2/3

?「ガガ……ガガ……」


男「お、おいおい、まさか……」


?「……聞……え……すか……」


男「!!」


男「人だ!!」


?「あ……あ……聞こえますか……」


男「聞こえる!! おい!! ははは!! マジでか!!」


?「もし……聞こえていたら……応答してください……」


男「ははは!! どうやって!! はっはっは!!」


男「おれのチャンネルは今君が使ってるじゃないか!!」




?「あ、でも無理ですねえ」


男「お」


?「えっと、私は555.05チャンネルに切り替えますので、あなたはいつも通り喋ってください」


男「ほほう」


?「で、私は555.00を聞きながら555.05で喋ります」


男「賢いな」


?「では、えっと、少々お待ちを」




男「えーと聞く方を555.05に……と」


?「あーあー、聞こえますか?」


男「おーし、バッチリだ」


男「おれの声が聞こえるかい?」


?「聞こえます!! やった!! うまくいったわ!!」


男「その声、君、まだ子ども?」


?「子どもじゃないわ、もう14歳よ」


男「はっはっは、十分子どもだ」


少女「そんなことない!!」




男「まあ、そんなことはいい!! おれは今最高に嬉しいんだ!!」


少女「私もです!! まさか他に人がいるなんて!!」


少女「しかもその人と話ができるなんて!!」


男「ああ、10年ぶりだ、人の声を聞いたのは」


少女「私は……一緒に暮らしていた人がいたのだけれど、ついこの間亡くなってしまったから……」


男「そうか」


男「でもずっと一人ぼっちじゃなかったんだから」


少女「ええ、そうね」


少女「彼にはとても救われたわ」


男「羨ましいよ」




少女「あれ、でもあなた、ラジオじゃ店員さんとの会話を嬉しそうにお話していたじゃない」


男「ああ、あれは……」


少女「?」


男「マネキンの店員さ、本当は喋らない」


少女「……」


男「会話はおれの妄想さ、ははは」


男「そうでもしなきゃ孤独で頭がおかしくなっちまうところだ」


男「いや、もうすでにおかしくなってんのかもな。実際に相手の言葉が頭の中に聞こえてきていたんだから」


少女「いえ、その気持ちわかります」


男「そうかい」




男「寂しくなって、それで、ラジオを始めたんだ」


少女「どうやって?」


男「いや、ラジオ局を勝手に使ってんの」


少女「ラジオ局があったの?」


男「ちょうどいいところにな」


男「で、ラジオで好きな曲を流しては、どこかにいるかもしれない誰かを探してた」


少女「あなたがラジオを流してくれたおかげで、私もあなたに出会えたわ」


男「そうさ!! こういう出会いを待ってた!!」


少女「うふふ」




少女「彼が亡くなる前から、ずっとあなたの流す音楽が私の活力だったの」


男「そいつは嬉しいね」


男「リスナー第一号だ」


少女「あなたのラジオを初めて聞いたときは胸が震えたわ」


男「最高のコメントありがとう」


少女「どうにかして、あなたにコンタクトを取りたいと願って……それで……」


男「それで?」


少女「聞くだけじゃなく、発信できるラジオを作ったの」


男「……」


男「そりゃあすげえ」


少女「手先は器用なのよ♪」




男「で、君はどうして暮らしてるの」


少女「私は……小さな島に一人で暮らしているわ」


男「食べ物は?」


少女「牧場と畑があるの」


男「!!」


少女「でもまあ、お世話はだいたいロボット任せなんだけれど」


男「ちょ、なにそれ!! 羨ましい!!」


男「おれなんてこの10年スーパーやら倉庫やらの物資で食いつないでんのに!!」


少女「言ってましたねえ」


男「週に一回のビーフジャーキーが御馳走なのに!!」


少女「言ってましたねえ」




少女「私の今日の夕食は本物の牛肉ですよ♪」


男「うわああああああああああああ」


少女「パンも窯で焼けるのよ♪」


男「うわああああああああああああ」


少女「ふっふっふ、牛さんからは牛乳も出るのよ♪」


男「ずるい!! ずるい!! くそおおおおおおおおおおおお!!」


少女「えっと、DJさん私の倍くらいの歳ですよね」


男「歳なんて関係ねえ!! 悔しいときは叫ばせろ!!」


少女「ロックですねえ」




男「まあ、一人で生きていける環境があるわけか」


少女「ええ、まあ、そうですね」


少女「あなたはどんな暮らしを?」


男「ラジオで言ってたような平凡な暮らしさ」


男「毎日町へ出かけていって、まだ使える物資をあさってはその日暮らしさ」


少女「孤独ですか?」


男「孤独だね」


男「マネキンに毎日のように話しかけては、架空の日常をラジオで垂れ流してた」


少女「でもリスナーはいますからね!!」


男「ああ、それが何よりだ」




少女「10年間、他に誰にも会わなかったんですか?」


男「ああ」


男「人間には一切関わりがなかった」


少女「動物は?」


