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「相手の方はどうしているの?」
「もう退院して、実家の方でリハビリしてるらしいです。」
「そう。タツキも馬鹿ね。帰れる実家もないくせに。」
「ほんとに。」
ひどくうつくしいその女性は、病院にはそぐわない胸元の大きく開いた赤いワンピースを着こなしていた。多分、タツキのセフレなのだろう。病院までやってくるのだから、セフレ筆頭と言ったところか。
「あなた、美晴さん?」
「はい。……あの、どちらさまですか?」
「紫苑と申します。タツキからあなたのお話は伺っていたから。」
聞き覚えのある名前ではなかったから、私は曖昧に頷くしかない。
タツキは白い顔で眠り続けている。疲れているのね、と看護師さんが言っていた。今タツキは、一日のほとんどをこんこんと眠り続けているらしい。ここ一週間毎日見舞いに来てはいるものの、まだ目を開けているタツキと会えていなかった。
「もう、全部いやになっちゃったのかしらね。」
紫苑さんはタツキの前髪をそっとかきあげ、形のいい額に手のひらを乗せた。私はやはり曖昧に頷き、帰宅する適当なタイミングを見計らいはじめた。タツキを好きなのであろうこの人の前に立っているのはつらかった。私が余計なことを言わなければ、タツキはこんな状態にはならなかったはずだ。
「目が覚めたら、どうするつもりなのかしら。」
その答えは私も持っていなかった。
あんなに縋りついた恋を失ったタツキは、この後どうするつもりなのだろうか。
分からない、と素直に言うと、紫苑さんはタツキの額から離した手で私の頬をするりと撫でた。冷たい手のひらだった。タツキの額もきっと冷たいのだろう。
「美晴? 紫苑さん?」
枯れた声が私と彼女を呼んだ。枯れた、心細げな声が。
「タツキ!」
私はベッドの上に乗りあがるような姿勢になってタツキの目の中を覗き込んだ。とっさに出たその行動は、明らかに高宏のくせの模倣だった。こうやって目の中を見たところで、タツキの頭の中が覗けるわけではないと知っているけれど。
タツキが心中したと知った高宏は、やはりこうやって私の目の中を覗き込んだ後、はるちゃんのしたいようにしたらいいよ、とだけ言った。
タツキは私の目をふんわりと見返す。まだ焦点の定まりきっていない、少しぼやけた眼差しをしていた。
「ごめん。」
「……うん。」
「もうしない。」
「当たり前。」
「俺……、」
「うん。」
「大丈夫だよ。もう。」
「うん。」
なにが大丈夫なのかなんて全然わからないまま、私はタツキの頭を抱え込んで泣いた。子供の頃でさえこうは泣かなかったぞ、と断言できるくらいに大声を上げてわんわん泣いた。
タツキは泣き喚く私の髪を撫でていてくれた。気が付くと紫苑さんはいなくなっていて、眩しかったコバルトの陽気も夕暮れの色に沈み始めていた。
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