第29話

馬車の中でファールハイト兄様が話しかけてくる。


「本来ならゴブリンロードの討伐は騎士団を中心に討伐部隊を編制して挑むものだ。場合によっては王国に支援を要請することもある。単独でこれを成し遂げたのは凄いことだよ」


「ありがとうございます」


「問題はゴブリンロードの発生と討伐の報告を王国にしなければならないことだ」


「何か問題があるのですか?」


「まずボス級の魔物を討伐した場合、原則として魔石は王国が買い取ることになっている」


「貴重な錬金術の素材や魔道具に使うためですね」


「その認識で間違ってない。問題はどういった経緯で討伐されたかだ。今回はクロードが単独で討伐したということこそが問題になるんだよ」


「そんなに問題になるようなことなんですか?」


「下手にごまかしても少し調べればバレるような嘘はうまい手ではないね。父様の判断次第ではあるけれど王国には正直に報告することになると思う」


「皆で討伐したことにすればいいのでは?」


「学園での実績から僕らの実力は王国には把握されている。僕らでは討伐は不可能だと判断されるだろう。どうあがいてもイレギュラーな存在であるクロードの存在は把握されることになる」


「把握されるとどうなるのでしょうか?」


「魔物の討伐に戦争への戦力として王国は優秀な人材を求めている。クロードの力は簡単に戦術をひっくり返すだけの効果がある。王国としては何としても取り込みたいと考えて何かしらアクションを起こす可能性が高い」


「魔物の討伐はともかく戦争にはできれば参加したくないですね」


「王国の上層部は現状維持を旨としているから他国から仕掛けられない限りは大丈夫だと思うよ」


「兄様の予想ではどうなると考えていますか?」


「有力貴族との婚姻の可能性もあるけど一番無難なのは爵位を授けられることかな」


「結婚とかまだよくわからないですね。爵位を受けると何かデメリットはあるのでしょうか?」


「今のままだとクロードは成人をしたら家を出て準貴族としての扱いになるけれど爵位を授けられれば貴族のままだ。貴族当主となれば何かしらの仕事を任されることになると思うけど年齢のことを考えれば重要な仕事は割り振られないと思うよ」


「父様の仕事量を考えると当主にはできればなりたくないです」


「侯爵は上級貴族だし父様は民の声をなるべく聞きたいということで、中間の人をかなり減らしているからね。僕の本音は自由な道を歩んで欲しいという気持ちと領主としては強力な手札として手元に残しておきたかったってところだね」


「仮に爵位を授けられても僕がプロミネンス家の一員なのはかわらないですよ。何か困ったことがあったら力になります」


「そう言ってくれると助かるよ」

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