第8話 初めて見るもの

が動くなんざ久しぶりだな。ミステリカ」


「そうでもないサ。割とあいつは動いてル。お前が気づいてないだけだヨ」


 黒く巨大な烏のような魔物が空を飛んでいる。その魔物の名はミステリカ。魔法により肉体と精神を分離した魔物である。分離された肉体を操って、ミステリカはこの星最強の魔物であるダイコクを連れて、あるモノを追っていた。


「そうかぁ? にしても……お前頭鳥の頭じゃなかったか? あんまりころころ自分の形を変えると自分を見失うぞ? また堕転したら、今度こそ……」


「大丈夫サ。この姿になる際に十分気をつけたとモ。それより大事なのは目の前の初めて見るものダ!」


「あれな……いわゆる宇宙人ってやつだろ? 気になるよな。すげぇ逃げられてるけど」


「まったく、なんだってあんなに逃げるのカ。地味に早くて追いつけないし、困ってしまうヨ」


「いや、まぁ……トラウマなんだろ。追ってるのが俺とお前だからな」


「失敬だナ! ……ん? 俺とお前? ダイコク、何かしたのカ?」


「目の前の空飛ぶ島に覚えがある。地上の半分くらい空島にしたやつがいただろ?」


 ダイコクが話した内容にミステリカは興奮しながら答える。


「アア! 覚えてル!! あれは実に興味深かっタ! 全部空島にすればよかったものを、途中でいきなり全部戻したんダ。あれはちょっぴり残念だっタ」


「ああ、あれ戻させたの俺だ。あいつ本拠地の半分空島にしやがって作物と建物、彫像を駄目にしやがったんだよ」


「ハ?」


「像が壊れたのがショックで仲間がわんわん泣いたんで、ちょっとケジメをな? 多分それで俺避けられてるんだよ」


「何をしとるんだお前ハ! この体戦闘自信ないからわざわざ呼んだのにこれでは逆効果じゃないカ」


 プンプン怒るミステリカに怪訝な顔をするダイコク。なぜなら、あの空島はかなり遠いところから逃走を開始していた。少なくとも、ダイコクは遠すぎて見えない程の距離だ。

 今はダイコクも認識されているだろうが、間違いなく空島の主はミステリカの分離した肉体を見て逃走を始めたのだ。


「いや……こういうときお前がやらかしてないとかありえないだろ。覚えてるって言ったよな? お前が記憶してる程興味をそそられたやつにお前が何もしてないなんてことはないはずだ」


「したがお前と違ってトラウマなんて植え付けてないゾ? 心を変えたりとかしてないしせいぜい3分の1もらって……」


「おい3分の1ってなんだ。まさか奪ったのか? 31


「ウン」


「……お前……そうゆうとこだぞ」


 やっぱりやらかしてたミステリカに呆れながら逃げてる空島を見る。すると、ダイコクから見て空島の右の空間に黒いモヤが集まっているのに気がついた。


「あ? ありゃなんだ?」


—————

「なんで——なんでなんでなんであいつらが来てるんだよぉぉぉおおおああ!!」


 クラウンが絶叫しながら空島の今出せる最速で逃げていた。

 尋常ならざる様子のクラウンにアイリスが問いかける。


「クラウン!? 確かに後ろのやつおっかない姿だけどどうしたの!? そんなにやばいやつなの追ってきてるやつ?!」


「この世界で会ってはならない魔物の代表2体だ! 捕まったら恐らく我々の自由を求める権利とかが消失する!」


「それは大変なんてもんじゃないわね。逃げ入れたと思ったらまた追いかけっことはね」


「非常に冷静だなビスカとやら!? ……手をぎゅっと握ってはくれないか!?」


「クラウンさん不安のあまりかわいいこと口走ってる! でもわかるよ! こういう時の艦長の安心感はすごいんだ!」


 クラウン、ビスカ、アイリスが話しているのをよそに、ノウンとジルドは遠距離攻撃を警戒していた。


「遠距離はなさそうか? にしてもあの巨体、どう戦うべきか」


「船が壊されているからね。クラウン氏もああいうでかいのと戦う術は持ってはいなさそうだ」


「追いつかれたらまずいが……差は縮まっていない。逃げ切れそうではあるな」


「そうだね。まぁ警戒は——」


 ジルドの方を振り向いたノウンはその目の端でそれを捉えてしまった。


「――馬鹿な」


「ノウン? いったい何を——」


 すぐに空島の上にいた意識がある者たちと空島を追っていたダイコクとミステリカは気づくことになる。今この場にいてはならない、ここに来た時に確かに跡形もなく消滅したはずの存在。


「おい噓だろ……」


『――――!!!!!』



――全てを破滅させる意思より湧き出した漆黒の芋虫が空島に食らいつかんと襲い掛かる。


「なんじゃこいつッ――」


「――避けて!!!」


 避けられない。それはまさしく理不尽の化身だった。

 空島の上にいる誰もがその破滅に抗う術を持たない。当然、すぐ横に顕れたので逃げられない。このまま彼らはなすすべもなく破滅の運命をたどるだろう。


 最もそれは後ろからさらなる理不尽が襲い掛からない限りの話だが。



「いけェェ!!!!!」


「イィィィイヤッッッハ――――――!!!」


「「「「「!!?」」」」」


 空島の上でその光景を見ていた者たちは、なんなら芋虫までもがその瞬間に驚愕しただろう。


 これ以上ない理不尽にそれ以上の理不尽を。

 ミステリカは分離した自身の肉体に速度を変える魔法薬を投与し、



「はーーーー!!!?」


 その様子を見てアイリスは訳も分からず咆哮した。まさしくその声は空島に乗って芋虫とカラスの化物が衝突した瞬間をみた者たちの総意だった。


「ゲェッ!? あいつらこんな早く動けたのか!? というかなぜあのバケモンに!?」


 クラウンは芋虫が来なかったらカクジツに捕まっていたことへの戦慄と芋虫の方に向かっていった疑問が同時に来る。


 だがすぐに思考よりも行動を優先させるべきと判断した。


「逃げるぞぉ! バケモンとバケモンがやり合ってる間に!」


 空島はすぐにその場から離脱する。離脱している最中、


「……まさか、あのクソ芋虫が時間稼ぎとして利用されるなんてな」


 ジルドはポツリと呟いて


「ああ、本当にすごい星に降り立ってしまったものだよ」


 ノウンはそれに同調した。



――――


「行っちまったな」


 そういうダイコクの口は笑っている。


「へへへ……いいのサ。そんなことよりモ――」


 ミステリカは笑い声すら漏らしている。ダイコクもミステリカも、目の前のものにワクワクしている。

 勿論助けるために突っ込んだ。だがそれは建前に過ぎず、ミステリカもダイコクもほとんど衝動的に突っ込んでいた。


「大事なのは初めて見るものサ!!」


「違いねぇ!! ぜったい、こっちの方が面白れぇだろうさ!!」



 この星ではまれによくある、怪獣大決戦が始まった。

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