第6話 魔物の星

「ま、待ちたまえ! 一回話し合ってみないかね!?」


(魔物同士の争いになんて巻き込まれたくもない!)


「……あなたは?」


「わ、私はカルネラという! さっきチラリと聞こえていたがラナ君? でいいのかな!?」


「……ええ。合っていますが……話し合うとは? ワタシは対話の必要性を感じませんが——」


「要る! 要るとも! 特にこの場では! 何事もまず話そうとしなければ、戦うしかなくなるだろう!!」


「戦うしかなくてもいいんだけど……」


 グラヴが横からボソリと言った言葉にカルネラは否定する。


「よくない! よくないとも! 戦うだけであるならば言葉は必要ない! 魔物君達に言葉があるのは何の為だ!? 話すのは何の為だね!」


「星を……?」


「超えて、だと?」


「とにかく話してみたまえ! ラナ君。私はグラヴの話を聞いただけだが、どどうも原因は君達にあるような気がするぞぉ!」


(ヒィ〜〜! 今頃になって怖くなってきおった! 確かに万能な言語を持つのが魔物だが、それでも理解できんのが魔物だ! 彼女の頭の中で私、抹殺対象となってはいないか!?)


 カルネラの膝が震え出す。ついでで襲われるならまだいいが、最優先で狙われることがあったらまず生き残れない。


(……原因がこちらにある? 非がこちらにあるということ? そもそも、あの人の言葉は信用できるものなの?)


「ラ……ラナ。そのヒトのイうトオりなんだ……」


「え? メテット、どういうことです?」


 メテットからのまさかの発言に目を丸くするラナ。メテットはそのまま、ラナが攫われた時、シズルが無我夢中で走り続けたこと、その際に気づかず何体か轢いてしまったこと、ラナの目の前にいるグラヴが、その時轢かれた魔物の一人であることを説明した。


「……ほんとのことです?」


「ジジツだ……」


 か確認したあとラナはスーッと地面へと降り立ち、


「この度は多大なるご迷惑をおかけしてしまい誠に申し訳ありませんでした」


「丁寧な土下座だ!」


————


「まぁうん。お前は許したよ」


「優しすぎませんか?」


「謝罪をされた。反省もされた。だったらこっちは手を差し出さないといつまで経っても平行線だろ?」


「善性の化身かね?」


「まぁシズルに関しては殴らせろよ? こいつらもボコボコにしたがってるから。なぁみんな?」


「ボス。俺ら殴るより殴られたいです」


「なんでお前ら集めたかわかってんの? なぁ?」


 シズルという名を聞いた瞬間、ラナの表情が少し曇る。


「シズルですか……彼女なら話せば必ず抵抗はしない筈です。ですけど、今は……あれから結構、


「質量? え、何? 体重の話かね?」


「まぁ見ればわかります。そろそろ来ますから」


 ラナがそういった直後、


「ああああああぁ……ラぁ―—ナぁ――!」


 おどろおどろしい声が妖精の森の中をこだまする。その声を聞きカルネラは言いようもない不安に襲われる。

 カルネラの本能が逃げろと告げている。これから出会うであろうその存在は、あの宇宙船を追ってきたあの恐怖の芋虫と同等の恐ろしい怪物であることを。


「――何かね? 今から、何が来るというのかね……!?」


「何ってあなたは一度あの乗り物の中で見たことがあるのでは? ワタシが担いでいたシズル――魔物がいたでしょう?」


「あの時担いでいた……!? あの黒髪の女性型の――」



「ラァァアアアナァぁあああああ!!!」



 木をなぎ倒しつつその怪物シズルはやってきた。氷山の時よりも大分縮んだが、それでも見上げるほど大きく、全身から釘が噴き出し、巨大なウニのような姿となっている。かろうじて右腕と頭が元の状態で釘に突き刺さっており、その頭からこの世のものとは思えぬ絶叫を繰り返していた。


「……カハッ」


 そしてその絶叫は、カルネラの意識を刈り取るのに十分すぎる恐怖を与えたのだった。


「キョウフのあまりシッシンを!? というかシズルにナニがあったんだ!?」


「そうだぜ。なんでこんなに太って――」


「あああああ!」


「オボッフ!!?」


「あっボスが潰された! いいなぁ!」


「話し方がおかしくなっていますが意識ははっきりしているらしいので。失礼なこと言うとこうなりますよ」


「そうか! よーーし!」


「悪口試す前にボスを救えやてめぇらぁ!!!」



――――

「――ハ!?」


「カルネラ。ヨかった。メをサましたのですね」


 カルネラの意識が戻り、目を開くと地面にめり込んでいたはずのメテットと目が合った。どうやら、魔法を解除してもらったらしい。


「メテット君……あの恐ろしい化物は……」


「化物なんて失礼ね?」


「ひぃ!!?」


 カルネラが恐怖の声を上げながら、飛び上がる。

 しかし、声のした方を見ても釘の化物は見当たらず、代わりにグラウの手下たちにボコボコにされているシズルがいた。

 しかし、はた目から見てもわかるノーダメージっぷりで、まるで堪えた様子はない。


「ダメだボス! 殴っている拳が痛くて気持ちよくなってきやがった!」


「たまらないぞボス!」


「なぁお前ら最初に襲った時に一緒にいたあいつからなんかもらったん? ドMパンデミックとか起こしてんの?」


 グラウが顔を引きつらせながらシズルが殴られている様子を眺めていた。


「……その、こちらが言うのもなんですけど。グラウさん、これで復讐達成ってことでいいんですか? シズルまったく効いてない感じなんですけど」


「いや、痛いわよちゃんと。流石に全方位から殴られてるんだもの」


「正直に言え。痛いってどれくらいだ?」


「…………肩たたきされてる感じ」


「マッサージじゃねぇか! クソッでも確かに何も言わずに殴られているしなぁ。じゃぁこの一発で……!」


 そう言ってグラウは鋭い牙を出してシズルに向かって突っ込んだ。


「!」


 それをシズルは腕で受け止める。腕の一部がえぐれ、ザラザラと小さな釘が傷口から漏れる。


「よし。これで気は済んだ」


「……いいのね? これで」


「ああ、これで終いだ。お前らもやめとけ。これ以上やろうもんなら釘が飛んでくるぜ」


 それを聞いてうずうずし始める手下たち。どうも逆効果らしい。

 一部始終を見ていたカルネラは顔色を悪くしながらもメテットに問いかける。


「この惑星ではこれが普通なのかね? 先程まで言葉も通じなかった化物が黒髪の女性に変わっていたり、平然と体の一部がとんだりすることが?」


「ザンネンながらこれはまだまだジョのクチ。ここではありとあらゆるジョウシキがクツガえる」


「なんたってマモノのワクセイなのですから」


「……とんだところに墜落してしまったものだよ。まったく」


 カルネラはげんなりしながらため息をついた。

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