第9話 奇妙な宣戦布告
10月30日歌舞伎町紫竹園。
田沢 良「この5日間、手がかり無しか...」
新歌舞伎町タワーでの出来事の後、あてが無くなった俺に変わって、良が独自のネットワークを用いて情報収集に徹していたが、いまだに手がかりは何も得られなかった。
玉川 好「一旦整理しない?私ずっとフェスにいたからちんぷんかんぷんなんだけど。」
乳頭 慶「それもそうだな。一旦整理してみよう。」
新歌舞伎町タワー事件、10月25日晩の通報により発覚した事件で、新歌舞伎町タワーのホテルskystar41階にハロウィンフェス主催者飯野走が遺棄されていた。
考えられる事件の流れは、まず25日朝に飯野走が1つのアタッシュケースを持ってホテルにチェックインを済ませる。1日宿泊する予定だったらしい。そして昼、例の黒スーツ5人組がもう1つのアタッシュケースを持って部屋に入る。その中で1時間程のやり取りがかわされたあと、飯野さんが突如火災報知器を押し、直後に黒スーツの1人によって銃殺されたと見ている。そして、2つのアタッシュケースの中に入っていたと見られる大量の1万円札をばら撒き、それを火種にして逃走、混乱の中黒スーツを脱いで脱出した。
白神 恋「結局のところ、黒スーツの行方が分からない以上、正体も何も無いよなぁ。タワー内を探してみても、黒スーツなんて見つからなかったし。」
あの時のホームレスの証言、役に立たなかったなと思いつつ、次の行動を決めようとした。その時
佐々木 宗馬「白神さんいらっしゃいますか!?」
ハロウィンフェスボランティアの佐々木宗馬君が紫竹園にいらっしゃったのだ。
白神 恋「あ、ああここにいますよ。」
佐々木 宗馬「良かった〜すいませんトラブル発生です。すぐに代々木公園に来られませんでしょうか?」
白神 恋「そのためにわざわざ来たのか!?すまない。」
田沢 良「どうせ進捗ないんだし、助けに行ってやれば?」
そうだな...と思い、急いで代々木公園に向かった。
代々木公園に向かうと、今晩のフェスの準備中であった。
白神 恋「そう言えば、今日が最終日だったな...主催者なのに全く来なくてすまないな。」
佐々木 宗馬「いえいえ、白神さんが準備を怠らなかったおかげで上手く回ってるので。」
それは良かった。
佐々木 宗馬「しかし...実は、今晩のフェスに向けて準備をしているのですが、いくつかの協力店のオーナーと支配人がまだいらしてなくて...」
このフェスはこの辺りの店が多く出店して客をもてなすという形式をとっており、その際協力店のオーナーが特別ゲストとしてやってくる。つまり、そのオーナー達がまだ来ていないのだろう。
佐々木 宗馬「店の準備が進まないのもありますが、飯野さんがいつの間に居なくなったのもこの感じで、だから不安で...」
なるほど。もしかしたらこのフェスが中止になることを恐れているのか。
佐々木 宗馬「ところで、白神さんは確か、中華料理店のオーナーを務めていて、料理も上手いと聞いたんですけど...。」
ま、まさか俺に焼かせる気か...!?
白神 恋「あ、ああ、確かに料理は出来なくはないが...前も言ったが、肉に関しては全然だと思うぞ。特に牛は。」
佐々木 宗馬「いいんです。良ければ、牛じゃなくてもほかの肉でも構いません。フェスを行っているという事実が大切ですから。」
ん?事実?
