第30話 残党
男達は扉だった残骸を踏みつけ、中に人がいたことに驚きを隠せないと言った表情を見せた。が、一番先頭に立っていた男が「金目のモノを全部よこせ!!」と、カウンターに居並ぶ三人に向かって銃口を向ける。
「おいおい、一晩で二回も銃をつきつけられるとか、どんだけ運悪いんだよ……」
ハルが思わずぼやくと、「余計なことは喋るな!!」と先程の男が怒鳴り散らし、天井へトリガーを引く。
「あのなぁ。お前さんらがたった今壊した扉、穴を空けた天井の修理代が必要だし、個人的な医者代もあるんでね。銅貨一枚足りとも金は渡せねぇな」
「そうか、じゃあ、お前らを全員始末するだけだ!」
「ランス、マリオン!!カウンターの下へ!!」
二人に隠れるように指示すると、ハルは即座に猟銃を構え、発砲。計二発の銃声が鳴る。
男が撃った弾はカウンター奥の棚の中、硝子扉をぶち破って酒瓶に当たっていた。瓶は派手な音を立てて割れ、破片が飛び散る。香料とアルコール臭を漂わせ、中身も床へ飛び散った。
僅差ではあるが、ハルの方が先に引き金を引いたらしく、両手共に指を撃たれた男は崩れ落ちる。
しかし、次の瞬間、残りの三人がハル目掛けて同時に銃を発砲。
ハルは咄嗟にカウンターの下へ隠れたが、左耳を撃たれ、耳朶が見る見るうちに朱に染まっていく。
「ハルさん!!」
「ボス!!」
「騒ぐんじゃねぇ。耳朶がちょっとばかし切れただけだ」
ハルはそう言って笑おうとするが、却って痛々しさが増すばかり。マリオンとランスロットは顔を悲壮に歪めた。
「そんな顔するな」
「でも……」
その間にも、強盗達は容赦なくカウンター目掛けて銃を撃ち続ける。
「ランス、マリオン。お前達は逃げろ」
二人は目を潤ませ、激しく首を振る。
「雇い主の言う事は聞けよ……!」
「聞ける訳ねえだろ!!」
ランスロットが大声を出して猛反発すると、その声に反応して更に銃弾が撃ち込まれる。
「奴ら、ただの強盗じゃない。全員が銃を所持していることといい、銃の扱いに慣れてることといい……、ひょっとしたらクロムウェル党の残党かもしれん。このカウンターを弾除けに使うのも直に限界がくる。その前にお前達だけでも逃げろ。頼む!」
ハルが悲痛な面持ちで懇願するも二人は微動だにしない。
「ランス、マリオン。俺はずっと失望を抱えて生きてきた。でもな、最近になってまた、生きることへの希望や楽しみが出てきたんだよ。お前達二人やメリッサのお蔭だ。お前達には何としても生き伸びて、幸せでいて欲しいんだよ。あいつらもそろそろ弾切れになるだろう。その隙に裏口から逃げろ……!」
「嫌です!三人で逃げればいいじゃないですか!」
「俺は手負いで足手まといになる。あいつらにこの店をこれ以上好き勝手破壊されたくもねえし。俺はお前達とこの店だけは何としても守りたいんだ」
「そんな……!」
「……了解」
反発し続けるマリオンとは逆に、ランスロットが低く唸るような声で返事した。そんなランスロットにマリオンは責めるよう目でまじまじと見返した。
「マリオン。いいからボスの言うこと聞け」
「ランス!!」
マリオンが逆上しかけるのとほぼ同時に、鳩尾に強い衝撃が走った。
目の前が真っ白になり、うえっと間抜けな声が漏れる。ランスロットの拳が鳩尾へ入ったのだ。
「マリオン、ごめんな。手加減はちゃんとしておいたから」
耳元での謝罪に続き、「俺がマリオン抱えて出て行きます」と、ハルに告げる声。
「ちょうど今三人の内の一人が弾を切らしたぞ。他の二人ももうすぐ弾切れするかもな。そしたら俺が銃を撃って引きつけるから、お前らは裏から出て行け。今だ行けっ!」
ランスロットに抱えられながら、自分たちへ放たれる銃弾の勢いは目を閉じていても、嫌でも伝わってくる。「させるかよ!!」と、応戦するハルの叫びが銃声よりも大きく響く。
肝心な時に動けない、何もできないのがくやしい。
ぐったりと抱えられたまま、裏口の扉が開く音が一段と大きく聴こえた。
「ランス、脱出成功したね……」
鳩尾の痛みと軽い吐き気を堪えて口を開けば、ひどく仰天した鳶色のどんぐり眼と目が合った。
「お前……、気を失ってなかったのかよ?!」
「うっすらとだけど、微妙には意識残ってた」
「んじゃ、降りろ。意識のある男を姫抱っこしてやる趣味ねぇし」
ランスロットの腕から解放された直後、二人の間を銃弾が擦り抜けていく。
弾が飛んできた方向を確認すると、銃を構えた男がふたり佇んでいる。
「クソッ!!」
ランスロットが奥歯を噛みしめる。すると、彼の隣で銃声が鳴った。
男の一人は脛を押さえて蹲る。もう一人は足を抱えながら地面にひっくり返り、痛みでのたうち回っていた。マリオンが男達に銃を発砲したのだ。
「……ラ、ラ、ランス!い、いい、い、今のうちに、あ、あいつ等を取り押さささ、えて!!」
自分で撃っておきながら、咄嗟に取った自身の行動にマリオンは混乱した。歯の根をガタガタ鳴らし、叫ぶ。両手は握りしめた銃を今にも落としそうなくらい、小刻みに震えている。
即座にランスロットは地に転がる二人に駆け寄った。
二人と同様転がった銃二挺を押収していると、蹲っていた男がランスロットの足を掴んできた。
転ばせようとしているのか。すかさずマリオンは男の手を狙い、再び発砲。
ところが、弾は男の手ではなく頬を掠めただけだった。それでも男が一瞬怯んだ隙をついて、ランスロットは顔面を蹴っ飛ばし、気絶させる。まだ痛みに悶絶している、もう一人の男の顔面も蹴っ飛ばして気絶させる。
ランスロットは二人の首根っこを掴むと、マリオンの元まで引きずっていく。
「マリオン、銃が二挺手に入ったぜ!早くボスを助けに行くぞ」
「うん!!」
マリオンとランスロットはお互いに視線を合わせて頷き合った。
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