第10話、ダブルデート②
「美少女二人が並んで歩く光景。目に優しいね、晴」
「何だよ、それ。確かにまあ……二人共、綺麗だけど」
俺達は今、駅前の大通りを歩いている。
目的地は秋也オススメのお洒落な喫茶店で、まずはそこでランチを楽しむ予定だ。
ユキと千夏は二人で少し前を歩き、俺は秋也と並んでその背中を見守っている。
前を行く二人は楽しげに話をしていて、時折互いに顔を見合わせながら笑っている。
清楚可憐な美少女であるユキと、元気いっぱいの美少女である千夏。
容姿端麗な二人の少女が仲睦まじく笑い合っている光景は何とも絵になるものだった。
「良かった。ユキ、意外と緊張してないみたいだ。ここに来る前はすごく心配してたけど」
「千夏には渚沙ちゃんが人見知りする性格だって、事前に教えておいたからね。あんまりはしゃいでないだろう? 渚沙ちゃんに合わせるように、距離感に気をつけろって言っておいたんだ」
「確かにいつもはぐいぐい行く千夏が、今日は随分と大人しいな。なるほど、秋也が言ってくれたわけか」
「まあ話している内にテンションが上がりすぎて暴走する可能性もあるけどね。その時はよろしく頼むよ、晴。もちろん僕も頑張るけれど」
「ああ任せておいてくれ。ユキと千夏には仲良くなってもらいたいからな」
千夏は見た目通り、明るくて人懐っこい性格だ。けれどそれが原因でたまに距離感を間違える事がある。
ユキは人見知りをする性格だから、千夏がぐいぐい行きすぎると緊張させてしまうかもしれない。
二人に仲良くなってもらう為にも、ここはしっかりとサポートしないと。
「それにしても、晴。今日の渚沙ちゃんは一段と可愛いよね。まあ僕の千夏が一番だけどさ」
「惚気かよ。まあ確かに、今日のユキはめちゃくちゃ可愛いな」
「メイクも上手だよね、渚沙ちゃん。服装も清楚系美少女の雰囲気にすごく合ってるし、晴がたくさん褒めてたのも頷けるかな」
「お前の千夏も気合入ってるよな。元気いっぱいな千夏のイメージを引き立てる格好で可愛いと思う」
千夏が着ているのはゆったりとしたシルエットの黒のオフショルダー。肩の部分が開いた襟ぐりの広めなトップスで、健康的な肌が眩しいくらいだ。
ボトムはデニムのショートパンツを履いていて、千夏の活発的な印象を強めているように思う。小物にはシュシュやブレスレットを身につけていて、千夏の活発さを引き立てつつも女の子らしさも感じさせるという見事なコーデだった。
それを褒めると秋也はドヤ顔で自慢げに胸を張った。
「ふふん。だろ、僕の千夏は可愛いんだ。でも晴、いくら褒めてもあげないよ? だって千夏は僕のだからね」
「ばか。人の彼女に手を出すわけないだろ。それに千夏が可愛いって褒められたら、秋也だって嬉しいくせに」
「まあね。大切な恋人を褒められて嫌な気持ちになる奴なんていないさ。むしろもっと褒めてくれてもいいよ?」
「あんまり褒めると調子に乗るからやめとく」
「遠慮しなくてもいいのになぁ」
「遠慮なんてしてないって。俺が褒めちぎるのはユキだけだから」
お互い惚気け合うように会話を繰り広げている内に、目的地である喫茶店が見えてきた。
そこは落ち着いた雰囲気の外装に、ガラス張りの大きな窓が印象的な小洒落た喫茶店だった。
店前にあるブラックボードにはランチメニューが書かれてあり、そこには本日オススメのパスタのイラストが添えられている。
「あっきー。お昼食べるお店ってここでいいんだよね?」
「ああ、ここで間違いないよ。僕のオススメの店なんだ。ランチメニューも美味しいんだけど、デザートのパフェが最高でね」
「やばっ、パフェが最高とかめちゃ楽しみ! ねえねえ、早く入ろ!」
千夏は目を輝かせて秋也の腕を引っ張っていた。まるで小学生のようにはしゃぐ姿に秋也は頬を緩ませている。
「分かったよ、千夏。それじゃあ晴、渚沙ちゃん、中に入ろう。少し早めに来たから席も空いているみたいだし、今の内だよ」
「了解。それじゃあユキ、行こっか」
「はい、晴くん。楽しみですね」
秋也を先頭にして喫茶店の扉を潜る。
カランコロン、と扉に取り付けられていたベルの音が鳴って俺達は店の中へと入っていった。
店内はちょうど良い温度に設定されていて、外の暑さで少し汗ばんていた体がすっと涼しくなるのを感じる。静かに流れるジャズの音色が心地よく耳に届いた。
テーブル席が四つにカウンター席が五つあり、俺達は四人掛けのテーブル席に腰を下ろす。
