第11話 逆鱗

11月1日午前10時歌舞伎町紫竹園3階

昨日の疲れから俺は一日中家に籠るつもりだったが、思わぬ情報に出くわした。

田沢 良「恋、ホテルにいたホームレスたちの足取りが掴めた。提供者は敷間だ。」

白神 恋「探ってくれていたのか?まあいい。場所は?」

田沢 良「金華楼だ。池袋にある壮麗で巨大な中華料理屋だな。そして蛇龍の根城でもある。ここに潜伏しているらしい。」

白神 恋「潜伏って、ホームレスじゃないのか?」

田沢 良「それは本人たちに聞いてみればいい。どうやらカタギじゃないらしいしな。」

最後の一言により次の行動がだいたい決まった。

白神 恋「なるほど。大義は必要ないらしいな。しかしそうなると俺一人では厄介になった時面倒だ。付いてきてくれる奴はいないか...。」

するとちょうどその時乳頭 慶が来てくれた。

乳頭 慶「話は大体聞いたぞ。要するに、ライバル店の下見に行くんだろう?」

白神 恋「まあそんな所だ。池袋が相手じゃライバル店以前の問題だと思うが。」

乳頭 慶「知り合い連れて来る。」

白神 恋「出来るなら戦闘力あるやつで頼む。何が起こるか分からないからな。」

乳頭 慶「分かってる。つっても意外と戦えるやついるけどな。もちろんお前の知人で。」

そうなのか。まあそもそも隊員について興味無いしな。慶に一任させるしかない。

田沢 良「金華楼が配布しているパンフレットによると、一般に公開されている部屋は下からビジネス、カジュアル、ラグジュアリーで、未公開の部分の方が広そうだな。まあその分厨房も広いだろうから当たり前だが、問題は4階だな。」

白神 恋「各人それぞれに配備して、俺と慶だけで4階に潜入するか。」


午後6時、池袋金華楼に到着した。

乳頭 慶「あ、恋。指令通りそれぞれの階に配属させたぞ。」

白神 恋「そうか。」

乳頭 慶「1階に仁涯 海斗、玉川 好、2階に星川 星羅、関口一葉、3階に赤松 道夫さんと南 勇気さんだ。」

白神 恋「よくその4人を動かせたな...」

乳頭 慶「経緯を話したら手伝ってくれた。佐々木さんには良くしてもらったからとか。」

それは間違いない。自身もそれが行動原理の1つであるから。

乳頭 慶「そう言えば、お前気づいたらいつの間にか捜査してた感じだったよな。」

白神 恋「まあ俺も佐々木さんに良くしてもらった1人ではあるからな。」

乳頭 慶「ふぅん。」

訝しげな顔で覗いてくる慶。

白神 恋「行くぞ。」

そう言って金華楼に入店した。


ひとまず、ラグジュアリークラスの部屋に入った。

赤松 道夫「お、白神くーん。」

やはり確かに赤松さんと南さんの姿があった。

白神 恋「遅れてすいません。例のホームレスの姿は?」

一応事前に敷間から田沢を通してホームレスの写真を貰っていたので確認して貰っていた。

南 勇気「いや全然。本当にここにいるのかも分からん。」

乳頭 慶「そうですか。」

ん待てよ。確か敷間は自分の足で4人のホームレス集がここにいることを突き止めたんだっけ。ということはどこかに敷間がいるかもしれない。そのことを乳頭達に話し、

白神 恋「一旦敷間を探してくる。俺が戻ってきてから作戦は決行だ。」

乳頭 慶「ああ分かった。」


とりあえずラグジュアリーやらカジュアルには絶対にいないので、1階まで降りて来た。ラグジュアリークラスの10倍ほどあるな...

白神 恋「ん?」

玉川 好「あ」

偶然玉川と仁涯を見つけた。

玉川 好「どうしたの恋。」

白神 恋「いや、実はあの写真の提供者がここにいるかも知れないと思ってな。少し探してたんだ。」

仁涯 海斗「なるほどですね。それじゃあ、僕はお邪魔になりそうですね。」

白神 恋「いやいいんだ。1人でいい。お前らはここで見張っててくれ。」

そう言い残すと店から出た。恐らく敷間の身分的にこんな洒落た店にはいないだろうと思って。


それから30分、辺りを彷徨いても敷間の姿はなく、田沢からも連絡が繋がらないようだった。もしかしたら既に...の可能性も出てきて、結局店内に戻ることにした。しかし、やけに退店する者が増えたと感じた。