佐々木 宗馬「おや、どうやら訝しんでいる様子ですね...。近年、都心でのハロウィンに対して、概ね批判が殺到していており、市議会でもそれについて議題が挙がったくらいなんです。勿論、ハロウィンだからって何でもしていい訳では無いし、不法投棄なんて以ての外です。しかし、私が恐れているのは、ハロウィン文化が廃れてしまうことなのです。そのために、私は飯野さんの地域応援プロジェクトに乗ったのです。」
なるほど。この方は私情よりも、文化の衰退を恐れていたのか。まあなんだかんだハロウィンの騒ぎが無くなったらそれはそれで寂しいかもしれないな。わからないが。
佐々木 宗馬「それで、何としてもイベントを続行したいのですが、この店舗の代わりに出店してくれませんか?」
この方は信頼できそうだ。断ったら断ったで、俺の方が後世に尾を引いてしまうと思い、受け入れた。
白神 恋「うちの店舗の者に掛け合ってみよう...出店させて貰うよ。」
佐々木 宗馬「ありがとうございます!」
本来出るはずだった店員については田沢に調べさせることにした。大事になっていなければいいが。
すぐさま本店から呼び出すと、屋台の準備に取り掛からせた。
店員1「肉と言いますとやはり...」
白神 恋「焼豚だな...」
豚の取り扱いなら慣れてる。ここは手堅く焼豚丼にするか。そう決めていた時、イレギュラーが起きた。
???「よう。まさかワレがいるとはな。」
白神 恋「え...?」
そこには帝都連合幹部、黒澤 聖の姿があった。
前にも話したが、帝都連合は単純な上下関係によって成り立っている。最高幹部と幹部の一般職員によってだ。しかし、そこには勿論派閥というものがあり、主に最高幹部斑目派と幹部黒澤派に分かれている。俺は特にどちらにも属していないつもりでいるが、相手は勿論
黒澤 聖「よくもうちの部下を懲らしめてくれたな。これもあの斑目の策か?」
斑目さん側にいると思っている。やはりと言うべきか、こちらがここにいることを了承して来たようだ。もしかして北澤が呼んだのか?
北澤 神太「あの黒澤さん。いいんです。本当に。俺が弱かったのが悪いんですよ。」
そういうことでは無いようだ。というか大幹部ならそんな事聞かなくても分かっていたか。
白神 恋「ここに来たということは、つまりかえしという訳ですか?」
黒澤 聖「いやぁ、違わい。そもそもの話こやつが不義理を働いた結果じゃろう?ワレはようやった。」
妙に話が分かってくれた。
黒澤 聖「...なるほど。ここにワレの店を開くということじゃな...決めたわ。儂もここに出店する。」
白神 恋「は?」
北澤 神太「く、黒澤さん!?」
黒澤 聖「別にええやろ。ちょうど数店舗出せないんじゃろ?そこに出して、ワレのメンツをぶち壊したる。」
やはり話が通じていなかったようだ...。というか別に、料理は本当に趣味でやっているだけで、そこまでプライドとかある訳じゃないし。
黒澤 聖「どうやら乗り気じゃ無さそうやな。ほんじゃ、賭けをしようじゃないか。これならやる気出すやろ?お前のクビはどうじゃ。」
多分この首ではなく、雇用の方を指しているのだろう。いや、大幹部と言えどもそんな勝手な人事を出来ないだろう。
黒澤 聖「儂が出来ないと思うたか?今斑目不在じゃろ。と言うか、もう現すとかはないと思うがな?」
...?現すことは無い?まさかこの人斑目さんの現況を知っているのか。
黒澤 聖「あいつが居なければ、残りのカスじゃ儂なぞ止めれるやつおらん。その代わり、そうだな。ワレに質問する権利を与えてやる。どうせあるんやろ?」
斑目さんについてはそこまでだが、彼には愛の入院先や俺の就職先を斡旋し、帝都連合のいろはを教えてくれた人物だ。流石に彼の現況を知らないままとなると後味が悪い。後単純に、受けなくてもクビにされそうだし。
白神 恋「わかったよ。受けて立つ。単純に売れた総額でいいか?」
黒澤 聖「どっちでもええで。ただ、儂の"晴天屋"を舐めん方がええで...。」
不吉な顔を浮かべる黒澤。流石に汚い手口とか使わないよな?
北澤 神太「...すまんな。俺が報告したばかりに。」
白神 恋「いや別に。」
なにやら今晩に奇妙な勝負を仕掛けられたが、これがいい方向に進むか。俺の明日はどちらか。
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