死中に咲く

逢初あい

#1.1勇者の帰還

その王国は、人類の生存圏の中で最も栄華を誇った国だった。多少の貧富や不平等はあれど、その国には理不尽な差がなかった。そんな美しく整然とした王国、その城下町にある独りの男がフラフラとやってきた。その男は、衆人の目を集めた。見窄らしい格好に薄汚れた体、そして男から立ち込めるすえたような臭気に住人たちは嫌悪の表情を浮かべた。男はそんな事を気にする様子も、あるいは気にする余力も無く王城へ歩を進めていった。

 王城の門前に着いた男は、着くや否や門を守る二人の衛兵に止められた。兵の1人が声を上げる。

「去れ!此処は貴様のような者が来る場所ではないぞ!」

男はその言葉に、困ったように頭をかきながら答えた。

「困ったな。僕はここに、というよりも王に用があるんだけどなぁ。」

それを聞いた兵士達は顔を見合わせ大笑いした。

「貴様の様な下賤な者が王様になんの用があるというのだ!嘘を吐くならばもっとマシな嘘を考えろ!」

と笑いながら言った。暫く兵士達が大笑いしていると、騒ぎを聞きつけた彼らの上官らしき人物が現れた。1人の兵士が事のあらましを説明している。するとその上官は、男に向かい

「貴様の言葉の真偽は兎も角として、貴様のような素性も知れぬ怪しい人物が王城に立ち入ることは近衛兵長であるこの私が許さぬ。」

毅然とした態度で、しかしどこか男に対する礼節を持って答えた。男は、身動ぎ一つせず彼らの動向を見ていたが、「これは証明にならないかな?」と言いながら懐から薄汚れたペンダントの様な物を取り出した。近衛兵長はそれを受け取り検めると、表情がより一層険しくなった。

「これは、君の君主に貰ったんだよ。魔王討伐の旅の前にね。」

男は、先回りするように言った。近衛兵長は、兵士の1人に指示を出した。

「直ぐに王様にこの事を知らせるのだ。‘勇者様が帰還された’と。」

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