乳頭 慶「お、恋。見つかったのか?」

白神 恋「いや結局。こっちも何か動きがある訳でも無さそうだが...」

赤松 道夫「あるとすれば、客の数がやたら減ったことかな。」

南 勇気「嫌な予感がするな。」

確かに。ビジネスクラスでさえ前より4分の1程になっていた。慶の顔はバレている。察しられたのだろうか。

白神 恋「早めに手を打とう。慶行けるか?」

乳頭 慶「行けるぞ。でもどうやって忍び込むんだ?ここから直接4階には入れないが。」

白神 恋「それは考えてある。とりあえず来い。」

そういって連れてきたのは金華楼から少し離れた建物の路地裏だった。

白神 恋「何軒か通して入る。恐らく無人の軒だから恐らく大丈夫なはずだ。そして階を上がってから窓から金華楼の厨房に侵入する。そして階に上がる。」

乳頭 慶「手間がかかりそうだな...」

そう言って出発した。無人の家屋を通るのは容易く、あっという間に件の窓にたどり着いた。問題はそこだった。建物と金華楼の窓間は大して距離は無いのだが、向こう側の窓が開いていなかった。

白神 恋「さて、どうしたものか。」

あまり人が多そうでなお窓を選んだので、それ即ちこの窓を開けてくれる可能性は低いということ。何か手を打たなければ。

白神 恋「何か策はあるか?」

乳頭 慶「無いことも無い。頭を下げてくれ。」

そう言われたので言う通りにすると、突如として乳頭が犬の泣き真似をし始めた。

白神 恋「(いやいや、これが上手くいくわけ...)」

そう思った瞬間、向こう側の窓が開き、

厨房「なんだ野良犬か?あそこに居るのかよ。」

そう言って窓を開きぱなしにしてどこかへ行ってしまった。

乳頭 慶「行くぞ。」

白神 恋「時々お前に敵わないと思うよ...」


乳頭 慶「人がいるな...これじゃ通れない。」

窓から侵入してからさらに階を上がったところに、調理員の姿があった。しかも2人。

白神 恋「ここで見つかると厄介だ。仕方ない。締め上げるか。しかしどうして裂こうか。」

乳頭 慶「あいつら、見たところ食肉加工に従事しているように見えるぞ。豚の泣き真似して、生き返ったと思わせるか?」

白神 恋「そんなわけないだろう。流石に屠殺は卸し先で済ませてるだろう。...そうだ。」

できるか分からないが...やってみるしかない。そう思ってこちらから見て相手の向こう側にコインを投げた。すると2人ともそちらに気が引き寄せられた。そして...同時に締め上げた。

乳頭 慶「ふう...やるならやると言ってくれよ...あとゲームのやりすぎだ。」

白神 恋「すまん。でもそんなゲームしないんだな。」


そして4階の、厨房に着いた。しかし、職員がいない。滅多に来ないところなのか。

白神 恋「4階には何があるか...差し当たりVIPルームと言ったところかな。」

そう言って扉を開く。すると

ホームレス1「!?お前らなぜ!?」

やはりというべきかそこにはホームレス四人衆の姿があった。

???「え、ちょ、どなたですか?

???「招かれざる客のようです。」

テーブルを囲むように座る二人の周りに、ホームレス四人組とその他がいる。それにしても,,,

白神 恋「もしかして、あなたは都議会議員の渡辺 翔ではありませんか?」

乳頭 慶「なんだって!?」

渡辺 翔「げっ」

なんとそこには若手政治家の姿があった。なぜここに,,,

???「渡辺氏、顔が青いですよ。安心してください。あなたに迫る害はすべて排除しますので,,,お二方どうも。私は金華楼オーナーの李俊豪と申し上げます。どうぞお見知りおきを。」

白神 恋「まさかの政治家の姿には度肝を抜かれたな。しかもあの重鎮渡辺 兵三の息子だ。しかし、俺が気になっているのはそこじゃない。だからそう簡単に噂は流さないからその点は安心してくれ。」

