迷った挙句、結局タツキは私に本命の男を見せることに決めた。こんなにもうつくしいのに、不思議なくらいタツキは自分に自信がないのだ。私みたいな水商売しか知らない女の浅知恵にもすがりたくなるくらいに。頻繁にセックスをしていた数年前もそうだったけれど、あの頃はまだタツキも若かった。はたちを幾らか越えたばかりだったのだ。その頃ならまだしも、誰もが羨むような美貌の持ち主でありながら、今になってもまだここまで自分に自信がないのはいっそ不思議だった。

 「店に、今日も来るはずですから。」

 タツキは言葉少なに言い、6時過ぎくらいに来てください、と私のスマホで店の地図を検索して軽く道順を説明すると、もう出勤時間だから、とベンチを立った。

 「素人っぽい格好してった方が良いわね。」

 何気なく言うと、タツキはくるりと振り返って私の足先から頭までをさらりと視線で撫でた。真っ赤なピンヒールに黒いタイトドレス、派手な茶色い巻き髪。

 「素人っぽくしたって、紫苑さんは目立ちますからね。きれいで。」

 それはあんた自身のことだろう、と少しばかり呆れる。私は化粧と服装で繕ってなんとか若さやうつくしさを演出しているけれど、タツキにはそれがない。

 駅ビルに入って、白いシャツとひざ丈の黒いスカートなど買ってみる。似合わないのは分かっていても、鏡に映る自分が急激に老けたようで少し不安になる。いつまでもきれいではいられない。それは私もタツキも同じはずなのに。

 タツキが喫茶店に勤めているのは知っていたけれど、勤務先の場所を知ったのは初めてだ。駅から歩いて5分ちょっとの場所にある、一見ではちょっと入りづらいような重い木製の扉を開けると、正面のカウンターの中にタツキがいた。白いワイシャツに黒いエプロンがおそろしく似合っている。

 「こちらのお席にどうぞ。」

 タツキは私の服装にはもちろん触れずに、淀みのない仕草で2人がけのテーブル席に通してくれた。メニューを開くのもおっくうで、アイスコーヒーを、と頼むと軽く頷いたタツキは、あの人、と斜め前のテーブル席に座る男をこっそり示した。

 私は小さく頷き返し、スマホを見るふりをしながらその男に視線を注ぐ。見たところ、ごく普通の男だ。地味ではあるが醜くはないし、だからと言って容姿端麗というわけでもない。

 若干不安そうな顔をしたタツキがアイスコーヒーが持ってきてからも、私はストローを咥えつつその男を眺め続けた。

 男を見る目にだけは自信があった。もう長いこと男で飯を食っている。

 そしてそのタツキの本命だとかいう男は、どう見てもたちのいい男ではなかった。


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