第28話

ファールハイトは大部屋に足を踏み入れたことを後悔していた。


討伐部隊の編制の為には情報が少しでも必要だったが違和感を覚えた時点で撤退するのが正解だったのだろう。


即時撤退を決めたが主であるゴブリンロードを守ろうとするかの退路はどこかから現れたゴブリンで埋め尽くされていた。


どうするべきか考えを巡らせるが解決策は思い浮かばない。


「兄様。前方は何とかしますので後方を守ってください」


止める間もなく末弟のクロードが前方に出ていく。


クロードが上級魔法のインフェルノで部屋中のゴブリンを片付けていくのを確認して後方に意識を集中させる。


後方ではクラウスが体を張って大部屋へのゴブリンの侵入を防いでいた。


今は何か考えのあるらしいクロードを信じ邪魔させないことに専念すべきと判断してクラウスのカバーに入る。


幸いなのは他のゴブリンが邪魔をして遠距離攻撃のできるゴブリンメイジやゴブリンアーチャーの射線が塞がっていることだ。




どれくらい戦っていただろうか。


多くのゴブリンを討伐したのは間違いないが致命傷は避けているとはいえ体中傷だらけだ。


アリシアとアイリスの残り魔力量も気にかかる。


もうひと踏ん張りしようと身構えたが突然ゴブリン達が蜘蛛の子を散らすように引いていく。


クロードの方を確認しようと大部屋の方を見ると巨体を誇ったゴブリンロードの姿はなくクロードだけが立っていた。


クロードはドロップ品を回収するとすぐにこちらにかけてくる。


「兄様達大丈夫ですか。エリアヒール」


クロードのかけてくれた回復魔法で傷が瞬時に治っていく。


「何か策があるんだろうとは思っていたけれど単独でゴブリンロードを討伐してしまうとはね」


「兄様達が通路のゴブリンを食い止めてくれたからですよ」


「危機は去ったけど余力もあまりないし戦果物を回収したら撤収しよう」


ゴブリンが落とした魔石や質の悪い武器などをみんなで手分けして回収する。


「僕に考えがあります。兄様。姉様。僕につかまってください」


何をするのかはわからなかったが言われたとおりにクロードにふれる。


視界がぼやけたと思ったら景色が変わっていた。


周囲を見渡すとダンジョンの入り口だと気づく。


「これはもしかして転移魔法かい?」


「ネツァルさんに散々練習させられたんですよ」


「色々言いたいことはあるけど帰ろうか」


皆で待機させていた馬車に乗り込み家路につく。


疲れていたのだろう。


アリシアとアイリスはもちろんのことクラウスも馬車に揺られながら眠っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る