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?「ガガ……ガガ……」
男「お、おいおい、まさか……」
?「……聞……え……すか……」
男「!!」
男「人だ!!」
?「あ……あ……聞こえますか……」
男「聞こえる!! おい!! ははは!! マジでか!!」
?「もし……聞こえていたら……応答してください……」
男「ははは!! どうやって!! はっはっは!!」
男「おれのチャンネルは今君が使ってるじゃないか!!」
?「あ、でも無理ですねえ」
男「お」
?「えっと、私は555.05チャンネルに切り替えますので、あなたはいつも通り喋ってください」
男「ほほう」
?「で、私は555.00を聞きながら555.05で喋ります」
男「賢いな」
?「では、えっと、少々お待ちを」
男「えーと聞く方を555.05に……と」
?「あーあー、聞こえますか?」
男「おーし、バッチリだ」
男「おれの声が聞こえるかい?」
?「聞こえます!! やった!! うまくいったわ!!」
男「その声、君、まだ子ども?」
?「子どもじゃないわ、もう14歳よ」
男「はっはっは、十分子どもだ」
少女「そんなことない!!」
男「まあ、そんなことはいい!! おれは今最高に嬉しいんだ!!」
少女「私もです!! まさか他に人がいるなんて!!」
少女「しかもその人と話ができるなんて!!」
男「ああ、10年ぶりだ、人の声を聞いたのは」
少女「私は……一緒に暮らしていた人がいたのだけれど、ついこの間亡くなってしまったから……」
男「そうか」
男「でもずっと一人ぼっちじゃなかったんだから」
少女「ええ、そうね」
少女「彼にはとても救われたわ」
男「羨ましいよ」
少女「あれ、でもあなた、ラジオじゃ店員さんとの会話を嬉しそうにお話していたじゃない」
男「ああ、あれは……」
少女「?」
男「マネキンの店員さ、本当は喋らない」
少女「……」
男「会話はおれの妄想さ、ははは」
男「そうでもしなきゃ孤独で頭がおかしくなっちまうところだ」
男「いや、もうすでにおかしくなってんのかもな。実際に相手の言葉が頭の中に聞こえてきていたんだから」
少女「いえ、その気持ちわかります」
男「そうかい」
男「寂しくなって、それで、ラジオを始めたんだ」
少女「どうやって?」
男「いや、ラジオ局を勝手に使ってんの」
少女「ラジオ局があったの?」
男「ちょうどいいところにな」
男「で、ラジオで好きな曲を流しては、どこかにいるかもしれない誰かを探してた」
少女「あなたがラジオを流してくれたおかげで、私もあなたに出会えたわ」
男「そうさ!! こういう出会いを待ってた!!」
少女「うふふ」
少女「彼が亡くなる前から、ずっとあなたの流す音楽が私の活力だったの」
男「そいつは嬉しいね」
男「リスナー第一号だ」
少女「あなたのラジオを初めて聞いたときは胸が震えたわ」
男「最高のコメントありがとう」
少女「どうにかして、あなたにコンタクトを取りたいと願って……それで……」
男「それで?」
少女「聞くだけじゃなく、発信できるラジオを作ったの」
男「……」
男「そりゃあすげえ」
少女「手先は器用なのよ♪」
男「で、君はどうして暮らしてるの」
少女「私は……小さな島に一人で暮らしているわ」
男「食べ物は?」
少女「牧場と畑があるの」
男「!!」
少女「でもまあ、お世話はだいたいロボット任せなんだけれど」
男「ちょ、なにそれ!! 羨ましい!!」
男「おれなんてこの10年スーパーやら倉庫やらの物資で食いつないでんのに!!」
少女「言ってましたねえ」
男「週に一回のビーフジャーキーが御馳走なのに!!」
少女「言ってましたねえ」
少女「私の今日の夕食は本物の牛肉ですよ♪」
男「うわああああああああああああ」
少女「パンも窯で焼けるのよ♪」
男「うわああああああああああああ」
少女「ふっふっふ、牛さんからは牛乳も出るのよ♪」
男「ずるい!! ずるい!! くそおおおおおおおおおおおお!!」
少女「えっと、DJさん私の倍くらいの歳ですよね」
男「歳なんて関係ねえ!! 悔しいときは叫ばせろ!!」
少女「ロックですねえ」
男「まあ、一人で生きていける環境があるわけか」
少女「ええ、まあ、そうですね」
少女「あなたはどんな暮らしを?」
男「ラジオで言ってたような平凡な暮らしさ」
男「毎日町へ出かけていって、まだ使える物資をあさってはその日暮らしさ」
少女「孤独ですか?」
男「孤独だね」
男「マネキンに毎日のように話しかけては、架空の日常をラジオで垂れ流してた」
少女「でもリスナーはいますからね!!」
男「ああ、それが何よりだ」
少女「10年間、他に誰にも会わなかったんですか?」
