第39話 構ってちゃん

 「先生どんな顔するのかしら」



 『天宮 いつき』の部屋にたどり着いた僕は、扉を開ける前に不思議な声を聞いた。


ああ、違う人格だ。この話口調は『天宮 いつき』ではない。


これは、女性の人格である可能性が高い。僕は鍵を開けて室内に入った。





 ガチャという音の後に、あらまあ、イケメンがやってきたわ。あたしはにっこり笑ってタオルを振り払って



 「先生ぇーっ」




 と先生に抱きついた。



計算計算。




これはあたしのことをちゃんと見てくれるかの確認。この確認作業は大事。これがないと先生の化けの皮は剥がせない。



あたしは演技をした。



 「先生見て」



 白衣を血で濡らした先生に手首を見せた。



 「何でか分からないけどこうなってるのっ」




 先生はあたしを冷めた目で見ていた。



何でか分からない。


え?これ、普通の先生だったらびっくりするけど?



なんでこの先生大丈夫なの?



不思議でたまらない。


え?馬鹿なの?



満が言っていたように、この先生ダメなんじゃないの?


え?訳わかんないんですけど?



 「先生っ」



 「この手、君がやったね。君は誰だい?」







 あたしがバレてる?






不思議。なんで?へ?




満、そんなこと一言も言ってなかった。



 先生はテキパキとあたしの手首を処置していく。


縫うほどの傷では無い。


そんなの承知している。



これは先生を化かすためにあたしが作った傷です。それは間違いないんだけど。



え?混乱しているなあ?あたし。



いつものあたしが狂っちゃうじゃん。



不思議不思議不思議。あらら?




 「痛いよぉ」



 「そんなことないね。君は天宮さんでは無いだろう?誰だい?」



 先生の冷めた目が怖い。


ええ?


あたし見えてるの?


ええ?



そんなわけ無い。



キャラが違いすぎて間違えられた?




 「あたしはいつきです」


 「そんなわけないね。いつきさんはきっと今君の中で寝ているだろう。だから君は違う人だ」



 「ええ?」



 処置しながら、先生が核心的なことを言ってくる。


怖いこれ。




今までにないパターン。



え、バレた?




そんなことあるか。ありえん。



なんで?なんで?


思わず声が漏れた。



不思議だ。不思議だ。

 


 「そんな、え?」


 「いや、違うね。君は違う。本当の『天宮さん』ではこんなことない」


 「え、でも・・・」


 「僕は知っている。『天宮さん』の中では何人かいるんだよね」



 「そんなはずない、そんなはずないっ」

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