第19話 トチ狂った私

 「大丈夫。僕は何にも持っていないよ。何なら白衣脱ごうか?」


 「怖いです」


 「そうだろうね。ごめんね。まずは自己紹介をしよう。僕は精神科医、伊勢原。君は?」


 伊勢原という医者は本当に白衣を脱ぎ、私に写真付きの名札を見せてきた。そこにはちゃんと、『伊勢原 祐樹』と書かれており、精神科医と書かれていた。


 「私は天宮 いつきです」


 私は少し心を落ち着かせ深呼吸をしてから答えた。


 「天宮さんね。僕は今日から君の担当をすることになったんだ。よろしくね」


 担当?私の?じゃあ、私は正式に精神病患者になったわけ?そう思ったら笑えてきた。




 「ふふふふ、」





 「?何が面白いんだい?」




 「だって、私も正式にとち狂った人になったわけでしょ?何だか笑えてきません?こんな拘束とかされて、点滴打たれて、こんなクッションまみれの部屋に入れられて、水すら飲ませてもらわないと飲めなくなっていて。立派な『とち狂った人』じゃないですか。昨日までの『社会人二年目の私』はどこいっちゃったんでしょうね」




 私は笑いが止まらなくなっていた。



 だって、



 だって。



『もうこれで普通の人じゃなくなる』




 と思うと今までがバカらしくて私、何も意味もなく働いていたんだなって思えて、本当にバカだった。



 「天宮さん、僕の話、聞いてください」


 伊勢原医師が私にグイッと顔を近づけた。





 私は笑ったまま。もういい。もういいの。私はとち狂った『精神疾患者』なんだから。





 「雨宮さん、いいですか、僕はね、「精神疾患者」のことを悪く言う人は嫌いです。そしてその「精神疾患」に甘える人が嫌いです。僕が言っていることわかりますか?わかりますよね?だから、人生に絶望しないでちゃんと前を向いてください」

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