男「ああ」
男「人間には一切関わりがなかった」
少女「動物は?」
男「それはまあ……鳥とか野良犬とかは普通にいるよ」
少女「こちらと同じですね……」
少女「ある日、突然いなくなった……らしいですね」
男「らしい?」
少女「ええ、私その頃はまだ4歳だったの」
男「ああ、そりゃあ仕方ないか」
少女「どうして人が居なくなったんでしょう」
男「わかんねえ」
男「そもそも、おれがなぜ生き残ってるのかだってわかんねえよ」
少女「私と一緒に暮らしていた人は……」
少女「ウイルスとか、核実験を疑っていましたけれど」
男「ああ」
少女「結局原因はよくわからないままです」
男「うーん」
男「ウイルスはともかく、核実験はないだろうな」
少女「どうして?」
男「だって動物はみなピンピンしているし」
少女「ええ」
男「おれたちに抗体がある理由もないだろ」
少女「私たち、普通の人間ですもんねえ」
男「それは会ってみねえと分かんねえけど」
少女「ちょっと!! 私は普通の人間です!! DJさんこそロボットだったりしませんよね!?」
男「ロボットは服屋でパンツを買わねえだろ!!」
少女「それもそっか」
男「放射線に抗体がある人間もまれにいるらしいが」
少女「それが私たち?」
男「うーんよくわからん」
男「医者も科学者も、いないからな。根拠はなにもないよ」
少女「ですよねえ」
男「一緒に住んでいた人は、どうして亡くなったの?」
少女「病気です」
男「なんの?」
少女「ううん、全然わからないの」
男「そうか」
少女「毎日看病したけれど、治す手立てもなくて」
男「……そうか」
少女「ウイルスは? 可能性がありますか?」
男「なくはない……かな」
少女「そう」
男「それなら、そのウイルスを作ったやつらはきっと生きてるんだろうな」
少女「あ、そうか」
男「それにウイルスってのは、ワクチンとセットでないと作られないし……」
少女「どういうこと?」
男「治すことができなければ、万一自分たちが感染したときに死んでしまうだろう」
少女「そっか、じゃあ失敗したのかしら」
男「かもしれないな」
少女「でも、じゃあ、なんで私たちは生きているの?」
男「偶然抗体があったのか……」
少女「ラッキーね、私たち」
男「はっはっは!! 最高にアンラッキーとも言えるがな」
少女「死体を見たことはある?」
男「ない」
少女「私もないの」
少女「お父様やお母様、お兄様がいたはずなのに、どこにもいないの」
男「……いや、ちょっと待て」
少女「え?」
男「赤ん坊の死体なら……見たことがある」
少女「!!」
男「それも何人も……」
男「怖くなって逃げ出したし、忘れようとしていたけど……思い出した」
少女「でもそれっておかしくない?」
男「人体を溶かすウイルスかもな」
少女「……怖い」
男「ま、今更原因を探ってみたところで、答えが見つかるわけもなし」
少女「そうね」
男「もっと楽しい話をしようぜ」
男「せっかくの記念日なんだから」
少女「記念日?」
男「人間との再会記念日だ、おれのな」
少女「うふふ、そうね」
男「あ、でも待ってくれ」
少女「え」
男「あんまり長い間はお喋りできないんだ」
少女「どうして?」
男「発電装置は一応あるんだが、一日に使える量は多くないんだ」
少女「ああ……そうか」
男「君のところのラジオはどうなってるの」
少女「えっと……わからないの」
少女「発電装置は昔からあるものだし……」
男「そうか」
少女「じゃあ、また明日、同じ時間にお喋りしましょう?」
男「ああ、それがいい」
少女「時間はたっぷりあるんだもの、ね」
男「はっはっは、そりゃそうだ」
少女「私もお買い物、したくなっちゃったなあ」
男「おれは農作業がしたくなったよ」
少女「ないものねだりですね、お互い」
男「そうだな」
少女「ふふ、じゃあまた明日」
男「ああ」
……
カランカラン
男「やあ」
男「……今日は、あんたに報告があるんだ」
店員「……」
男「今日さ、初めておれ以外の人間に会ったんだ」
男「あ、会ったって言っても、声を聞いただけなんだけど」
店員「……」
男「おれ、おれ、嬉しくてさあ」
店員「……」
男「今までありがとうな、おれの相手してくれて」
店員「……」
男「はは、もう喋ってくれないか……」
店員「……」
男「倉庫の方に移動させるよ」
店員「……」
男「よっと……」グイ
ゴロゴロ
男「服は、このままでいいかな」
男「今までありがとう」
男「って言っても、また服はもらいに来るけど」
男「じゃあ、な。ゆっくり休んでくれよな」
店員「……」
バタン
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