第7話 一段落
「……で、どういう世界なのかね、ここは」
カルネラは聞きたかった疑問をメテットにぶつける。
「そういえばハナしていなかった。しかし、オオムねアナタのヨソウとオナじだとオモう」
「魔物の、魔物しかいない世界。だが、そんなことがあり得るのか? 魔物となれるのは稀だ。実際、私もこの星にくるまでは仲間以外で、魔物とは数えるほどしか遭遇したことがない」
「様々な星と交流していたのにも関わらず、だ」
カルネラの言葉にラナの耳がピクリと動く。
(他の星と交流……! 人間ってすごい。そんなことができるなんて!)
(ワクワクしてるね。ラナ。わたしも楽しくなってきた)
「それに、ここの魔物は……人間を知らない様子だ。私にはそれが解せない。その星の、人間といえる知的生命体が転生して魔物となる。元は普通の人間だったのだから、人間がわからないというのは……」
「人間? それなら私知ってるわよ?」
「フォッ!? 君は……!」
「シズルよ。そういえば言ってなかったわね名前。……それにしても驚きすぎじゃない?」
(なんというっ……さっきまで恐ろしい姿だったやつがまさかの……いや、確かにそういう方が魔物っぽいがね!?)
「シズルはこのホシでメズラしい、モトニンゲンのマモノなのです。カルネラ」
「元人間の魔物が誰よりも魔物してるのはどういうことかね?」
「私今失礼なこと言われたわね? メテット、こいつの首絞めていいかしら?」
「ヒィッこういうとこだよこういうとこォ!」
最初の邂逅がアレだったためか、カルネラはシズルのことが苦手なようで軽く悲鳴をあげる。
「オちツいてくれシズル。カルネラも、あまりシツレイなことをイわないで。アナタタチはすでにイチド、カノジョタチにタスけられているのだから」
「助けられて……」
(最初に……あの忌まわしいイモムシめに追われていた時か。思えばメテット君が初めて会った時釘がイモムシの内側から飛びでた時があった。あれは彼女の助けか)
(……いやそれでも優に感謝より恐怖が勝るのだが……)
カルネラにメテットが小声で囁く。
「それに、シズルはワルグチとかやられたこととかいつまでもオボえてます。なのでコトバはキをつけるべきだ」
「このタイミングでそれ言うかね?」
カルネラは驚いたがそれを顔には決して出さず、話を元に戻した。
「まぁ、その……一応元人間の魔物もいるわけだな。決して数は多くないようだが……」
「そうね。今のところ2体しか見たことないわ。ラナとメテットと私とでいろんなところ行ってるんだけど……」
「たった2体!? 本当に何があったのだねこの世界!?」
「まぁささやかなことよ。それよりも、貴方人間と言っても、私の知ってる人間とはいろいろ違うのね。やっぱり環境が変わってくるからかしら」
そう言ってシズルはカルネラの両目の下にある線に注目する。
「ささやかなこと!?」
「……ささやかなことですましていいことではまったくないぞ、シズル。カンキョウが違うのもあるがカルネラはカラダをカイゾウしている。だからチガってくるのはアたりマエだ」
「改造! 痛くなかったんですか?」
改造というワードに反応したのはラナだった。心なしかその片目はキラキラとではなくメラメラしているように見える。
「あ、ああ。麻酔とかしてたからね……どんな環境でも体がうまく適応できるようになっている。限度はあるがね……」
「すごい! じゃああの水晶みたいなのもそういう技術によるものですか?」
「水晶……ハッ、キューブ!! 一緒に落ちてきていたあのキューブはどこに!?」
「キューブ? ならこっちにあるぜ」
そう言ってキューブのある方向を指差したグラヴ。その方向を見てみると、グラヴの手下達がキューブを囲んでおり、そのうちの一体が近づいていた。
「おお! ……ん? あれは何をしようとしているのかね?」
「中に何か入ってるからな。丁度削れるやつがいるから削って出してやろうと」
「掘削してやる……!」
「金属光沢のある手がギュルギュル回転しているんだがね!? 待ってくれ! 親切なのはありがたいが壊そうとするな!」
必死に説得して、なんとかキューブの破壊をやめさせる。
「それは中にいる者の怪我を治す救命キューブだ!
今は動いていないが中に重傷者が入っている。壊さないでくれたまえ!」
「うーん、ダメか。というか重傷者って大丈夫なのか?」
「その中にいる限りは大丈夫な筈だ。フゥ、まったく話が進まん。結局のところ、この星に人間はいないと、そういうことなのかね?」
「そう。このホシにニンゲンはいない。オオムカシにオこったあるゲンショウが、このホシのイきモノスベてマモノにカえてしまった」
「……ある現象? それは?」
「————“黄金の夜明け”」
「……シズル君?」
「現象の名前よ。世界がいきなり真っ暗になって、そこからゆっくりと黄金の光が輝いたの」
シズルは遠い目をしながら黄金の夜明けの様子を語った。
「あの瞬間は、よく覚えてるわ。目が潰れそうなくらい眩しくて綺麗だった。で、その光が消えたと思ったら私はこうなってた」
「シズル……」
「……つまり、それで全人類が魔物に変わったと。……やばくないかねソレ。人間を問答無用で魔物に変える光とか……」
(世界を壊す爆弾のスイッチを全人類に配ったようなものだ。……酷いことになったのだろうな)
「それから、このホシはマモノだけのセカイとなり、セダイがコウタイしたいって、いつしかニンゲンをシるマモノがほとんどいなくなった」
「魔物が、世代交代……ふふ、さすがにもう驚かんよ。ここはいろいろ違いすぎる」
「普通はしないものなんですか? 世代交代」
「魔物は出来ないと思っていたよ。ここの魔物が特別なのかもしれないが……」
(もし生きてまた会えたなら、彼に聞いてみるかね。……生きて、か)
そう考えながらカルネラは腰をあげる。
「何はともあれ、ひとまずは呑み込もう。ここは油断ならない世界だと」
「呑み込めるんですか。さすが、すごい適応力ですね」
「いや環境に適応というのはそういうことじゃないがね。まぁでも、ここで立ち止まっていても仕方がないからな。とりあえず動いてみるさ」
「いい考え方ね。それで、これからどうするの?」
「とりあえずキューブの中の人間を助けないとな。メテット君。治療が出来る場所とか知らないかね?」
「ある。バショがワかりやすくて、あっちからセッショクしてきそうなやつが……ショウジキ、カノジョにはアいたくない」
そう言ってメテットは嫌そうな顔をする。
「彼女? ……え、もしかしてあいつ? あのカラスの……」
「えっ!? そうなんですか!?」
「ラナ、震えてる。大丈夫?」
メテットの顔を見てシズルとラナも露骨に動揺する。ラナに至っては思わずカルミアが心配するほど震えていた。
「え、何者? そんなおっかない魔物なのかねそいつ!? 会いたくないんだが!?」
「おっかないというよりすさまじい。いろんなイミで。だけどマチガいなくカノジョならタスかられるマホウをモってる」
「持ってる? いったい……」
「そのマモノのナはミステリカ。シズルとオナじモトニンゲンのマモノで、ムカシは“マジョ”とヨばれたモノだ」
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