第37話 初めての自傷
記憶が戻ったのはいつのことだったか。
分からないけれどお昼が美味しかったのは覚えていた。魚のフライだった気がする。白身魚は好きだからとてもパクパクと食べたのはよく覚えている。
頭をかこうと思って不意に手を上げたとき、手が赤い線で二箇所切れていたのを見つけた。
あれ?
こ、これ、これ、これ・・・。
痛みは無かった。
でも怖くなってお姉さん座りで座っていた足を慌てて伸ばして、ふいと立ち上がりナースコールを押した。
「どうされましたか?」
看護師長という肩書きを持った村本さんが私の部屋を訪れた。
私は慌てて手首を差し出した。左手の手首だった。
そこから血が流れていた。でも他人事のように私はすいっと手を差し出しただけで、普通に村本さんがびっくりする顔を見ていた。
「これ・・・・・・。」
「どうしたのこれ!?」
村本さんが驚いたように私の手首を握った。
痛みは感じなかった。
なんでだろう。
無痛?
普通だったら痛いはずなんだけどな。
これは一体・・・?
何が起こっているのか、私は現実を受け止められなかった。
村本さんがすぐにポケットから濡れたタオルを出して私の手首に押し当てた。
血はそこまで噴射しているわけでは無く、たらっとゆっくり滴り落ちる感じだった。
不思議な気分だった。
本当に何が起こっているのか分からない。
そもそも知らないこれ。なんだろう。
自分の体をロボットのように操縦しているだけのような、体整備をお願いしているだけのような。
自分の身に起きているような感じはしなかった。
「先生呼んでくるから、ちょっとしゃがんで待っててね」
と村本さんは言って、扉を閉めてどこかへ過ぎ去っていった。何だろう。
とりあえずは体育座りをした。
それで手首に押し当てられた濡れたタオルを落とさないように、何となく見ていた。白いTシャツが私の血で染められているのを所々見つけた。
「ん?」
なんだかよくわかんないなあ。
ガクン・・・。
私の意識はここまでで途絶えた。
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