#1.2謁見

 王城の廊下を近衛兵長と勇者は無言のまま歩いていた。2人の間には妙な緊張感が漂っていた。いや、緊張感を抱いているのは制式武具に身を包み、この国の王から下賜された剣を佩びているこの男だけかも知れない。

「先刻は部下が大変な失礼を働き申し訳ありません。」

兵長は、少しばかり歩調を緩めながら言った。

「いや、気にしていないよ。むしろ彼等の判断は正しいさ。こんな得体の知れないやつをおいそれと通す方が問題さ。」

カラカラと笑いながら勇者は答える。自嘲気味に言った彼は、「ところで」と続けた。

「流れのまま通してもらったけど、僕は出直すべきだったね?こんな身形じゃお目汚しも良いところだ。」

「御安心を。既に手配は済んでおります故。」

話している間に大浴場の前に到着した。全く、いつの間に準備したのやら、と勇者が考えていると兵長は一人のメイドに勇者の世話を申し付けていた。

「こりゃ僕なんかのために申し訳ないですね。」

困ったように笑いながらメイドに促され、勇者は浴場に消えていった。

10数分後勇者がさっぱりとした姿で浴室から出てきた。総髪は短く切り揃えられ、服装もボロボロの物から麻のシャツと革のベストという出立に変わっていた。

 二人は再び国王の待つ謁見の間に歩を進める。目的地までもうすぐだ。荘厳な扉が重々しく重厚な音を立てながら開く。勇者はキョロキョロと辺りを見回す。過去の記憶を確かめるように。辺りを見回していると低く覇気のある声が勇者の耳に届いた。

「勇者殿。よくぞ戻られた。」

弾けるように声の主に目をやる。初老の頃だが、どこか若々しく新鮮な印象の雰囲気を醸す人物。この国の主、国王だ。いつの間にか、高みの玉座に座していたらしい。

「其方の帰還を国王として、この国に住まう者として心から嬉しく思う。」

王が言葉を発する。それにハッとした勇者はひざまづき、

「私如き者に勿体なきお言葉、嬉しく存じます。陛下におかれましても益々御壮健のご様子。一層若々しくなった様に見受けられます。」

と答えた。その言葉に王は少し逡巡し、大きく笑った。

「ははは!勇者殿!それもその筈だ!貴殿が出立された頃には私はまだ王子だったのだ!」

「これは失礼を。通りで記憶の中の陛下よりも随分とお若いわけだ。」

勇者もまた過去を懐かしむ様に笑った。

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