男「それはまあ……鳥とか野良犬とかは普通にいるよ」


少女「こちらと同じですね……」


少女「ある日、突然いなくなった……らしいですね」


男「らしい?」


少女「ええ、私その頃はまだ4歳だったの」


男「ああ、そりゃあ仕方ないか」


少女「どうして人が居なくなったんでしょう」


男「わかんねえ」


男「そもそも、おれがなぜ生き残ってるのかだってわかんねえよ」




少女「私と一緒に暮らしていた人は……」


少女「ウイルスとか、核実験を疑っていましたけれど」


男「ああ」


少女「結局原因はよくわからないままです」


男「うーん」


男「ウイルスはともかく、核実験はないだろうな」


少女「どうして?」


男「だって動物はみなピンピンしているし」


少女「ええ」


男「おれたちに抗体がある理由もないだろ」


少女「私たち、普通の人間ですもんねえ」


男「それは会ってみねえと分かんねえけど」


少女「ちょっと!! 私は普通の人間です!! DJさんこそロボットだったりしませんよね!?」


男「ロボットは服屋でパンツを買わねえだろ!!」


少女「それもそっか」




男「放射線に抗体がある人間もまれにいるらしいが」


少女「それが私たち?」


男「うーんよくわからん」


男「医者も科学者も、いないからな。根拠はなにもないよ」


少女「ですよねえ」


男「一緒に住んでいた人は、どうして亡くなったの?」


少女「病気です」


男「なんの?」


少女「ううん、全然わからないの」


男「そうか」


少女「毎日看病したけれど、治す手立てもなくて」


男「……そうか」




少女「ウイルスは? 可能性がありますか?」


男「なくはない……かな」


少女「そう」


男「それなら、そのウイルスを作ったやつらはきっと生きてるんだろうな」


少女「あ、そうか」


男「それにウイルスってのは、ワクチンとセットでないと作られないし……」


少女「どういうこと?」


男「治すことができなければ、万一自分たちが感染したときに死んでしまうだろう」


少女「そっか、じゃあ失敗したのかしら」


男「かもしれないな」


少女「でも、じゃあ、なんで私たちは生きているの?」


男「偶然抗体があったのか……」


少女「ラッキーね、私たち」


男「はっはっは!! 最高にアンラッキーとも言えるがな」




少女「死体を見たことはある?」


男「ない」


少女「私もないの」


少女「お父様やお母様、お兄様がいたはずなのに、どこにもいないの」


男「……いや、ちょっと待て」


少女「え?」


男「赤ん坊の死体なら……見たことがある」


少女「!!」


男「それも何人も……」


男「怖くなって逃げ出したし、忘れようとしていたけど……思い出した」




少女「でもそれっておかしくない?」


男「人体を溶かすウイルスかもな」


少女「……怖い」


男「ま、今更原因を探ってみたところで、答えが見つかるわけもなし」


少女「そうね」


男「もっと楽しい話をしようぜ」


男「せっかくの記念日なんだから」


少女「記念日?」


男「人間との再会記念日だ、おれのな」


少女「うふふ、そうね」




男「あ、でも待ってくれ」


少女「え」


男「あんまり長い間はお喋りできないんだ」


少女「どうして?」


男「発電装置は一応あるんだが、一日に使える量は多くないんだ」


少女「ああ……そうか」


男「君のところのラジオはどうなってるの」


少女「えっと……わからないの」


少女「発電装置は昔からあるものだし……」


男「そうか」




少女「じゃあ、また明日、同じ時間にお喋りしましょう?」


男「ああ、それがいい」


少女「時間はたっぷりあるんだもの、ね」


男「はっはっは、そりゃそうだ」


少女「私もお買い物、したくなっちゃったなあ」


男「おれは農作業がしたくなったよ」


少女「ないものねだりですね、お互い」


男「そうだな」


少女「ふふ、じゃあまた明日」


男「ああ」




……


カランカラン


男「やあ」


男「……今日は、あんたに報告があるんだ」


店員「……」


男「今日さ、初めておれ以外の人間に会ったんだ」


男「あ、会ったって言っても、声を聞いただけなんだけど」


店員「……」


男「おれ、おれ、嬉しくてさあ」


店員「……」


男「今までありがとうな、おれの相手してくれて」


店員「……」


男「はは、もう喋ってくれないか……」




店員「……」


男「倉庫の方に移動させるよ」


店員「……」


男「よっと……」グイ


ゴロゴロ


男「服は、このままでいいかな」


男「今までありがとう」


男「って言っても、また服はもらいに来るけど」


男「じゃあ、な。ゆっくり休んでくれよな」


店員「……」


バタン


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る