李 俊豪「それはご親切に。ところで要件とは?」

乳頭 慶「その四人に話があるんだ。」

李 俊豪「いいですよ。もちろん。」

ホームレスたちに近づくと

白神 恋「skystarの事件について話がある。お前らはあの時なぜあの場所にいたんだ?」

ホームレス1「…敷間に聞いたんだろ。監視だよ。誰に依頼されたかわからないがな。」

白神 恋「ああ。敷間はその依頼の直後に事件が起きたといってたな。場は騒然としていたそうだぞ。小さな火災で済んだが、なんたって衝撃的な殺され方だったからな。」

ホームレス「た確かに、日本じゃ銃の持ち込みすら厳しそうだしな。

白神 恋「なるほど。確信した。お前らが黒スーツ5人のうちの4人だな?」

ホームレス1「!?な、なぜ!?」

白神 恋「銃殺についてはまだ公開されていないんだ。なぜ分かったんだ?確信したような言い方だったが。」

ホームレス1「そ、それは...」

白神 恋「そしてお前を追いかけてみたら、蛇竜の本拠地にたどり着いた。なぜだ?」

ホームレス1「...バカにしやがって。」

急に突然周囲の人間が構えた。どうやら力ずくで抑え込むようだ。

乳頭 慶「ええまた暴力沙汰。」

白神 恋「だが少し見えてきたぞ。ここが正念場だ!」


敵は4人の他併せて10人ほど。少し多いが、大した相手じゃない。椅子を持ち振り払っただけで面白いほど飛んでいった。

ホームレス3「くそ!囲め囲め!ぐはっ!」

慶が飛び蹴りを食らわせる。

周囲「うわぁ!」

怖気付いて数人が逃げ出してしまった。一瞬だったな。

ホームレス1「うぐっ...」

白神 恋「何故ここにいるんだ?依頼者は誰か?」

ホームレス1「こ、ここにいるのは、ただ住むところを提供してくれてるだけだ!依頼者に4人で1人を付き添ってと言われて...正体は知らない!」

白神 恋「1人...まさか殺したのはそいつとか言うんじゃないだろうな。」

ホームレス 3「殺したのも、火を着けるように命令したのもそいつだ...。殺したやつのことは全然知らん。」

白神 恋「依頼者とは別人か?」

ホームレス1「多分な...」

乳頭 慶「依頼者は誰なんだ?」

白神 恋「憶測に過ぎないが、蛇竜の連中である可能性が高いだろうな。そして今日さらにその線に近づいた。」

乳頭 慶「そうだったのか?」

白神 恋「ここ近年蛇竜の捜索してて分かったが、連中は銃を手に入れる際大陸から密輸している可能性が高い。そして今回発見した銃弾、7.62×25だが、あの弾は特殊弾というもので、主に中国で製造されているものだった。」

