第8話 狂乱の裏側

10月26日午後10時歌舞伎町紫竹園にて、白神恋は捜査資料を読んでいた。

白神 恋「使われた銃弾は7.62×25ミリ弾か...」

田沢 良「ミリオタの中ではメジャーらしいぞ。初速が速いから防弾チョッキも貫通するとか。知らんけど。ロシアとかで以前使用されたんだとか。」

白神 恋「俺が持っている黒星と同じだな。だが、少なくとも日本では製造されて無さそうだな。線上痕からは無理か。」

線上痕とは、銃から発射された時に銃弾に着く痕のことである。銃身には銃弾に回転を与えて真っ直ぐ進むようにする為の溝が掘られており、それによるものであるらしい。

白神 恋「10下旬でしかもお昼時、しかも強力な防音設備が施されており、同階に人は通っておらず、周囲に銃声を聞いたものはいなかったのか。現場が火災に遭う前、1万円札で散乱していたと仮定しているのか。総額約5億。何のための5億なのだろうか。」

飯野さんにしても犯人にしても、どちらにしても5億の意図が分からない。

白神 恋「そして監視カメラにはアタッシュケースを持って入ってきた飯野さんと、その後に5人組の男たち。それぞれ別々のアタッシュケースを持っており、男たちが出た両方とも持っていなかったようなのか。男たちは顔を隠し、その後の素性は分かっていないと。」

銃や散乱している1万円札はともかく、男たちについて何も分かっていないようでは何も出来ない。そのために、警官がいなくなったと考えられる現場を直接見に行くのだ。


田沢 良「今ホテル付近にドローン飛ばしてみたが、タワーの周りにパトカーや警官は見えないぞ。」

白神 恋「ああそうか。」

これから新歌舞伎町タワーに併設しているホテルskystarに侵入する。事件の概要につい昨日事件があったので警官がいると思ったが...。

白神 恋「タワー全体の業務は停止しているから、少なくとも警備はいないだろうな。」

慶も閉店間際のスタバに待機しているだろう。

田沢良「ところで、フェスの仕事を要請したのは確か斑目だったよな?」

白神 恋「そういやそうだな...」

田沢 良「あの人の事だからもしかして何か考えがあっての事だと思ったが、この事件についてもそうだったりするのかな?俺らに関わって欲しかったとか。」

白神 恋「本人に聞いてみない限り分からないな。」

しかしありえないことは無い。あの人は俺の過去を知っているはずだ。今回の事件とそれに76.2m弾が使用されることを予測出来れば、俺たちに"糸を引いている連中"に関わらせる事が出来たはず。その場合は1人の犠牲者を見殺しにしたことになるが。さて、そろそろ向かわなくては。


向かう途中、一番街の盛況ぶりを見た。夜を歩くのはこの歳になって珍しいことでは無いのだが、何気に一番街に行ったのは数回程度だった。そう言えば、好は代々木公園で楽しんでるかな...。そう思いながら、再びskystarを目指した。

新歌舞伎町タワー前のスタバに辿り着くと、乳頭 慶の姿があった。

白神 恋「遅れて済まない。警察に動きはあったか?」

乳頭 慶「いや、特に無かったっす。流石に中に長時間入ってるわけないだろうし、警官がいる可能性は排除していいだろう。」

白神 恋「そうか。」

この局面で中にいる人物と言えば、警察かまた犯人となるだろう。前者は少し面倒になるだろうが、後者だった場合その場ですぐにかち合うことになるだろう。俺たちはホテルのパンフレットから綿密な計画とルートを立てた。また、事前にドローンを回して貰ってる田沢によれば、少なくとも内部に人物は特に見当たら無いそうだ。

白神 恋「それじゃ、準備はいいか?」

乳頭 慶「ああ、いこう。」


closedの看板を提げる扉に向かう。この時間になっても人通りの多い道路だが、逆にこの時間にタワーに入っても怪しまれないとか無いだろうか。そうなることを信じて入場した。やはり中は暗い。skystarホテルは新歌舞伎町タワーの39階から47階を占める。俺たちの目的の部屋はそのうち45階にある。

乳頭 慶「階段で上がるのは大変そうだが、エレベーター作動して無さそうだしな...はぁ大変だなぁ。」


数十分後、何とか39階のskystarにまでたどり着いた。カウンターに上がって、無断で目的の部屋の鍵を拝借すると、また階段を上がった。

白神 恋「はぁ、後6階上がれば...」

そして41階に上がった所、何やら人音が聞こえてくるような気がした。同階のようだ。

白神 恋「妙だな。事件後ホテルにいた連中は皆退避させたはずなのに。」

乳頭 慶「どうするる面倒になりそうだが...」

白神 恋「いや、関わらないことにしよう。まずは現場をよく調べてからだ。そのために来たんだ。」

不審音を無視して階段を上がる。45回階までの間では不審な音は特に無かった。そして例の部屋に着いた。

白神 恋「燃えカスは綺麗に回収されたか...まあそうだろうな。確か札はこの机を囲むように散乱していたんだったな。」

椅子は机の両側に1つずつあり、そのうちの窓際の方に飯野さんは座っていたんだろう。そして何らかの理由で火災報知器まで移動して押し、その後に銃殺されたと見られている。

