第2話 タイタン①

《視覚情報を読み込み》


《ルーム 市街地 プライベートマッチ》


《状態:観戦》


 半球体で覆われた空間は、荒廃した都市を内包していた。砂埃と黒煙が廃ビルを避けながら立ちこめている。


『あー、あー、聞こえているかいアッシュくん。

 ここは我々が所有する模擬戦場なんだけど、いかがかな。実際のランク戦で使用される6つのステージのひとつを模しているわけだけど、いわゆる廃ゲーマーの君から見て映る?』


 アッシュと名乗るその青年は、ステージの中心部に聳える、旧時代の金融タワーの屋上からこれから自らが赴くであろう戦場を視察する。


 西側には海岸線にビーチと商業施設らしき建物が、東にはビル群が見える。

 南北に伸びる幹線道路はいくつかのジャクションを備えながらも、基本的には一本道で、彼の立つこのタワーの下を貫通している。

 タワーの周りにはスタジアムやサーキットがあるが、それらも含めて多くの建造物が半壊している。

 

『こんなに広いのは予想外です。

 そういえばヤマダさんはどこに?』


 彼の視界の隅にあるマップで、菱形の青いマークが急接近しているのが見えた。


『吹き飛ばされないように気をつけて』


 ノイズ混じりのヤマダの声が聞こえた直後、上空から落ちてきたその巨大な塊によって、アッシュの周囲に陰がおちる。

 そしてタワーの屋上にはとてつもない衝撃が走り、アッシュは壁に寄りかかりながらしゃがみ込んで難を逃れた。周囲はその落下で瓦礫から発された煙に包まれる。


『──これがタイタン』


 巨大な塊の排熱によって、煙は霧散し、アッシュはそれを見上げる。鈍く輝く鋼の兵士。このゲームでは『タイタン』と呼ばれる巨大な人型兵器がここに降り立ったのだ。


「もちろんタイタンではあるけれど、それぞれの機体にはコードと愛称もあってね。

 この子は《EX13-v》通称は【野牛バイソン】、頼れるフロントタンクのタイタンさ」


 その名の通り鈍重な見た目の、重機のような出立ちのそれは、過剰にも思える装甲に覆われている。そしてその『タイタン』の胸部のハッチからヤマダが現れた。


「よくそのまま足場を貫いて下まで落ちていきませんでしたね。いったい何百トンあるのか」


「そこはまあ、ゲームだからね。実際に現実世界でこんな馬鹿デカいロボットがいたら、きっと2つの足だけでは自重さえ支えられないだろうから。

 だからこそのロマンもあるさ」


 主人が降りた後のタイタンは、エンジンとは異なる控えめな駆動音をたてて片膝をつくような体勢をとる。


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