社交や外交の場としても使われる応接室で、ささやかな勇者帰還の会食が開かれた。周囲では忙しなく、しかし優雅に使用人達が食事の世話をしている。普段は楽しげな会話や議論が交わされるこの部屋が、今はなんの言葉も交わされていない。王達は、礼儀作法もお構いなしに食事をひたすら食べ続ける勇者を驚きを隠せない様相で見ていた。

「勇者様、そのように慌てて食べずともお食事は逃げませんわ。」

勇者の隣に座る王女が勇者に声をかける。その言葉を聞き、少し場が和んだのか続けて王が、

「ははは!食事に心を奪われている勇者殿に王女は嫉妬しているようだ!」

と続けた。その言葉に、「まぁ!お父様ったら!」と王女は剥れた様子でやや赤面し反論した。そんなやりとりを尻目に、勇者は用意されていた最後の料理を空にしていた。そして、それらを一気に胃に流し込むようにグイ、とワインを一息に飲み干した。

「素晴らしい料理でした。こんな食事は本当に久々です。ありがとうございます。」

コン、とグラスを置き勇者は王に向かって言った。さらに勇者は、

「失礼ながら陛下。一服してもよろしいでしょうか?」

と王に許可を求めた。それならば、と王は王族も愛煙する品を勧めた。すると勇者は、

「いえ、お心遣いは恐縮ですが、自分のものがありますので」

と言い、懐から実に不思議な色の葉巻を取り出し、火を付けた。葉巻の先から立ち昇る煙は、妙に目を惹きつける色で蠱惑的で独特な匂いをしていた。勇者は煙を燻らせながら、

「陛下、王女様。素晴らしい食事の御返しにはなりませんが、私の旅の話をしても良いですか?気になっていらっしゃると思いますので。」

と言った。王と王女は無言で頷き、勇者は自らの旅路を語り始めた。

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