乳頭 慶「いまだに犯人の素性もわからないし、動機もわからない。何らかの取引が行われてたのかな?」

白神 恋「多分な。にしても散乱させた理由がわからないが。」

辺り一面を見渡してみても、手がかりになりそうなものは残っていなかった。恐らく取引の為にこの部屋を貸し切ったと思われるため、飯野さんの私物もないだろうし。

白神 恋「さすがに無かったか。それじゃ、連中にご対面願おうかな。」

乳頭 慶「連中って...さっきの輩にか?ええ怖い。」

白神 恋「安心しろ俺も怖いから。まず良に調べてもらってからにしよう。」


数分後

田沢良「いや、だめだな全く見えない。連中が出入りする様子もないし。」

白神 恋「そうか〜...わかった。ありがとう。」

乳頭 慶「にしても誰が潜んでるんのかな。ホームレスにしてももっと近い39階にするだろうし、39階には人気がなかったし。」

白神 恋「それは本人たちに聞いてみよう。」

そう言って、41階に向かう。相変わらず人音が聞こえてきた。

乳頭 慶「ラジオの音か?普通に生活してそうな雰囲気だな。」

白神 恋「ちょっと聞くだけだ。」

扉は開いているが、流石に無断で入るのは怖いので試しにノックして見る。すると、足音がこちらに向かってきた。

ホームレス「あ?なんだお前らは。」

白神 恋「失礼ながら、ここに住んでいる方でしょうか?」

ホームレス「ああ、無断だけどな。お二人さん?」

白神 恋「ああ。では、自宅をお持ちでしょうか?」

ホームレス「いや。」

白神 恋「ここの建物で事件が起きたことはご存知でしょうか?」

ホームレス「ああ。だから誰もいないんだろう?でもどんな事件かは知らないなぁ。」

白神 恋「他に誰かいますか?」

ホームレス「知らん。」

それじゃ、特に聞きたいことは無いな。

白神 恋「失礼。」

ホームレス「ちょっと待て。せっかくだし、もてなせてくれよ。」

白神 恋「え?じゃ、じゃあそうしてもらおうかな。」

冷静に考えて何故この時疑わなかったのか。ただどんな内装で生活しているのか興味持っただけなのだ。

ホームレス1「ふふふ、せっかく見つけた貴重なヤサなんだ。俺たちの存在を知って生きて返すわけには行かないなぁ。」

乳頭 慶「そら言わんこっちゃない!ああもうどうにでもなれ!」

白神 恋「そうやけになるな...何、5人程度なららくしょうだろう。」

ホームレス2「悪いな。俺らはそこら辺のホームレスと違うんだ。ここがお前らの墓場だ!もしそうなったら引っ越させて貰うがな!」


不意の戦闘になったが、何とか1人のホームレスの攻撃を受け流した。5人のホームレスが円になるように俺たち2人を囲んでいる。恐らく別の部屋に潜んでおり、何らかの媒介手段を用いてここに来たのだろう。

まず包囲を解かなければ。2人のホームレスが襲ってくる。

白神 恋「慶、行けるか。」

乳頭 慶「ああ、軽いな。」

そう言うと2人で攻撃を流しながら、後頭部に俺は指で、慶は拳骨を食らわした。2人のホームレスは機能停止。

ホームレス2「やるな。それじゃ、お前らも行け!」

再び2人のホームレスが突進してくる。流石に今のカウンターは通じないだろう。

白神 恋「慶、あいつがリーダーらしいぞ。行くか。」

乳頭 慶「ああ、望むところだ!」

2人で高く飛んだ。そして、ホームレスを超えてリーダーと思われるホームレスへ迫った。

ホームレス2「隙あり!」

すると、着地する直前の慶に攻撃を仕掛けてきた。

乳頭 慶「お互い様だ!」

しかし、慶は片足だか地面に付けると空を軸に回転。リーダーの攻撃を振り払った。そして

白神 恋「とどめだ!」

怯んでいるリーダーの腹に潜り込んで数回殴り込んだ。リーダーも機能停止。残ったホームレスは気づいたらいなくなっていた。


白神 恋「さて、相応の情報が無ければそのまま通報してしまおうかな?」

ホームレス2「ま、待て!わかった!俺は知っている!」

白神 恋「それは良かった。」

ホームレス2「俺は事件当時、傍にいたホームレスだ。建物内にいた者全員退避するのを見計らっていた。」

白神 恋「なるほど。犯人については?奴らの特徴は、黒スーツで5人だったという事だ。」

ホームレス2「断定は出来ないが、騒ぎの後に退店する者で黒スーツ5人組なんて見なかったから、恐らく群衆に紛れたんだろう。」

白神 恋「そうか。知ってることって、それだけか?」

ホームレス2「い、いやもちろんあるぞ!避難しようとした時、かなり衆人は荒れていた様子だった。まあ仕方ないと思うが、かなり避難に手こずっていたに違いない。その時間を使えば、恐らく変装する時間もあったはずだ。」

白神 恋「なるほど。もしかして店内を回れば、その手がかりが見つかる可能性があるのか?」

ホームレス2「わからない。ただ、やってみる価値はあるかもしれない。」

乳頭 慶「ふぅ、なんか面倒な話になったな。ていうか、このタワーに服飾店なんかあったか?」

白神 恋「いや、無かったな。しかし、探すしかないな。」

結局当ては何も無かったな。奴らが着ていた黒スーツは一体どこに...それとも、








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