第4話、始まる高校生活②

 学校へ行く支度を済ませた俺は玄関へと向かう。


 靴を履いて扉を開ければ、そこには制服姿のユキがいた。


 赤いリボンを胸元に飾った白のブラウスに紺色のスカート、純白のスクールソックスに黒のローファー。


 清楚可憐なその格好はユキによく似合っていて、ついついじっと見惚れてしまった。


 ユキは俺の視線に気付くと少し気恥しそうにしながらも微笑み、俺の袖口をちょこんと摘まんでくる。


 そして俺の顔を下から覗き込むようにして、小さく首を傾げながら問いかけてきた。その仕草もたまらなく可愛い。


「晴くん、忘れ物はありませんか? ハンカチとかティッシュは鞄に入ってます?」

「大丈夫だよ。ユキが用意してくれたおかげでばっちりさ」

「良かったです。では一緒に学校へ行きましょう」


 まるで遠足へ行く時みたいにはしゃぐユキ、そんな姿に俺は頬を緩ませていた。


 昨日一緒に登校しようと指を絡めて約束したけれど、それをずっと楽しみにしていてくれたようだ。


 鍵をかけると俺とユキは歩幅を合わせて歩き出す。にこにこと笑顔で俺の隣を歩くユキは、朝の日差しよりもずっとずっと眩しく見えた。


「なんか……まだ夢を見続けてるみたいだ。ユキと再会出来た事もそうだけど、一緒に暮らすだなんてさ」

「わたしもですよ。晴くんとこうして一緒に居られるなんて、今も夢を見ているようです」


「でも夢じゃないんだよな。この幸せな日々は、ちゃんと現実にあるんだから」

「はい。これからは毎日晴くんと一緒に過ごせるんですね。えへへ」


 ユキはそう言って嬉しそうに笑ってみせた。


 その笑顔を見て胸が熱くなるのを感じる。


「学校でもまた仲良くしてくださいね。勉強で分からない事があれば何でも聞いてください、どの教科でも遠慮なく」


「ありがとう、ユキ。小学生の頃もそうだったけどさ、相変わらず勉強はあんまり得意じゃないから。この高校に入れたのも三年間必死に勉強してギリギリだったし」


 母さんの話では高校生になった今もユキの学力は高いままらしい。それどころか海外で英語を覚えて帰ってきたそうで、本当によく出来た子だと思った。


 今朝も俺の世話を焼いてくれるだけじゃなく、自分の支度もしっかり整える姿には感心したし、授業で分からない事があれば何だって教えてくれるだろう。


 手作りのお弁当も用意してくれていて、昼休みになれば二人で一緒に食べる予定だ。放課後になれば今のようにまた肩を並べてマンションへと帰っていく。


 想像するだけで幸せすぎて、俺の顔はさっきからずっと緩みっぱなしだ。ユキもふにゃふにゃとだらしない表情になっている。


 そんな風に仲良く歩いていれば、あっという間に学校が見えてきた。


 俺達は桜が咲き誇る並木道を抜けて校門に辿り着く。


 校門の向こうは朝から騒がしい。


 新入生を部活動に勧誘しようと集まる先輩達と、それに興味津々な新入生達が集まっている。


 大きなプラカードを掲げて張り切っている野球部やサッカー部、色とりどりの衣装に身を包んでアピールしている演劇部の生徒や、たくさんのビラを配って新入生を集めようとしている生徒会。


 様々な生徒が思い思いに声を上げて、入学したばかりの新入生達に呼びかけていた。


 その光景はまさに青春といった感じがして、これからの高校生活が明るく楽しいものである事を予感させるものだった。


「凄く賑やかなです。みんな笑顔でとっても楽しそう」

「そうだな。きらきらしてて見ているだけでもワクワクしてくる」


「はい、楽しみになってきました。晴くんと一緒なら、きっと毎日が楽しくて仕方ないと思います」

「俺も同じ気持ちだよ。これからよろしくな、ユキ」

「こちらこそよろしくお願いしますね、晴くんっ」


 屈託のない笑みを浮かべてユキが言う。俺もつられて笑みを浮かべた。


 ここから始まる希望で満ち溢れた高校生活に胸を弾ませながら、俺はユキと一緒に校門の向こう側へ足を踏み入れる。

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