第5話 カルネラ不時着

「くっ! いきなり底が抜けて大空に放り出された時は死を覚悟し、救いの手が差し伸べられた時は生を実感したというのに!」 


 地面にめり込んでいるメテットと一つの救命キューブを背に、カルネラが膝をガクガク震わせながらも目の前の敵に立ち向かっていた。


「着地した先で襲われて動けるのは私一人、そして囲まれているという命の危機! こんな希望と絶望のジェットコースターは願い下げなのだがね!?」


(くそう、まさか原住民ならぬ原住魔物に襲われようとは! どうやってこの窮地から脱しようか!)


「災難だなテメェも。だがそいつに関わったのが運の尽きだ。なぁメテット! また会えて嬉しいぜ」


「おマエ……は……! シズルにヒかれたレンチュウのナカにいた……まだマンゾクしてなかったのか!」


「おいその誤解はやめろ。報復を建前にしてやられることを目的にしてたのあいつだけだからな!?」


 襲撃してきた魔物は全力で否定する。


「俺たちは普通にシズルボコしにきたんだよ! あんなマゾヒストはいねぇ! なぁみんな! ……何体か顔逸らしてんな!? 嘘だろお前ら!?」


(ふざけた状況だが……冷や汗がとまらん。以前状況は最悪、寿命が縮みっぱなしだまったく!)


 カルネラはそう思いつつ、ついさっきまで会話していた牙を剥き出しにしている魔物に対話を試みる。


「ま、待て! 我々は争うつまりはない! 一旦そのおっかない牙をしまってはくれないかね!?」


「お前にはなくともこっちにはあるんだよ。お前らを餌に……ん? そういやお前には用はねぇな? メテットさえいりゃいいじゃねぇか」


「おや? これはまさかの助かるルートに入ったのかな? メテット君を置いていけば助かるみたいな。そ、そんな感じなのかね? いやそんなことはやるつもり全くないのだが!」


「んー? 別にメテットもう動かねぇしお前がいいならここにいたら? 多分お前でも動かせないほど。なんならシズルとかが来るまでおしゃべりしようぜ?」


「意外と友好的だな!? ……とはいえ置いていくなどあってはならんし……」


(それに『重くなってる』……つまりメテット君にかけられているのは『重力を変える魔法』というところか……)


「ううむ、とどまるしかないか」


「よっし、じゃあ腰を据えて話そうぜ!」


 そう言いながら蜘蛛のような鋭い牙を持つ6本腕の魔物は横たわっているメテットの上に座った。


「グェッ」


「メテット君! も、もうちょっと丁重に扱っては!? 人質なのだろう!?」


「気にする必要ねーだろ。それより俺グラヴっつーんだ。お前は?」


「ええっ! カ、カルネラだが……」


「カルネラか。いいな。実は俺すでにちょっと気に入っててさ。なんか足りない要素を補ってくれるような、そんな予感を感じてるんだよ」


「ど、どういうことなのかね……その、やはり、メテット君から退いてあげてはくれまいか? 私にとって彼女は命の恩人なのだよ……駄目かね?」


「えー?……ま、逃げれないし、いいか」


 こうして、奇妙な空気の中、異星間交流が始まった。


「別の星から来た? どうりでお前、初めて見る姿をしているわけだ。どんな魔法を出せるんだカルネラは?」


「魔法なんて……私はそんなもの生みだせないよ……」


「え? じゃあお前、魔法を出せない魔物なのか!? 初めて見たぜ。星が違うとそうなるもんなのか?」


「何を言って……そもそも私は そも、魔物というのは“魔法を生み出せる物”という意味だ。それなのに魔法を出せない魔物というのはおかしくないかね?」


「……ん? 魔物じゃない……? じゃあ、なんなんだ?」


「何って……私は君達で言うところの宇宙人……別の星での人間だ。君も元は人間だったんだろう? 知性ある生物が死の間際に起こる“転生”と呼ばれる現象によって生まれ変わった、魔法を生み出す物体……それが魔物君達なのだから」


「??? 人間??」





「は?」


 カルネラはグラヴからの信じられない疑問に思わず固まってしまう。


(人間を、知らない……? そんなはずはない。魔物となるには知性が必要となる。つまり魔物がいるのなら知性を持った生命体……人間がいる筈なのだ。何らかの要因で人間が滅んだとしても、魔物が人間のことをまったく知らないなんてことはない。その魔物自身が、元は人間だったのだから)


 カルネラは眉間にしわを寄せて考え込む。


「んん? おい、カルネラー?」


「だが、……知らない、人間を……ん? 待て」


 グラヴをほったらかしてブツブツと呟いていたカルネラはあることに気が付き、顔を青ざめた。


「ひょっとしてこの星には人間がいない……? い、いやそれだけならまだいい。もしやこの星は……なのか……?」


「おサッしのトオりです。カルネラ」


 グラヴの配下にじっと見られつつ、めり込みながらもメテットが会話に参加する。


「メテット君!?」


「あ、なんだよメテット、寂しくなったか?」


「サビしくなってない。だがこのハナシはカルネラにとってコンゴをサユウするほどのものだ。だからワりコませてもらった」


「へぇ、そんなに。じゃあ話してやれ。カルネラ、不安そうにしてるし」


「……その、ホントにいいヤツだな? あのトキはごめんな?」


「謝罪するくらいなら、初めのときからそうしろよ! あの釘めちゃめちゃ痛かったんだぞ!」


「うん。あれはアヤマってすむものじゃないけど、ごめん」


「あ、あの、メテット君。悪いが話を続けてはくれないかね!? お察しの通りって!? まさか私のさっき呟いた戯言が正解だったりするのかね!?」


「モウしワケない。では――」


 そうして、メテットが説明をしようとした瞬間であった。



「探しましたよ。メテット」



「! 上!?」


 グラヴ達は一斉に空を見上げる。

 声のした方向に炎の翼で浮かんでいるラナがいた。


「あなたたちは見覚えがあります。欲望のままに夜襲を仕掛けてきたあの魔物たちですよね?」


「ラナ……! 来たか!」


「メテットに手を出すとは馬鹿な真似を。より苦しむだけですよ? 当然の話ですがワタシはワタシとワタシの大切なものを傷つけようとする輩には容赦はしないんです」


「こっちのセリフだ見当違い。メテットこいつは人質じゃなくお前らをおびき寄せる餌さ。……お前にもひどい目に合わされたからな。一発いいのくらわせにゃきがすまねぇ。覚悟しろよ?」


 チリチリと燃えるラナ、鋭い牙をむき出しにするグラヴと構え始める配下達。


 先ほどまでの和やかさは消え去り、すぐにでも戦闘が始まる空気に変わってしまった。



「あれこれ結構今大事な話を聞きそびれた上に、私では到底太刀打ちできない危険な状態フェーズに入ってないかね!?」



 そんな中カルネラは、またも自分の命の危機であることを悟った。



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