、跳ね返す前の魔力を蓄えることも可能だったりする。
つまり、俺の狙いは相殺しきれない程の魔力を集めてから解き放つこと。
それなら一撃でオルトラムを消滅させることも可能だろう。
ただしこの作戦には一つだけ大きな欠陥が存在する。
一発や二発分くらいならともかく、数十発分の魔力を俺の体内に留めておくことができないのだ。
準備が整うより先に、俺の身体が断絶の効果によって消滅してしまう。
この作戦を成功させるためには、魔力を留めておくための媒体が必要となるわけだが――
俺はちらりと、手に握る【錆びついた剣】に視線をやった。
「どういう原理かは分からないが、ここまで全く壊れる気配のないお前のポテンシャルにかけるぞ!」
そう告げると共に、俺は吸収した魔力を全て【錆びついた剣】に注いでいく。
すると見事、剣は壊れることなく数十発分の魔力を蓄えてしまった。
「……マジか。物は試しといった感じだったんだが、まさかうまくいくとは……」
この作戦が失敗すれば撤退も考えていたが、こうなった以上話は別だ。
俺は改めて、しっかりとオルトラムを見据える。
「そろそろ終わりにさせてもらうぞ、オルトラム」
『ッ、ガァァァァァアアアアアアアアアア!』
白銀の魔力を纏う【錆びついた剣】を高く掲げると、オルトラムは警戒したように雄叫びを上げる。
それと同時に、突如としてオルトラムの背後に
(おおっ、ゲームではなかった演出だ!)
まさかの展開に、ちょっぴりワクワクしてしまう。
だが、そんな感想を抱けるのも一瞬だけ。
オルトラムは残された力を全て使い果たすようにして、巨大な魔力断絶を放ってきた。
俺はそれを真正面から迎え撃つ。
そして、破壊の魔力が蓄えられた【錆びついた剣】を力強く振り下ろした。
「喰らえ――――【
眩い白銀の光が、錆びついた刀身から勢いよく解き放たれる。
光はオルトラムの全身を呑み込み、瞬く間のうちにその
そして――――
◇◆◇
「この地で最も強力な存在を召喚し、王都を破壊する……だと?」
突如として目の前に現れた四天王【異界のゲートリンク】。
そんな彼が発した言葉を、エレノアが復唱する。
するとゲートリンクはコクリと頷いた。
「その通りだ。これから召喚する存在は、そこに転がった醜い豚などとは比べ物にならない力を有している。既に力を使い果たした貴様たちでは――否、万全の状態であっても抵抗することはできんだろう」
「っ!」
それが事実であると、エレノアは直感的に理解した。
漂う魔力の邪悪さから、ゲートリンクがブラゼク以上の実力者なのは間違いない。
それも四天王を名乗るからには、王国騎士団が総出でかかっても討伐できるかどうかのレベルだろう。
そこにさらなる戦力が加わるとなれば、こちら側の敗北は必至。
「そんな……」
「冗談でしょ?」
そう思ったのはエレノアだけでなく、ソフィアやクロエも同様だった。
絶望する彼女たちの前で、ゲートリンクは楽し気に漆黒の悪意を操る。
「では、そろそろ【
ゲートリンクが突如として、何かに驚いたような反応を見せる。
その後、彼は高らかに笑い声を上げた。
「ふはは! なんだこの魔力は! まさかこの地にこれほどの存在が眠っていたとは……! この魔力量は俺をも超え……いや、それどころか魔王様にすら匹敵するかもしれん!」
「「「なっ!?」」
魔王に匹敵するなどという、とんでもない発言。
しかしゲートリンクの態度からして、とてもそれが嘘だとは思えなかった。
そうこうしている間にも、漆黒の魔力は巨大なゲートにへと姿を変えていく。
その圧倒的なオーラを浴び、普段は魔力と縁遠い生活を送っている平民たちすら恐怖に震え始めた。
「なんだよ、この禍々しい感じ……」
「あそこから、俺たちを殺す存在が現れるってか!?」
「そんなの嫌よ! 誰か、私たちを助けて!」
心の底から助けを求める言葉の数々。
しかし、それらはゲートリンクにとっては歓喜の材料でしかない。
「残念だがもう遅い。既に【
巨大な漆黒の門を背に、ゲートリンクは大きく両腕を上げる。
それはゲートを開く合図でもあった。
「くっ、もうどうしようもないのか……」
「これだけのオーラ。宝剣に最大まで魔力を溜めても、抗えるかどうか分かりません」
「こんな怪物が、この世に存在するなんて……っ!」
「………………」
現実を悟り、弱音を吐くエレノア、ソフィア、クロエの三人。
その中で唯一、マリーだけは無表情で敵を見つめていた。
エレノアたちの反応を見て、ゲートリンクは満足げな表情を浮かべる。
「いいぞ、素晴らしい絶望の色だ。その色をこれから、さらに濃く染めてやろう!」
そんな前置きの後、とうとうゲートリンクは告げる。
この地で最も凶悪な存在を召喚し、使役するための呪文を。
そして、この国全てを破壊する為の
「さあ来たれ、愚かなる者たちに絶望をもたらす破壊の化身よ! 我の願いに応え、その力を振るいたま――」
「――――【
「……へ? ぐわぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!」
ゲートリンクの叫びと共にゲートから飛び出してきたのは、なんと魔物などではなく
その光はあろうことか、召喚者であるゲートリンク本人の体を一瞬で呑み込んでしまう。
さらに光には破壊の属性でも含まれていたのか、ゲートリンクの
「なんだ、これはぁぁぁぁぁ!?!?!?」
ゲートリンクは必死に抵抗しようとするも、現実は残酷だった。
消滅は止まらず、どんどん進行していく。
そして、
「ふ、ふふふふざけるなぁ! こんな、こんな訳の分からない流れで四天王の俺がやられるなどぉぉぉぉぉおおおおお!」
ゲートリンクは最後にそんな断末魔の声を残し、完全に消滅するのだった。
「「「………………(ぽかーん)」」」
呆然とした表情を浮かべるエレノアたち。
その中で唯一、マリーだけは笑顔を浮かべ、
「やはり、ご主人様はこの世界で最も偉大なお方です」
迷いのない声でそう告げた。
かくして。
王都に四天王が攻めてくるという今世紀最大の事件が、見事に解決したのだった――
――――――――――――――――――――
完全決着!
前回の感想欄ではクラウスがゲートからやってくるという予想が多かったのですが、ここで作者から一言。
「一体いつから――
この世界にとって、今のところクラウスくんはただの大英雄ですからね(本人が知ったら泣きそう)。
凶悪判定の正解はオルトラムさんでした!
他の作品なら主人公がカッコよく登場したと思いますが、この作品なので。皆様が期待した高いハードルを潜り抜ける展開にしてみました。
というわけで次回、感動(?)のフィナーレです!
自分が四天王を倒したと知らないまま、王都に帰ってきたクラウスを待ち受けるものとは!?
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