乳頭 慶「そうなのか?」

白神 恋「ああ。今回は付けていなかったが、サイレンサーで完全に音を消せるように初速を亜音速にしているらしい。」

乳頭 慶「なるほど。じゃあ捜査資料であの銃弾を見た時から中国系の蛇竜の仕業だったんじゃないかと思ったのか。」

白神 恋「暴力団から押収されたこともない特殊弾だったからな。その蛇竜が本腰を上げて飯野さんが殺されたということ...のか?」

乳頭 慶「それじゃあ飯野さんの事情も気になってきたな。」

とりあえずここにいて出来ることは無さそうだ。ひとまず李俊豪と渡辺さんに一言謝っておこうと思ったが、

金華楼店員「李さん達ならここにはもういないよ。」

白神 恋「そうか。それじゃあ迷惑かけたと伝えてくれ。」

警察関係者であることは伝えなくていいかな。

???「おい...」

すると、気絶していたと思っていた人が

???「覚えているか?金竜閣にいた者だ...」

そう言えばこんなやついたっけなあの時。確か数ヶ月後東京は終わるとか。完全に忘れてた。

当時黒スーツだった男「お前ら何したか分かっているのか...?ここは言わば逆鱗だぞ...そう遠く無いうちに貴様らの運命も...」

そう言ってまた気絶し直してしまった。

白神 恋「東京どころじゃなく、俺も終わりなのか?」

乳頭 慶「うーんよくわかんない。」

悩んでも仕方ないので、今日は帰ることにした。


赤松 道夫「おつかれ〜多人数を相手にしたんでしょ?凄いよね〜。」

赤松さんがそう抑揚のない声で話した。

南 勇気「でも、まだ解決ってことにならないよなぁ。」

白神 恋「ええ、具体的な黒幕像もその目的もいまだに謎ですねぇ。」

玉川 好「それにしても、蛇竜が絡んで来るなんてね...やっぱり恋この事件に関わっていくの?」

白神 恋「...多分。」

星川 星羅「はぁ...もし荒事になったら言ってちょうだいね。」

そう言って星川は立ち去った。

関口 一葉「もし死んだら愛ちゃんにあわす顔無いからね!」

関口もそれに続いた。

仁涯 海斗「恋さん、せっかくだし、今日は本部に戻りません?晩餐でも。」

白神 恋「いいよ。良も誘ってみるか。」

南 勇気「なんか皆俺らが幹部だってこと忘れてないか?」

赤松 道夫「ははは...仕方ない。白神君に敵わないよ。」

賑やかなひと時を過ごしながら、本部への道を進んだ。その先の昏がりに気づかずに...


玉川 好「恋、ちょっといい?」

晩餐を取った後、屋上で休んでいると好話しかけてきた。

玉川 好「やっぱり昔のことが...」

白神 恋「...いや、厳密には違うかな。蛇竜に関しては俺が勝手に掛けた言わば枷のようなものだ。あいつらは...」

玉川 好「でも結局そこに行き着くんでしょ?別に止めようと思ってないから。」

白神 恋「止められる義理はないからな。」

沈黙が続いたあと

玉川 好「何かあったら私も手伝うから。借りとかそんなの関係ない。」

そう言って屋上から去った。

白神 恋「(頼れる奴らだな...入隊した時こんな気持ちになるとは思わなかった。)」


11月2日未明、その時俺は通路を歩いていた。

白神 恋「(完全に忘れてたけど、良どうしてるのかな...あいつの寝床とかあったっけ?)」

そう思って長年使われていないその部屋に行くと、田沢が寝ていた。

白神 恋「(良かった。)」

椅子で寝落ちとかしていなくて安堵した...時だった。

白神 恋「(...?なんか焦げ臭くないか?)」

そう思って異臭の原因を探ってみると、

白神 恋「(うわ!)」

突然火災報知器がなった。

白神 恋「(おいおいまじかよ!)」

そして窓から眺めて、すぐにその原因を特定出来た。正体不明の集団がガソリンを撒いて放火していたのだ。

白神 恋「(何が起こっているんだ!?)」

赤松 道夫「おい恋君!」

白神 恋「赤松さん!」

赤松 道夫「焼き討ちにあったようだ。今ここには僕らと乳頭君達とそのほかわずかしか残っていない!先に逃げてくれ!」

逃げて良かったのか。慶達のことも気がかりだが、どこまで火元が近づいているかわからない。

白神 恋「良!火災だ!」

田沢 良「むにゃむにゃ...ふわぁ...ええ!?火災!!?」

田沢を無理やり起こして非常口へ向かった。

乳頭 慶「恋!」

非常階段をかけ下りると、乳頭と玉川の姿があった。無事に脱出出来たのか。

玉川 好「恋、階段の先に...」

謎の集団が現れた。待ち伏せしていたか。よくここが分かったな。

白神 恋「...仕方ない。」

階段を急いで下りた。集団は近づく俺に身構える。そして...

白神 恋「こっちだ良!」

田沢 良「え、ちょ、え!?」

再び2階の非常口から火災が起きているであろう建物内に入っていった。

白神 恋「済まない慶、好。少し荒っぽくなる!」

乳頭 慶「お前について行くと決めていた時から腹を括っていたから大丈夫だ!」

そう言うと、俺は良を抱えて窓から飛び降りた。そしてゴミ袋の上に落ちた。ほかの2人もそれに続いた。

玉川 好「あう...縁に当たった...」

そして隣の建物に窓から入っていった。


何軒通過したか分からない。しかし本部からだいぶ離れられただろう。しかしこの後どうすればいいのだろか。そう思っていると、

田沢 良「!?なんでここが...」

なんと再び多人数に囲まれてしまった。

そして

白神 恋「うっ!?...」

銃撃をまんまとくらってしまった。いつもなら避けれるのだが...しかし致命傷では無い。この程度なら...しかし、体が動作しなかった。

白神 恋「(!!)」

銃声が響いた。計3発。もしかして...と思ったが遅かった。

白神 恋「(...死ぬ...のか...?)」

そう思い、最後に撃った相手の顔だけでも拝めようと思った。その相手は...

???「...ところで、NYがなんの頭文字か気になっていたよな?」

NYリーダーの

奥羽 壮「"Nomad Youngers"。」

奥羽 壮だった。


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