俺の隣にはユキが、秋也と千夏と向かい合って座る形だ。
テーブルに店員さんが水を運んできてくれた後、俺達は雑談がてら改めて自己紹介を始める。
「今日は僕らと遊んでくれてありがとう。渚沙ちゃんとは同じクラスだから知っているだろうけど、僕は葉山秋也。晴とは中学からの付き合いなんだ」
「はいはーいっ。それじゃあ改めまして! あたしは西園寺千夏ですっ。クラスは違うけどあたしも晴と同じ中学出身なの。隣のあっきーとは恋人同士で、晴とも仲良くしてもらってます!」
礼儀正しく頭を下げて自己紹介する秋也と、元気いっぱいの挨拶をする千夏。
二人の自己紹介を聞いたユキは柔らかな笑みで答える。
「秋也さん、千夏さん、今日はわたしの事を誘ってくださってありがとうございます。晴くんのお友達とこうしてお話するのは、実は初めてなんです。わたし、すごく楽しみにしてました」
「俺からもありがとうな、秋也、千夏。ユキと友達になりたいって言ってくれて」
友人相手に少し堅苦しいかな、と思いつつも俺は二人に感謝を伝える。
秋也と千夏はにこにこと上機嫌な様子で答えてくれた。
「えへへー。こちらこそありがとうだよ、あたし本当にユキりんと仲良くなりたいってずーっと思ってたからさ」
「ユ、ユキりん……!? ち、千夏、渚沙ちゃんの事をいきなりあだ名で呼ぶのは……」
千夏のユキりん呼びに秋也がぎょっとした反応を見せる。
今日初めて話した相手の事をいきなりあだ名で呼ぶのは、流石に距離を詰めるのが早すぎると思ったのかもしれない。
しかしあだ名で呼ばれたユキの方は、ふんわりとした笑顔で嬉しそうに言葉を紡ぐ。
「いえ大丈夫ですよ、秋也さん。さっきもお話していたんですけど、千夏さんすごく良い人で。わたしの事をあだ名で呼びたいって言ってくださって。わたしもそう呼ばれるのは嬉しいですし、お友達として距離を縮めるには良いかなって思ったんです」
「そ、そうなんだ……。まあ、渚沙ちゃんがいいなら構わないんだけど」
「はい。ユキりんって呼ばれて、わたしも何だか新鮮で嬉しいです。秋也さんもどうぞわたしをユキりんと呼んでください」
「いや、僕はその……流石に恥ずかしいかな。これからも渚沙ちゃんって呼ばせてもられば、と思う」
秋也は頬を掻きながら、照れた様子で視線を逸らす。
まあ初めて話す相手をいきなりあだ名で呼ぶのはハードル高いよなと、それを軽々と越えていく千夏の凄さを思い知った。
幸いにもユキと千夏は相性が良いようで、さっきの移動時間中の会話だけでも随分と打ち解けた様子だった。
人見知りするユキが緊張している感じもない。気を張った時の凛とした表情とも違う、ふわりとした自然な笑みを浮かべていた。
間逆な性格の方が、かえって気が合うのかもしれない。どうやら俺と秋也の心配は杞憂に終わったようだ。
穏やかな雰囲気の中、俺はメニュー表に手を伸ばす。
「じゃあ自己紹介も終わった事だし、みんなでお昼を食べながらゆっくり話そう」
「さんせー! あたしはパスタの気分! あとデザートのパフェは絶対だよね! ねえねえ、あっきーは何にする?」
「僕はカレーにしようかな。おすすめのパスタも捨てがたいけど、今はお米が食べたい気分なんだ」
秋也と千夏は肩をくっつけ合いながら楽しそうにメニュー表を見ている。
俺もユキと一緒になって、二人と同じようにランチメニューを眺め始めた。
「ユキは何食べたい? 色々あるけど」
「そうですね。どれも美味しそうで迷ってしまいます……。晴くんはどれにしますか?」
「俺はこのホットサンドにしようかな。具だくさんで美味しそうだし、サラダも付いてるみたいだから」
「それじゃあわたしも晴くんと一緒がいいです。あ、あと、わたしもパフェ食べてもいいですか……?」
「ユキは甘いものが大好きだからな。もし良かったら俺も違うパフェ頼むから二人で食べ比べてみよう」
「ほんとですかっ? わたし、すごく楽しみですっ……」
ユキはぱあっと目を輝かせる。
一度のランチで二つのパフェを味わえる事に、ユキは嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
こうして四人それぞれの注文が決まり、ウェイトレスさんを呼んで料理やデザートを注文する。
程なくして注文したメニューが全てテーブルに届き、俺達のランチタイムが始まるのだった。
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