第4話 新たな家族
マリアンヌは、不可思議に思っていた。
どういうことでしょうか?
「今回ばかりは、ドレイクの考えに賛同する」
「そりゃ、そうだろう俺は今日から『良き領主様』になるんだ」
「オイ、どうしたドレイク!?ゆうべ頭でも打ったのか?」
「激しくや━━」
幌馬車の御者は、ドレイクとジョーの制止の怒号に首をややすくめそれ以上喋らなかった。荷台には、ふたりと一緒にマリアンヌと、マリアンヌの家財道具とは名ばかりのみすぼらしい木箱が3つ積まれている。後は、マリアンヌが大事そうにしているハンドバッグぐらいだ。三人は、キーエフに戻る領民の好意により幌馬車にのせてもらっている。無論、無賃はしない。しかし、この御者はキーエフに代々住む農民だ。ここの『領主様』がどういう人物かよく知っている。荷台に木箱を積もうとすると、手間賃を惜しみ、自分で載せる男だ。しかも、国王陛下の実妹を嫁にもらったはずなのに、この荷物の量だ。
いくらなんでも少なすぎやしないか?
はじめは、ジョーも御者同様にそう思っていた。しかし、今朝のやり取りでを知る限り仕方がないと納得している。
初夜から一夜明け、新たなる一日がはじまるにふさわしい晴天。しかし、澄んだ青空とは似つかわしくないやり取りが、生家で過ごす最後の時間に暗い影を落としていた。
「儂はなにも、払わぬと言っているのではないし、永久に持ち出せぬと言っているわけではありません」
「では、どうゆうことか国務大臣」
珍しく怒りを露わにしたフランツ国王とドレイク、ジョーと国務大臣、そして、当事者であるにもかかわらず、離れた壁際の席に座らせれているマリアンヌは、国務大臣の執務室にいた。
「陛下、落ち着いてください。さぁさぁ腰かけてください。よいですか、支度金は払います。金貨100枚と━━」
「おい、まて大臣、マリアンヌの持参金がたった……」
「仕方がないのです。王家からのただの離籍、しかもフランツ国内の公爵家へ下るだけのこと。くわえてこれまでの医療費に━━」
「要らぬ。」
「ほ~う。要らぬとキーエフ公爵!」
「まて、ドレイク。それでは、家族として━━」
「いや、ドレイクその通りだ!!持参金目当てなどとワタシも思われたくない!!」
「では、宝飾品の類もいりませんな、公爵様」
「要ります!当事者のわたくしの了解なく物事をすすめないでいただきたい、たとえ、国王陛下であろうと、旦那様であろうと、友であろうと」
「ほ~う、これはこれは、失礼しました。マリアンヌ姫、いや公爵夫人」
対峙するマリアンヌ以外の三人は、悪意ある呼び方にさらに腹を立てていた。
「お気になさらず、大臣殿。金貨100枚は、このままフランツ王国に預けておきます。ただし、利子はつけていただきます。支払方法は二つ、現金引き出しか、現物支給でお願いします」
「う~ん、それは、ちょっと面倒ですなぁ……」
「そんなことはありません。利子も年1%で構いませんし、現物支給と言えどもダイヤだ、なんだと高価な物を言うつもりもありません。社交界嫌いと有名な夫と、体の弱いわたくしでは夜ごと夜会に招待されても出向くはずもありません。特にわたくしは王家にいたときでもそうでしたのに、嫁いですぐに健康になったりしませんわ」
(ドレイク)あれ?
(ジョー)なんか
(フランツ国王)雲行きが
(三人とも)あやしい……。
「では、それで━━」
「では、一筆書いていただきましょう、国務大臣殿に。今の文言を略式で、手早くわたくしがかいてしまいますわ。覚書程度ですもの。ああ、補佐官殿どうぞそのまま、お仕事を続けてください。私事でお手を煩わせたくありませんことよ」
マリアンヌは、ただ羊皮紙の保管場所だけ聞きサラサラと2枚書き上げた。
「では、国務大臣殿。こちらとこちらに日付と、サインを」
あっけにとられて大臣は、言われるがままサインした。
「では、家財道具の持ち出し制限も━━」
「ああ、それには及びません、ハンドバッグ一つと木箱を3つだけ、その中に入るものだけ持ち出させてくだされば十分です」
「どれほどの大きさですかな?」
「ご心配されるほどの大きさの物ではありません。もともと修道院に行く際に指定されていた木箱2つに、あと一つ同じ大きさの物を」
「中身は?」
「オイ!大臣失敬だぞ!!」
ジョーはたまらず声をあげた。
「いいのよ、ジョー。ありがとう」
「マリアンヌ……」
「そういえば、わたくしたちもう友ではなかったわね、家族になったんですもの。『存じます』は付けないわ。ジョー、レディーの荷物を詮索するのは失礼だと、怒ってくれるのはありがたいけれど、これも国務大臣の大切なご公務よ。王家ゆかりの品を持ち出されでもしたら、大変なことになりますでしょう?だから、厳重になさらくてはいけないところを、簡略的に口頭で済ましてくださったいるの、お兄様、いえ失礼、国王陛下に免じてくださって」
「そっ、そうです、そうですとも!さすがはマリアンヌ様!」
「まっ、御謙遜を、大臣。それにわたくし、今日からは『公爵夫人』ですのよ。そうお呼びくださった方が、嬉しいんですの」
「ああ、ああ、そうですな。そうですな」
「わたくし、今日からは『良き公爵夫人』を目指して、日夜励むつもりです」
「おお、日夜、日夜ねぇ、いいやぁ、がんばるのはいいことですな」
のどかに幌馬車に揺られる昼下がり、こんな殺伐としたやり取りの後とは思えない牧歌的な時間がながれている。御者は、聞くとはなしに聞こえてきた話から、我が領主の金運のなさに、ああ、またかと感じていた。
「なぁ、マリアンヌ。本当にこれでいいのか?」
「ええ、旦那様には、ご迷惑をかけますが……」
「そんなことは、気にするなマリアンヌ」
「ありがとうございます。ああ仰っていただけたので、安心して提案できました。感謝しております」
「最初からわかっていたような物言いだな」
「はい。予想しておりました。『持ち出し制限』については。身近に今まで何度も見聞きしてきました。お兄……」
「いいじゃないか、身内だけなんだから。国王と言えど実兄なんだから好きに呼べばいい」
「そうですわね。……でも、もうわたしくしの家族に兄は、お兄様と呼べる方は……」
「でも、『旦那様』はいなかったろう?」
マリアンヌは、ドレイクの顔を見つめる。
「旦那様は、どうして一瞬でこんなに幸せな気持ちにしてくれるのでしょうか?」
「まだ春だっていうのに、なんだか暑くていやになりますね」
御者とジョーは二人してそうだそうだと言いあっている。それを聞きマリアンヌは、不可思議に思っていた。
どういうことでしょうか?
「春っていいですな~」
たたみかけるように、御者の男はそうつぶやいた。
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