第28話 お昼間の疑惑
変になったのはここ数日らしい。
ある日、泣きながら電話を受けたのだとか。
ここ数日と言えば、そろそろ寒くなる時期だ。
この時期に体調を崩す患者は多い。伊藤さんもそのことを知っているのだろう。
もしかしたら、彼女は『統合失調症』を疑っているのかも知れない。それか、『境界性パーソナリティ障害』か。
可能性は確かにある。
しかし、その可能性は僕の経験則からは低いとみている。何故なら、この僕も
『解離性同一性障害』
の当事者であるから。
数年前に診断は受けている。ここの教授から。
だから、僕の多少のわがままも聞いてくれているのだ。
この病院は市立でありながら、かなり変わった病院だ。
教授は海外の出向歴があり、海外で多くの『解離性障害』をみて来たスペシャリストだった。
僕もはじめ、そんな病気なんてない、と思っていた。今の伊藤さんのように、『統合失調症』あたりだろうと考えていたのだ。
でもある日、教授に呼ばれて自分の遍歴を書いた。
何故と思いつつ、書いたが、記憶に抜けが多くあったのだ。
そこから僕は
『医者でもあり、患者』
と言う奇妙な状態になっていった。
今でもまだ『寛解』はしていない。
時々、人格がころっと変わる事があるが、僕の場合は幸い、教授のおかげか、『記憶の共有』ができるようになっていたのでこうして医者を続けられるのだ。
だが、この事を、伊藤さんに話すことはできない。
これはかなりの極秘事項なのだ。じゃないと、僕が医者を続ける事ができない。これはどうしたものか。
僕は「天宮 いつき」の様子をチラリとみた。彼女も昼ごはんのようだ。黙々と姿勢良く食べていた。
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