第8話、二人の夕食③
そわそわとした様子でユキは俺が戻ってくるのを待っていた。
テレビはついているがユキの視線はテレビには一切向いていない。
ソファーに座りながら俺のいるキッチンに視線を向けては、小さく顔をそらすのを何度か繰り返していた。
その様子を微笑ましく思いながらも、俺はプリンの入った容器とスプーンをテーブルに置いて、ユキの隣に腰を下ろす。
「持ってきたぞ、ユキの大好きな生クリームたっぷりのなめらかプリン。食べさせてあげるからな」
「晴くん……っ。あの、その……。わたし今、緊張で、心臓がばくばくと大きな音を鳴らしていて……」
ユキは胸に手を当てながら、たどたどしい口調で言う。
瞳をうるませて、白い頬を赤く染めて、小さな唇を震わせながら俺を見つめていた。
帰宅途中からずっと甘やかしている事もあって、本当に溶けてしまいそうな程にユキは緊張しているようだった。
「そんな緊張する事ないさ。ユキにプリンを食べさせてあげるだけだし」
「それが、すごく恥ずかしいんです……。だ、だって……」
ユキはか細い声でそう言うと、俺と視線を合わせないように顔を俯かせる。
「今日は楽しい事だったり、幸せな事だったり、晴くんにもいっぱい甘やかしてもらって……。たくさん嬉しい事が積み重なって、心がふわふわしてるんです。だから……気分が高まって、変な感じになってると言いますか……」
朱色に染まった頬に両手を当てて、ユキは恥ずかしそうにしながら呟いた。
両手で隠しきれていない耳までも朱色に染まっているのが、何ともいじらしいと言うか、愛らしいというか。
そんな可愛い表情をされると俺まで緊張してきてしまうのだが、それを表に出さないように必死に抑え込む。
「大丈夫だって。今日は好きなだけ俺に甘えていいからさ」
「……じゃあ、甘えます。ふわふわしてるわたしが何を言っても……引かないでくださいね?」
「もちろん全部受け止めるよ。ユキは何を言っても可愛いし」
「それを聞いただけで……わたし、とろとろになっちゃいそうです……」
ユキは潤んだ青い瞳で俺を見つめながら、体重を預けるように寄りかかってきた。それから俺の腕をきゅっと握って上目遣いで見上げてくる。
桜色の唇が柔らかく緩んでいて、濡れた青い瞳が俺を見つめていた。
「じゃあプリン食べようか。ほら、お口あけて。あーん、って」
「あ、あーんっ……」
ユキは目を閉じると可愛らしい口を大きく開いた。
艶のある柔らかそうな唇がぷるんと揺れる。
ピンク色の小さくて可愛い舌が俺を誘うように覗いていて、ただプリンを食べさせるだけのはずなのに、何だかイケナイ事をしているような気分になってくる。
その潤んだ唇に吸い込まれるように、俺はスプーンですくったプリンをユキの口の中に運んでいた。
濃厚な生クリームをまとったプリンがピンク色の舌の上で甘くとろけていく。
ユキは口の中に広がった甘さとやわらかな感触にふにゃりと頬を緩ませ、小さな桜色の唇からは熱い吐息がこぼれていた。
「ユキ、美味しかった?」
「はい。晴くんが食べさせてくれたから……すごく甘い、です」
「それは良かった。はい、もう一口」
「あーんっ……」
ユキは幸せそうに微笑みながら、小さな口を大きく開ける。舌の上のプリンを転がして味わった後、白い喉がこくりと上下した。
火照った顔と青色の瞳、ぼんやりと蕩けた視線が俺を見つめる。
「だいぶ溶けてきた? なんか今のユキ、ふにゃっとしてて可愛いな」
「はい……晴くんにプリンを食べさせてもらったら……頭がぽーっとしてきて、身体が熱くなってきました」
ユキはふわふわした声で答えると、俺の身体にすりすりとその柔らかな頬を擦り付けてくる。
まるで猫みたいだ、なんて思いながら俺はそんなユキの白い髪を優しく撫でた。
細くしなやかな髪が指に絡んで、ふわふわとした手触りが心地良い。
ユキも俺の手の感触に気持ちよさそうに目を細め、俺の胸に顔を埋めながらゆっくりと息を吸ったり吐いたりしていた。
「晴くんの匂い好き……。ぽわぽわして、ほっとする……」
「俺もユキのいい匂いがして安心する。髪、さらさらで気持ちいいな」
「くすぐったいけど気持ちいい、です。晴くんのなでなで、優しくて好き……」
「この前のお返しになったかな? ユキ、俺に膝枕してくれて、その時にたくさん撫でてくれただろ?」
「えへへ……いっぱい素敵なお返しになりましたよ? こうしてるとすごく幸せで、ふわふわするから……」
ユキは頬を赤らめながら、ぎゅっと強く抱きついてくる。小さな身体で俺にしがみついて、潤んだ青い瞳を俺に向けていた。
そんなユキの仕草や表情はとても甘ったるくて、本当に幸せそうだ。
俺はユキの身体をそっと抱き寄せて、自分の腕の中に包み込むように優しく抱きしめる。
細い腕が俺の背中に回されて、柔らかい身体が俺に密着した。
ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐり、胸のあたりにはむにゅりと弾力のある膨らみが押しつけられる。
お互いの体温を交換し合うかのように俺とユキは抱き合っていた。
その華奢な身体の感触や温もりが心地良いし、甘い香りに包まれるのも幸せだ。
ユキは頬を緩ませて俺の胸に顔を埋めながら、幸せそうに何度も俺の名前を呼ぶ。
「晴くん……晴くん。幸せです……もっと甘えたい。もっと晴くんを感じたい……」
「いいよ、もっといっぱい甘えて。我慢なんてしなくていいから」
俺は赤くなったユキの耳元で囁いて、それから赤子をあやすように優しく背中を上下にさすってあげた。華奢な身体がぴくんと小さく震えて、甘い吐息が何度もこぼれ落ちる。
綺麗な青い宝石のような瞳が真っ直ぐに俺を見つめていて、決して俺の事を離したくないと言っているようにも感じた。
俺もユキを離したくないと告げるように、その小さな身体を強く優しく抱きしめる。
ユキは生クリームとカラメルたっぷりのプリンよりも、もっともっと甘くてとろけそうな笑顔を浮かべていた。
ユキが満足するまで、俺は何度も何度も優しくその華奢な身体をさすり続ける。
心地の良い柔らかな時間が静かに流れていた。
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