第36話 離人症

 ここはどこ?


私はだあれ?


天宮いつきという私は、ゆったりとふわふわと宙を浮かんでいるような感覚に陥っていった。



 幽体離脱のような、自分の体はクッションに塗れて寝ているはずなのに、なぜか自分の意識はその体を上から見下ろしているような感覚に陥ったのである。不思議な体験であった。



私は幽霊にでもなったのだろうか?



もしかして死んだ?




そんな馬鹿な。



ここは病院だったはず。そんな病院でこの健康な体が亡くなるはずが無いのである。


理解に苦しんだ。



私の体は勝手に動き、クッションの上から立ち上がって、にっと笑って、緑のクッションを私に向かって蹴り上げた。


ぶつかると思って両手を顔の前にクロスで構えたのだが、なぜかクッションは私をくぐり抜けて宙を舞ったのであった。



 そして思い切り私の体はナースコールを押していた。



窓が無い部屋で時間の感覚をつかむのは大変難しい。



今が何時なのか、何曜日なのかは看護師がいつも早朝に教えてくれるのだけど、今回は私から看護師を呼んでいる。



不思議な光景だった。



なんでこれが成立するのか。世の中の不思議というのは色んなところにありふれているんだなと、私はつくづく感心した。不思議と怖いという気持ちが無くて、それがなんとも不思議で不思議で不思議で、ちょっと笑えた。



看護師の聡美が部屋にやってきた。不思議だった。もう訳のわからない世界で、体の『いつき』というのは聡美に何か話し、聡美は顔を真っ青にしていた。



 そのまま聡美は部屋を閉じて即座にどこかへ走って行く音を私は耳にした。私が喋っている言葉が聞こえないのになんでその音だけが聞こえたのか、摩訶不思議な世界で私はまた増えてしまった足音に耳を傾けた。



聡美と一緒に今度は帰ってきたのが、伊勢原先生だった。上から見るとイケメンであるくせに寝癖がすごいということを発見できた。


なんともまあ、勿体ないもので。



そこで何かを話していたのだけど、そこからは私はスーっと体の中に吸い込まれていったのでした。

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