第29話 治ってほしい気持ち

 「先生?」


 「ああ、悪いね。僕は彼女の『人格』をみている。だから・・・」


 「それは『統合失調症」の『妄想』ではないのですか?」





 んーん。鋭い。伊藤さんはかなりできるナースのようだ。



元々、違う科にいたにもかかわらずここまで勉強して来ていたか。


友達、いや、親友の事だからかなり勉強して来たのだろう。だから、早く治してあげたい気持ちが先行してしまっているようにも見受けられる。



『統合失調症』であれば薬でコントロールする事ができるもんなあ。


それで社会復帰している人も多いのも確かだ。


しかし、「天宮 いつき」は確実に違う。



記憶の抜けと言い、『人格」の存在といい、彼女は当時の僕と酷似し過ぎている。


これをどう説明しようか。



 「伊勢原先生、変わりますよ」



 ここで救世主が現れた。そう、教授だ。助かった。




僕は、伊藤さんから逃げるようにして空になったパスタのトレイを捨てて教授に席を譲った。




 伊藤さんは不満そうにしながらも、僕の元から去り、通常業務へと戻っていった。




 この『解離性同一性』はまず『人格』が何人いて、その人格の特徴を知る事が、治療の一環になる。


これは教授に教わった事だ。


そこから、何が切っ掛けだったのか、何がトラウマになっているのかを探らないといけない。『人格』はいつ変わるか分からない。



だから、監視体制を敷く事が重要になってくる。

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