第176話

「フォテン。見苦しいぞ。お前は戦場でも見たことがない手で攻めてきた相手に同じことを言うつもりか」


「クラウスか。惨めな俺を笑いにきたのか」


「そんなつもりはないが相手が悪かった。諦めろ」


「それはどういうことだ」


「クロードには俺も勝てん」


「騎士団で鍛えているお前でも勝てないだと。何の冗談だ」


「魔物のボスクラスを単独で討伐できる化け物だ。戦略戦術も天才と呼ばれていたファールハイト兄様とやりあえる腕だぞ」


「嘘だろ・・・」


「クラウス兄様。それだと庇ってくれてるのか貶しているのかわかりませんよ」


「お前は可愛い弟だが事実を言っているだけだぞ」


「弟・・・。クラウスの弟だと」


「自己紹介がまだでしたね。クラウス兄様の弟のクロード・フォン・プロミネンスです」


「ついでに言えばクロードは国境の警備を担当する辺境伯でもある」


「辺境伯・・・。10歳の子供が辺境伯だと。この国は大丈夫なのか」


「実績だけを見れば辺境伯にこれ以上相応しい奴はいないだろうな」


「実績だと」


「子爵のときにシルフィード皇国の侵攻を自領の戦力だけでほぼ退けた」


「王都から大規模な戦力を送ったが被害がでずに大勝を勝ち取ったっていう話は聞いたが当事者なのか」


「個人でもかなり暴れたみたいだからな。相手からしたら災難だったというしかない」


「出来るだけ殺さないようにするのは大変でしたけどそのおかげで国交は改善されましたよ」


「戦場で殺さないようにするのは難しい。それをサラッとやるこいつの実力は本物だ」


「敵対しなければいいだけよ。クロードは出来ることをしているだけだわ」


「アイリス姉様」


「フォテン先輩。貴方が貴族主義なのは知っているけれど喧嘩を売る相手は考えたほうがいいですよ」


「ああ・・・。忠告ありがとう。少し遅かったようだが」


「とりあえずクロード。フォテン先輩を解放してあげたらどうかしら」


「そうですね」


クロードは拘束したままのアースバインドを解除する。




ミケンス伯爵家も上級貴族ではあるが侯爵家と辺境伯家を相手にするのは分が悪い。


今更ながら手を出してはいけない相手に手を出したのだと理解する。


「クロード。いや。クロード卿申し訳なかった」


「いえ。こういった手合いは慣れていますので」


10歳で辺境伯になったものの見た目で侮られることが多かったのだろう。


その言葉には達観した響きが混じっていた。


フォテンは去っていくプロミネンス家の面々を見送る。


集まっていた生徒達も散っていく。


化け物っているのだなと納得するしかないフォテンだった。

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