オーバードーズ

第1章 潜入捜査

第6話 失われた声

（プロローグのあらすじ）

東経連合での仕事をこなしていった中神一行。不在の斑目の伝言によりハロウィンのフェスのボランティアをこなすと言う妙な命令が下されるも、その先でskystarでの銃殺事件に出くわす。この町で一体何が起こっているのか。あるいは起ころうとしているのか...。

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10月25日は陰鬱な雰囲気で始まった。飯野さんの葬式は後日日程を調整するとして、とてもハロウィーンのイベントを行える状況ではなかった。著名人だったこともあり、メディアでもすでに訃報が流れ、佐々木さんを初めとする関係者はマスコミの取材で手一杯であった。

すでに代々木公園にスタンバイしている俺たちには協力してやれることは何も無かった。

国立 慶「こんな状況で提案するのも不謹慎かもしれんが、今なら妹の見舞いに行ってやれるが知れないぞ？」

それは全く頭に入ってなかった。今できることは特にないし、仕方ない。

中神 恋「悪い。すぐに戻ってくる。...どうせだし好も来ないか？」

国分寺 好「...え！？いいの？私なんかが。」

すっかり落ち込んでいるようだ。直接会ったことは無いとはいえ、自分に関係のあるものが亡くなってしまったと考えると妥当な反応かもしれない。

中神 恋「ああ、前はNSやらでちょっとって思ったけど、今じゃ動きが鈍いからな。」

国分寺 好「じゃあ、お言葉に甘えて...」

国立 慶「こっちは俺たちが何とかする。急がなくてもいいぞ〜。」

中神 恋「ああ。...俺たち？」

？？？「あ、どうも。仁涯 海斗です。よろしくお願いします。」

中神 恋「ああ...あの。」

昨日トトカルチョで失敗したやつだっけ。なんでこいつなんだ。

仁涯 海斗「あ、恋さん昨日はかっこよかったです！あの武器を使った演武！また見せてください！」

二度とあんな目には会いたくないが...可愛げのある人だな。でも東経連合なら、もしかして俺より年上か？まあ気にしてもしようがないか。

中神 恋「よろしくな。...じゃあ出立するぞ。」

国分寺 好「うん。」

俺の妹、中神 愛は都内の警察病院にいる。まだ意識も復活していないが、健康状態は良好らしい。消毒液の匂いが漂う無機質な病室で、愛は静かな寝息を立てていた。

国分寺 好「愛ちゃん...随分痩せちゃったね。」

好は愛の手をそっと握り、悲しそうな表情を浮かべる。白い病衣に包まれた愛は、まるで眠れる森の美女のようだ。だが、その安らかな表情からは想像もできないような地獄を昨年は過ごしていたという。

中神 恋「最後に会ったのはいつだ？」

国分寺 好「えっと...確か東経連合に入る直前かな。その時はまだ元気だったのに...」

好の声が少し震えている。俺は小机に花束を添えながら、愛の好きな花を一輪ずつ確認していく。ガーベラと、スイートピーと、カスミソウと、そして最後に...。

国分寺 好「あ、ブルーローズ...愛ちゃんの大好物だよね。」

中神 恋「覚えていたのか。」

国分寺 好「うん。愛ちゃんったら『不可能を可能にする花なんだよ』って、よく自分に重ねてたから。」

俺は思わず笑みを漏らした。確かにあいつの口癖だった。

国分寺 好「でも、お見舞いに青い花って良くないって愛ちゃんが言ってたような...」

中神 恋「ああ。だからこそ、あいつなりの反骨精神というか...」

国分寺 好「ふふっ、そうだね。相変わらずの頑固さ。」

二人で愛の思い出話に花を咲かせていると、ふと好の表情が曇った。

国分寺 好「ねえ...私、もっと早く気付けばよかったな。愛ちゃんが苦しんでるって...」

中神 恋「...俺だって、兄貴なのに気付けなかった。自分を責めるな。」

病室の窓から差し込む午後の日差しが、愛の頬をそっと照らしている。いつかまた、あの意地っ張りな妹が目を覚まして、俺たちの前で持論を展開してくれる日が来ることを願いながら、俺は花瓶の水を替えた。

再び代々木公園に帰ると、そこには佐々木さんの姿があった。

佐々木 宗真「あ！中神さん。この度は本当に申し訳ございません...。」

中神 恋「あ、いえ別に構わないですよ..!寧ろ大変なのは佐々木さんでしょう。ご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます。」

カタコトの謙譲語で返した後、今イベントの存否について聞いた。

佐々木 宗真｢一応代理を立てれば、開催出来なくは無いでしょうが...こんな事件があったものですから。｣

中神 恋｢そうですか...｣

そりゃそうだ。代理を立てると言っても、それが殺害されたプロデューサーのものであるから、常人ならば忌避したがるだろう。

拝島 良｢少し時間を貰えるか？」

中神 恋｢ああ、なんだ？｣

拝島 良｢昨日の新歌舞伎町タワーでの事件だが...飯野さんの直接の死因は銃殺らしい。｣

中神 恋｢銃殺だと？｣

拝島 良｢証言によると、火災が起きたと予想する時刻よりも前に火災報知器が鳴らされていたらしい。もちろん手動でだ。強く叩いた形跡が残っている。｣

中神 恋｢何らかのトラブルがあったと見るべきか。｣

拝島 良｢また、未だに警察は犯人の足取りを掴めていないそうだ。部屋に入っていた黒スーツの男たちは何処へやら。｣

中神 恋｢今警察はって言ったよな？ということは...｣

拝島 良｢悪い。こっちもまだだ｣

中神 恋｢なんだよ。勿体ぶりやがって。｣

拝島 良｢仕方ないでしょ！大体こっちの情報源はホームレスなのに、あんなキラキラした場所行くわけないだろ。｣

それもそうかと嘆息するしか無かった。

中神 恋｢すまない。まあ、そっちはそっちで、頑張ってくれ。｣

拝島 良｢OK｣

新歌舞伎町タワーの事件...何か裏がありそうだな。