第40話 先生の解離

え、こんなことが有り得る?


そんな、まさか、本当にこの医者、分かってんの?




え、有り得ない有り得ない有り得ない。



え?なんで?なんで?なんで?どうなってんの?




 「天宮さん、僕はね、『解離』をね、持っているんだよ」



 「は?」



 あたしは処置された手首をくらくらと回しながら、不思議な感覚に陥るみたいだった。



は?



解離なんて、え?



あたしたち一緒?



何言ってんの馬鹿じゃないの?



そんなこと有り得ないって、そんなこと有り得ないって。



 「天宮さん、僕も交代して見せようか?」




 看護師は驚いた顔をしている。中村さんだっけ?先生とちっちゃく声をかけているのは何となく見えた。



そして、私はなぜか背筋がすーっと透き通るような感覚に陥った。



え?



なんで?



なんでなんでなんでなんでなんで?



どうして分かるの?




私たちの何が分かるの?







「いつきさんよう、本当のことを言おうや」





 あのポンコツ医者はニタッと笑ってあたしの事を後ろに突き飛ばした。


不意のことだったから、受け身が取れず、クッションの山の中に頭っから突っ込んだ。


ダバダバダバとクッションのタワーが崩れる。尻もちをつきつつ、クッションの隙間から、伊勢原先生を見た。


ニタッと笑うあの顔は普段あたし達が知っている。『伊勢原先生』の表情ではなくなっていた。


あたしは少し恐怖を感じた。


なんか、マズイものにあたしは触れてしまったのだろうか?




え?




さっきまでの伊勢原先生とは全然違うじゃない!


この人は誰?




「おっら、座ってないで、早く名乗れや。あん?怖いのか?俺が先に名乗ってないからか?なら、俺は《エル》だ。ほら、早く名乗れ」




恐怖であたしの顔は引き攣っていただろうね。


小さく、「あたしは優香」と名乗っていた。



伊勢原先生もどきを、直視できない。


エルと名乗ったそいつは、まるで堕鬼のようだった。怖い。



その時、声が聞こえた。



『わたくしに変わりなさい』




あたしはまた大事になるのを承知で、急いで中に帰った。


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