第10話、ダブルデート①

 ――日曜日。


 今日は秋也と千夏の二人をユキに紹介する日だ。


 昨日の内にユキとの約束を取り付けた事をRINEで伝えてあって、何処に行って何をするかなども決めてある。


 待ち合わせの時間は11時半で、合流したらまずは何処かでお昼を食べながら話をする事になっていた。


 そして今。

 俺とユキは待ち合わせ場所の駅前にいる。


 秋也と千夏が来るのを二人でベンチに座って待っていた。


「は、晴くん……今日のわたしの服装、どうでしょう? 変じゃないですか?」


 隣に座っているユキが不安げな表情で尋ねてくる。


 こうして友達を紹介されるのはユキにとって初めての事で、それもあってか朝からずっと緊張している様子だった。


 早起きして『晴くんからお友達を紹介してもらうのですから、しっかりお洒落していきます』と気合いを入れて支度を進めていたのだが、なかなか着ていく服が決まらずに時間がかかっていた。


 最終的に落ち着いた格好は春っぽさを感じさせる大人しめなコーデ。


 黒いリボンの着いた白のショートブラウスに、下はハイウェストのフレアスカートという組み合わせだ。


 お腹周りがすっきりとしていて、ユキの長い脚がより際立って見える上品で清楚な装いに仕上がっている。


 髪の毛も普段のストレートレアではなくゆるふわに巻かれていて、いつもよりユキが大人っぽく見えた。。


 それにユキはすっぴんでも天使のような美貌の持ち主なのだが、今は薄く化粧が施されて更に魅力が増している。


 世界最高の美少女だと自信を持って言える程に綺麗だと思う。けれどユキは落ちつかないのか、何度も自分の姿を確認してはもじもじと指先を絡めていた。


 そんなユキを安心させようと、俺は優しい笑顔で話しかけた。


「大丈夫だよ。ユキ、凄く似合ってて可愛いから。いつものユキも本当に魅力的で一緒にいるだけでドキドキするけど、今のユキはもっと魅力的になって、最高に素敵な女の子になってると思う」


「あっ……えと、晴くん……」


「ご、ごめん。今のはちょっと抽象的過ぎたか。ゆるふわに巻いた銀色の髪、いつものストレートヘアも好きだけど、今の髪型も大人っぽくて凄い素敵だな。白いブラウスとフレアスカートの組み合わせもユキの清楚な所をしっかり引き立ててて、思わず見惚れちゃうくらいに可愛くて」


「あぅ……あの、その……」


「それにメイクも上手だよな。ただでさえユキは可愛いのに、今日はもっと可愛くなっててびっくりしてる。磨きあげられた最高級のダイヤモンドっていうのかな、ユキは世界一可愛いよ。俺が保証する。だから自信持って」


 ユキの青い瞳を真っ直ぐに見つめながら、俺はユキを褒めちぎる。だがお世辞を言っているつもりはない、これは紛れもない事実なのだ。だからすらすらと言葉が出てくるし、目を逸らす事なく伝える事が出来る。


 俺の言葉を聞いたユキはみるみると顔を真っ赤にして、それを隠すように両手で顔を覆ってしまう。朱色の差し込んだ小さな耳は隠しきれていないが。


「ごめんな、また恥ずかしい気持ちにさせて。でも本当に思っている事だから」

「す、すごく嬉しいです……嬉しいですけど、晴くん……あの、あのね?」

「うん?」


 ユキは恥ずかしそうに指の隙間から俺を見つめてきて、小さな虫が鳴くようなか細い声で囁いてきた。


「あ、秋也さんと、千夏さんに……全部聞かれてるから。う、後ろ……見てください」

「へっ?」


 言われた通りに振り返ると、そこには口に手を当ててニヤけながらこちらを見ている秋也と千夏の姿があった。


「いや〜晴っち、歯が浮いてしまいそうな程の褒め殺しっぷりだったね〜。いいもの見せてもらっちゃったよっ」

「あんなにベタ褒めされたら、渚沙ちゃんも嬉しくて悶絶しちゃうのは当然さ。しかもそれを素でやってるんだから、流石は晴だよ」


「……おま、いつからそこに?」


 俺の問いに二人は顔を合わせて悪戯っぽく答えた。


「大丈夫だよ。のところからかな〜」

「だね。そこからの褒めっぷりには痺れたよ」


「それ最初からじゃん……」


 全部聞かれていた事を悟った俺は、羞恥心から顔が真っ赤に染まっていた。穴があったら入りたい気分とはこういう事を言うのだろう。


 ユキも同じように頬を赤く染めながら俯いているし、完全に二人にやられてしまっていた。いやユキは俺にやられてるのか。


「晴っち、渚沙さん、ごめんねー? 盗み聞きするつもりはなかったの。ちょうどあたし達が着いたタイミングで、二人とも真剣に話してるから声を掛けそびれてちゃって」


「悪気はなかったんだ、ごめんよ。でも晴があまりに真っ直ぐに渚沙ちゃんを褒めるものだから、つい聞き入ってしまって」


 スマホで時計を確認すれば、既に待ち合わせ時間を過ぎている。どうやらユキを褒めるのに夢中になりすぎて、二人が到着した事に全く気が付かなかったようだ。


「ユ、ユキ、ほんとにごめん。二人に聞かれてると思ってなくて……」

「あ、謝らないでください。 それにわたし、嬉しいです。晴くんがあんなにたくさん、わたしの事を考えてくれてるのが伝わってきて……本当に嬉しかったです」


 ユキはきゅっと俺の服を掴み、頬を赤く染めながらも上目遣いで俺を見つめている。


 ユキの真っ直ぐな言葉はいつも俺の胸に響く。秋也と千夏に聞かれていた事よりも照れ臭く感じて、俺の顔は更に熱を帯びていった。


 甘酸っぱい空気が流れて、互いに見つめ合ったまま言葉が出ない。


 また二人だけの世界に入ってしまいそうになったが、秋也と千夏がいる事を思い出して慌てて目を逸らし、さっと立ち上がった。


「と、とりあえず、みんな揃ったし四人で何処か食べに行こうか。ほ、ほら! 時間も押してるしさ!」

「で、ですね。お待たせしてしまってごめんなさい、秋也さん、千夏さん」


 俺に続いてユキも立ち上がり、慌てた様子でぺこりと頭を下げる。


「うんうん、気にしないで〜。今日はいっぱい遊んで、仲良くなろうね渚沙さん♪ 晴っちもよろしくねんっ」

「晴、渚沙ちゃん、今日はみんなで楽しく過ごそう。僕からもよろしく頼むよ」


 秋也と千夏はニコリと笑いかけてくる。暖かい眼差しで見つめられて、何だかそれがくすぐったくて仕方がない。


 こうして俺達は四人で歩き出し、まずは予定通りに近場の喫茶店でお昼を食べる事にした。

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